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ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330 (300h)
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意外なことに、生まれながらにしてピアノ演奏の天才モーツァルトがピアノ独奏用のソナタを作曲し始めたのは実際はかなり遅く、19歳になってからだった。 それは1775年初め、ミュンヘンの選帝侯マクシミリアン3世から作曲を依頼されていたオペラ・ブッファ『偽の女庭師』(K.196 )を上演するためにミュンヘンに滞在していたときのことで、デュルニッツ男爵の要望にこたえて書いた6曲、すなわち第1番ハ長調(K.279 / 189d)、第2番ヘ長調(K.280 / 189e)、第3番変ロ長調(K.281 / 189f)、第4番変ホ長調(K.282 / 189g)、第5番ト長調(K.283 / 189h)、第6番ニ長調(K.284 / 205b)である。 ただし、近年の研究で、最初の5曲はザルツブルクで作曲され、最後のニ長調(K.284)のみがミュンヘンでデュルニッツのために書かれたと思われているが。
これら6曲のソナタは驚くほど長いあいだ、名手としてのモーツァルトのレパートリーとして十分役立っていた。 比較的貧弱なものもそうだった。 彼は1777年、78年のマンハイムとパリへの大旅行のおりに、何度もこれらの曲をいっしょに演奏している。 しかしほかならぬマンハイムで彼はレパートリーをひろげる必要を感じ、1777年11月から1778年晩夏にかけて、7曲の新しいソナタ(K.309、311、310、330、331、332、333)が生まれる。このうち、ハ長調(309)とニ長調(311)の2曲はマンハイムで書かれたとし、それぞれ K.309→284b、K.311→284c と位置づけ、またイ短調(K.310)、ハ長調(K.330)、イ長調(K.331)、ヘ長調(K.332)の4曲はパリで書かれたとし、それぞれ K.310→300d、K.330→300h、K.331→300i、K.332→300k に位置づけられた。 ヴィゼワとサンフォワの「これら4曲はパリの様式を表していて、パリでしか書けない作品だ」とする説をアインシュタインが採り入れた結果である。 それはちょうど1778年夏、母マリア・アンナが死去した頃であり、かつてはそのことと関連づけてこれらの作品を解釈しようとしたこともあった。 このような位置づけは近年まで踏襲され、たとえば 1970年のオカールの本でも K.330 から K.333 までの4つのソナタはパリで作られたとしている。 しかしその後主観的な様式研究に対する批判が起こり、自筆譜を根拠とする実証的研究(すなわちプラートによる筆跡研究とタイソンによる紙の研究)が進んだお陰でこれらのソナタの位置づけが大きく変更されることになった。 プラートにより「早くても1780年夏の作」とされ、さらにその後、タイソンにより「1783年のウィーンかザルツブルクで作曲」とされたのである。 その結果、3曲(ハ長調 K.330、イ長調 K.331、ヘ長調 K.332)は、1784年6月9日にザルツブルクの父に宛てた手紙に書かれている[アインシュタイン] p.334
ところで、アルターリアから出版するために、クラヴィーアだけのための三つのソナタを渡したところです。 お姉さんに以前送ったものですが、最初のはハ長調、二番目がイ長調、三番目がヘ長調です。という内容とも符合し、1784年にウィーンのアルタリア社から「作品 VI」として出版されたという事実と一致することになった。 現在は、オペラ『後宮からの逃走』(K.384)の近くに位置づけられ、アインシュタインによるケッヘル第3版の二重番号 K.300h、K.300i、K.300k はまったく意味がなく、改めて300番の終りか400番の初めに位置づけを変更しなければならない。[書簡全集 V] p.513
この頃は、モーツァルトはコンスタンツェと結婚したばかりであり、予約演奏会やらピアノの個人指導やらで忙しく寝る暇もなかった。 ザルツブルクの父へ次のように書き送っている。
1782年12月28日おそらくこの3曲のピアノソナタはモーツァルトが弟子たちの教材として、また同時に出版による収入(2フローリン30クロイツァー)を当て込んで作曲したのだろう。
あまりにもやることが多いので、ときどきなんだか頭がおかしくなることがあります。 毎日、御前中はレッスンをして2時までかかり、それから昼食をとります。 食後は、ぼくの胃袋ちゃんに小一時間、消化のひまを与えてあげなくてはなりません。 それで、唯一、夜だけが作曲できる時間です。 しかも、それだって確かとはかぎりません。 演奏会に出演を頼まれることがよくあるからです。同書 p.313
1780年代のウィーンの文化が、ただ貴族たちだけの手によって牛耳られていたと思うのは早計で、大事な事実を見逃すことになろう。 つまりウィーンのブルジョワ層の擡頭である。 たとえば、晩年のモーツァルトによく金を貸してくれた銀行家のミハエル・プフベルクのような熱心なアマチュア音楽家もいる。 階級はどうであれ、女の子たちは楽器や歌を習わせられたので、貴族の子女でなくとも、そういう技芸の上手な者たちがいた。ところで、このハ長調ソナタについて、アインシュタインはイ短調ソナタ(K.310)と比較して次のように感想を述べていた。
(中略)
楽譜の出版は有名なアルタリア家によって盛んになり、それまでの流通手段であった「写譜」の仕事を大幅に奪ってしまっていた。 そして楽譜の出版が盛んになったことは、作曲家の作品をも変えることになった。 つまり、出版目当てに作品を書いて金を手にすることができるようになったわけである。[ランドン] p.98
ハ長調の方はイ短調ソナタより「軽い」ように見えるが、イ短調ソナタ同様、あらゆる音の「座りがよい」傑作であり、かつてモーツァルトが書いた最も愛らしいものの一つであって、アンダンテ・カンタービレの影も明るくなり、雲ひとつない清澄さに変っている。 フィナーレの第2部が単純な小リートではじまるときには、とりわけ人の心をひきつけるものがある。ただし、このハ長調ソナタの位置付けが大きく変ったため、アインシュタインが「イ短調はモーツァルトにとって絶望の調性である」と前置きしたうえ、イ短調ソナタに対して「もはや社交性のない、きわめて個人的な表現」とみなし、「モーツァルトは再び内面的に自由になるためにハ長調ソナタを書いた」とする対比そのものに少し無理が生じることになった。 したがって、上の感想は割り引いておかないとならないだろう。[アインシュタイン] pp.336-337
〔演奏〕
CD [COCQ-84579] t=18'10 クラウス (p) 1950年 |
CD [PHILIPS PHCP-1308] t=17'51 ハスキル Clara Haskil (p) 1954年5月5〜6日 ※モノラル録音 |
CD [PHILIPS PHCP-9598] ハスキル Clara Haskil (p), 同上 ※この演奏は PHILIPS社からさまざまな形で配給されている。 まとまったものとして、「クララ・ハスキル・エディション1」[PHCP-10171〜77](7枚組)がある。 |
CD [DECCA UCCD-7023] t=11'34 バックハウス Wilhelm Backhaus (p) 1961年10月 |
CD [PHILIPS 17CD-8] t=17'07 ヘブラー Ingrid Haebler (p) 1963年9月 |
CD [SONY SRCR 2625] t=11'17 ; 3'20 (2) 4'31 (3) 3'26 グールド Glenn Gould (p) 1970年 |
CD [DENON CO-3859] t=15'19 ; (1) 6'25 (2) 4'59 (3) 3'55 ピリス Maria Joao Pires (p) 1974年1〜2月、東京イイノ・ホール |
CD [PHILIPS PHCP-10371] t=17'55 内田光子 UCHIDA Mitsuko (p) 1984年5月 |
CD [ACCENT ACC 8851/52 D] t=19'48 ヴェッセリノーヴァ Temenuschka Vesselinova (fp) 1990年2月 Vereenigde Doopsgezinde Kerk, Haarlem (オランダ) ※アウクスブルクのシュタイン・モデル(1788)によるケレコム製(1978)フォルテピアノで演奏。 |
CD [MEISTER MUSIC MM-1020] t=19'10 岩井美子 IWAI Yoshiko (p) 1996年1月5〜6日、神奈川伊勢原市民文化会館 |
CD [KKCC-524] t=17'44 シュタイアー Andreas Staier (fp) 2004年3月、ベルリン |
〔動画〕
〔参考文献〕
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