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ピアノ・ソナタ 第2番 ヘ長調 K.280 (189e)
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完成された18曲のピアノ・ソナタのうち最初の6曲は「ミュンヘン・ソナタ集」あるいは「デュルニッツ・ソナタ集」と呼ばれることがある。 これはその第2番にあたる。 このソナタ集は、チェンバロに代わってフォルテピアノという楽器が登場し始める頃の曲で、その楽器の可能性に対する大きな関心から生まれた。 2年後のアウクスブルクからパリへの旅行でも、この6曲をよく演奏していたという。
1777年10月17日、アウクスブルクからザルツブルクの父へこのソナタ集のお手本となったかもしれないものがあり、それはハイドンが1773年に書いて、1774年にウィーンで「作品13」として出版した6曲から成るソナタ集である。 モーツァルト父子が3回目のウィーン旅行をしたのは1773年の7月から9月にかけてであり、その間にハイドンのソナタと出会ったという確証はないが、アインシュタインは「モーツァルトがウィーン滞在中によく知っていたかもしれない」と言っていて、モーツァルトとハイドンの2組のソナタ集の関係は定説となっているようである。 久元も「個々の作品を見ると、ハイドンとの類似点はいくらでも発見することができる」として、「研究し、参考にしたことは明らかだと思う」と結論づけている。 そのうえで具体的にハイドンの作品と比較している。
ぼくは当地およびミュンヘンで、自作の6曲のソナタをほんとにたびたび暗譜で演奏しました。 そのト長調の第5曲は、例の田舎貴族たちの演奏会で弾きました。 最後のニ長調の曲は、シュタインのピアノ・フォルテで、比較にならないほどよく響きました。[書簡全集 III] p.151
次の『ヘ長調第2番K280』も同じ調の『Hob.XVI-23』がモデルとなった。 全体の構成もよく似ており、とりわけ第2楽章は、同じヘ短調で書かれているだけでなく、どちらも8分の6拍子、テンポはアダージョとなっている。 テーマもよく似ており、どちらも哀感がこもった美しいシチリアーノ風の旋律である。さらにモーツァルトはこの哀感こもった美しいシチリアーノをのちに再現して見せている。[久元1] pp.158-159
この楽章は後年の名作、イ長調KV488のピアノ協奏曲の第2楽章を思い起こさせる。 この第2楽章はアダージョで嬰ヘ短調、6/8拍子。 やはりシチリアーノ風の旋律が使われている。 モーツァルトが書いた最も美しいアダージョとされることが多いが、KV280の第2楽章は、19歳のモーツァルトがすでにこの美学を体現できていたことを示している。モーツァルトの短調あるいは緩徐楽章によく現れる哀愁あふれた情感に心奪われる人が多いが、特にこのソナタのようにシチリアーノ風の旋律が使われているときはなおさらである。 このような作品がモーツァルトの手で書かれた背景には、やはり演奏楽器の革命的な変化とそれに伴う音楽表現の研究があったからである。 バロック音楽の時代、[久元2] p.161
そこには、古典派にみられるような漸強(クレッシェンド)、つまり弱奏(ピアノ)からすこしずつ音色をふやして強奏(フォルテ)にいたるとか、その逆の漸弱(ディミヌエンド)といった連続的な変化はない。 音楽は、強(フォルテ)と弱(ピアノ)との間を断続的に、あるいは断層的に移り変わるのである。モーツァルトがこの新しい鍵盤楽器にすぐさま飛びつき、その性能を認め、そして音楽表現の可能性をとことん探求しようとしたことは言うまでもないであろう。 あれほどの早熟の天才モーツァルトが、しかも鍵盤楽器の演奏について数々の驚愕すべきエピソードを残していたにもかかわらず、ピアノソナタのジャンルの作品を1775年(19歳のとき)になってから書き始めたことについてアインシュタインは
(中略)
たとえば、イタリア語でチェンバロと呼びならわされている鍵盤楽器には2段の鍵盤があって、ひとつの鍵盤はどんなに強く指で押しても弱音しか奏せないし、もうひとつの鍵盤ではその逆となる。
演奏者はこの2つの鍵盤を使いわけて、強と弱との対比を作りだすのであって、その中間のニュアンスというものは、この楽器には存在しない。 これを改良し、強も弱も、そして強奏(フォルテ)も漸弱(ディミヌエンド)も、奏者の意のままに連続的にひきこなせる楽器─名前もその機構にふさわしくピアノフォルテ、略してピアノが一般的にひろくうけいれられるようになったのは、バロック期をすぎて古典派の時代に入ったころ、18世紀後半のことであった。[皆川] pp.47-48
モーツァルトははじめのうちはピアノ・ソナタまたは変奏曲を書きとめる必要を感じなかったが、それは、彼がそういう曲を即興演奏したからである。 だから、1766年のはじめハーグで出版された変奏曲(K.24, 25)は、天才児の即興演奏の公開された記録にほかならない。 ごく僅かあとの数曲のソナタは、一時は姉が所有していたが、失われてしまった。 四手のための作品はどうしても書きとめられなくてはならないので、そういう数曲の作品だけが書きとめられている。 1765年のソナタ(K.19d)、1772年のソナタ(K.381)、1774年のソナタ(K.358)である。 これら三曲ともに姉と彼自身による演奏のためのものである。というもっともな説明をしているが、フォルテピアノという楽器の登場と出会いが大きく影響していることは間違いない。 しかも第2作にして、表面的な可能性にとどまらず、深々とした哀感のこもった内面的な表現をその楽器を用いて描いて見せたのである。 この「ミュンヘン・ソナタ集」のお手本と言えるもう一つの作品がある。[アインシュタイン] p.329
モーツァルトが親近感を抱いていたのは、ハイドンではなくヨハン・クリスティアン・バッハの作品だった。 このバッハの末の息子がモーツァルトに与えた影響は、シンフォニーの分野でも見られるが、ミュンヘンで作曲された6曲のピアノ・ソナタを弾いていると、この分野においてもはっきりしていると言っていいように思う。 モーツァルトがお手本にしたのは、1768年に出版されたヨハン・クリスティアン・バッハの『作品5』の曲集である。 『作品5』の曲集はピアノフォルテで演奏されることが明記されており、この新しい楽器を想定して作曲された、もっとも早い時期の作品であることでも知られている。モーツァルトがフォルテピアノと実際に出会ったのは、オペラ『偽の女庭師』の上演のためにミュンヘンに滞在していた1774年12月から1775年2月の間であり、またそのときクリスティアン・バッハの作品集を知ったのかもしれない。 父レオポルトが、ハイドンやクリスティアン・バッハのお手本に勝るとも劣らない、この最新の鍵盤楽器のためのソナタ集を息子に急いで書かせたのかもしれない。 その後2年間、モーツァルトはこの分野の作品に手を出していないが、1777年10月、アウクスブルクでシュタインの優れた楽器と出会い、強い感銘を受ける。 そして本気で(今度こそ自発的に?)ピアノソナタを書き始めるが、その最初になるのが「第7番ハ長調 K.309」である。[久元] p.63
なお、このソナタのシチリアーノ風の旋律については、バッハの「フルート・ソナタ変ホ長調 BWV1031」の第2楽章を思わせるとも言われている。 余談であるが、このフルート・ソナタはエマヌエル・バッハの手で大バッハ作曲と記された写譜で伝わっているが、曲の様式は大バッハのものとかけ離れていることから「真作ではまずあり得ない」(小林)と見られている。
〔演奏〕
CD [PHILIPS PHCP-10173] t=12'04 ハスキル Clara Haskil (p) 1960年3月7日、ルツェルン |
CD [UCCG-4113] t=12'04 ※上と同じ |
CD [CBS SONY 30DC-738] t=10'11 グールド Glenn Gould (p) 1967年 |
CD [DENON CO-3857] t=11'11 ピリス Maria Joao Pires (p) 1974年、東京イイノ・ホール |
CD [PHILIPS 28CD-3178] t=14'01 内田光子 (p) 1987年7月、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール |
CD [DENON CO-3202] t=13'38 ヘブラー Ingrid Haebler (p) 1988年10月 |
CD [ACCENT ACC 8849/50D] t=18'30 ヴェッセリノーヴァ Temenuschka Vesselinova (fp) 1988年5月、イタリア、Castello Grimani Soelini ※1795年頃に製作されたフォルテピアノで演奏 |
CD [RCA BVCC-131] t=13'20 デ・ラローチャ (p) 1990年 |
CD [BVCD-38168〜69] t=18'37 レヴィン (fp) 2005年11月 |
CD [ALCD-9089] t=13'57 久元祐子 (fp) 2009年6月 |
〔動画〕
〔参考文献〕
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