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ピアノ・ソナタ 第9番 ニ長調 K.311 (284c)
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1777年9月23日、母と二人で就職活動のためザルツブルクを出発し、波乱に富んだ「マンハイム・パリ旅行」が始まる。 10月、父の故郷アウクスブルクへ行き、そこで重要な2人の人物と会う。 その一人は有名なベーズレであり、もう一人はクラヴィア職人シュタインである。 シュタインのフォルテピアノを知って、その優れた性能に驚き、父に
1777年10月17日と伝えている。 そして、新たな霊感を得て、この旅行中に3曲のピアノ・ソナタ(ハ長調 K.309、ニ長調 K.311、イ短調 K.310)を書いた。 そのうち、このニ長調の曲は、 1774年のミュンヘン訪問のときフォン・フライジンガー家の令嬢ヨゼファから依頼を受けていたが、草稿のままにしていたらしい。 1777年11月5日のベーズレ宛ての手紙に「約束のソナタがまだできていないので送っていないこと」と「できあがったら手紙を添えて(ベーズレに)送るので、それをミュンヘンに送り届けて欲しいこと」が書かれているが、サン・フォワはそのソナタとはこの曲の原作であると推定した。 ただしその推定には疑義もあるという。 推定が正しいとして、さらに、ベーズレ宛ての同年12月3日の手紙でもまだ作曲できていないことが書かれている。 いつ完成したか不明であるが、これら3曲は1782年頃にパリのエーナから「作品 IV」として出版されている。 その版には大量のミス・プリントがあるという。 またその海賊版が1784年にマンハイムのゲッツから出版された。
シュタインの仕事をまだ見ていないうちは、ぼくはシュペートのピアノがいちばん好きでした。 でも今ではシュタインの方がまさっていると言わざるをえません。 この方がレーゲンスブルク製のものよりも、いっそう共鳴の抑えが利くからです。 強く叩くと、指をのせておこうと離そうと、鳴らした瞬間に、その音は消えてしまいます。 思いどおりに鍵盤を打っても、音はいつも一様です。 カタカタするとか、強くなるとか弱くなるとかということはなく、まして音が出ないなどということはありません。 一言で言えば、すべてが一様なのです。[手紙(上)] p.70
エーナ(Franz Joseph Haina, 1729-90)はプラハ近郊に生まれ、フランツ・ヨーゼフ・ハイナという名前であったが、1764年(35歳)パリに移り住み、フランソワ・ジョゼフ・エーナと名乗った。 宮廷楽団でヴァルトホルンを演奏するかたわら、楽器商と楽譜出版業を営んでいた。 モーツァルトと母アンナ・マリアは1778年のパリ滞在中に彼の世話になったことが知られている。 そのエーナからモーツァルトは1778年に「フィッシャー変奏曲 K.179」なども出版している。
3部作「作品 IV」のうち最初の2つ(ハ長調 K.309、ニ長調 K.311)は成立の時期からも作曲技法の点でも双子の作品と言われている。 アインシュタインが
このソナタ全体がハ長調ソナタと一対になる作品のようである。 2つのソナタにおいては、楽器の中音部が新しく鳴りはじめる。 どちらのソナタにおいても左手はもはやただの伴奏でなく、対話の重要なパートーナーである。 両ソナタともコンチェルト風である---モーツァルトはこれらを自分のむずかしいピアノ・ソナタに数え入れている。 一般的にいって、モーツァルトの一見きわめて簡単なピアノ曲でも非常に演奏がむずかしいのであるが、両ソナタはたしかに特にむずかしい。と評しているように、モーツァルトはシュタインのフォルテピアノによってまったく新しい表現方法を発見し、即座に作品化したのである。 さらにまた滞在地マンハイムでカンナビヒ率いる優れた音楽家たちとの交流があったことも大きかった。 そこにはモーツァルトが共感できる演奏家たちが多くいたのである。[アインシュタイン] p.335
1777年11月22日このような環境にあって、モーツァルトが最高のものを作ろうとしたのは当然である。 こうして「手法はより洗練され、またその色彩はより多彩になった」二つのピアノソナタが生まれた。 そのうちニ長調ソナタ(K.311)は、第1楽章がシンフォニエッタのスタイルで、第3楽章がコンチェルト風に書かれている。
フレンツル氏がヴァイオリンで協奏曲を弾くのを聴いて、楽しみでした。 この人はぼくにたいへん気に入りました。 ご存じのとおり、ぼくはむずかしいことはあまり好きじゃありません。 この人はむずかしいものを弾いていますが、だれもそれがむずかしいものだとは分かりません。 だれでもすぐまねができると思います。 そして、それこそ本物なのです。 この人は非常にきれいな、円みのある音を出し、一つも音を抜かさないので、全部きこえます。 全部がきわ立っています。[手紙(上)] p.89
反復の仕方にもよるが、第1楽章よりも第2楽章が、第2楽章よりも第3楽章が長く、終楽章に重点があり、しかも終楽章のカデンツァを目指して進んでいく。 モーツァルトはこの楽章で、これまでんピアノ・ソナタでは行わなかったような実験をしており、それは見事に成功しているように思える。そのカデンツァは久元祐子『モーツァルトのピアノ音楽研究』「本」を「音」に(sound10)で聴くことができる。[久元] p.85
〔演奏〕
CD [BVCC 38393-94] t=19'16
ランドフスカ Wanda Landowska (p) 1955-56年、アメリカ、コネチカット州レイクヴィル |
CD [CBS SONY 30DC-738] t=12'19
グールド Glenn Gould (p) 1968年7月 |
CD [DENON CO-3859] t=15'48
ピリス Maria Joao Pires (p) 1974年1・2月、東京イイノ・ホール |
CD [PHCP-10371] t=14'58
内田光子 (p) 1985年2月、ロンドン |
CD [ACCENT ACC 8851/52D] t=17'16
ヴェッセリノーヴァ Temenuschka Vesselinova (fp) 1990年2月、オランダ、Haarlem ※ケレコム製フォルテピアノ(1788年シュタインのレプリカ) |
CD [ALM ALCD-9075] t=17'02
久元祐子 (p) 2007年4月、茅野市民館 |
〔動画〕
[http://www.youtube.com/watch?v=1jO4OFN_Srw] (1) t=6'22 Friedrich Gulda |
[http://www.youtube.com/watch?v=SzzK7Ikef0Q] (1) t=4'19 [http://www.youtube.com/watch?v=UGd3dIkuQew] (2) t=4'52 [http://www.youtube.com/watch?v=mIZ53GcxwEo] (3) t=5'58 Mitsuko Uchida |
[http://www.youtube.com/watch?v=VLBWndHMdpw] t=14'38 仲田みずほ 2009年 |
〔参考文献〕
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