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ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191 (186e)
〔作曲〕 1774年6月4日 ザルツブルク |
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1774年12月6日、18歳のモーツァルトはオペラ『偽の女庭師』(K.196)の上演のために父とミュンヘンへ出発した。 それはモーツァルトにとって2度目のミュンヘン旅行であった。 オペラは翌1775年1月13日、ミュンヘンのザルヴァートル劇場で初演され、大成功だった。 しかし、歌手の病気などもあって、合計3回上演されるにとどまり、モーツァルトの人気は長続きせず、これといった成果もなく父子はザルツブルクに引き上げて来ざるを得なかった。 ザルツブルクに帰るのは1775年3月であったが、それまでのミュンヘン滞在中にデュルニッツ男爵(Thaddäus von Dürnitz, 1756 - 1807)という人物と出会ったことで、モーツァルトにとって記念すべき作品群が生まれることになった。 その一つは最初の6曲のピアノソナタであり、もう一つは最初の管楽器協奏曲となるファゴット協奏曲である。 男爵はファゴットの演奏に長じた音楽愛好家で、そのための作曲をモーツァルトに求めたものと思われる。 そのとき「ソナタ 変ロ長調」(K.292)と3曲の「ファゴット協奏曲」(消息不明)を書いたが、この機会に(既に作られていた)この曲も男爵の手に渡ったのかもしれない。 それらのファゴットのための作品は男爵の遺品に含まれてあったと伝えられているが行方不明であり、現存するのは、真作かどうか疑問視されている断片(K.196d (Anh.230))と、このファゴット協奏曲だけである。 このようなわけで、この作品は貴重な一品であるのは当然だが、さらにまた、古今東西唯一の「ファゴット協奏曲」と言っても過言でない。 他にはヴィヴァルディと現代作品にいくつかあるだけで、モーツァルトの作品に比べるべくもない。
以上のいきさつから、このファゴット協奏曲は、ミュンヘンのデュルニッツ男爵のために書かれたとされているが、作曲されたのは6月4日であるので、ミュンヘンへ旅立つ前、ザルツブルク宮廷楽団のファゴット兼オーボエ奏者シュルツ(Johann Heinrich Schulz, 1716?-90)またはザントマイヤー(Melchior Sandmayr, 1728?-1810)のどちらかのために作られていたのであろう。 そのように推測するヘルヤーは次のようにこの作品の独自性を賞賛している。
この協奏曲は、音域と音量に限界のある楽器(ファゴット)に対して、モーツァルトがいかにオーケストラ伴奏の使い方の点で熟練しているかを証明している。 独奏楽器の欠点を補うために、叙情的な特性、敏捷性、音色の豊かさ、ユーモア、そして幅広い音程飛躍が可能であるといった長所を非常に積極的に受け入れることができた。 こうして、まさにファゴットという楽器固有の協奏曲が書き上げられた。 (そのことを、この曲をチェロ協奏曲に編曲しようと試みたチェリストならばだれでも躊躇なく証言するだろう。)アインシュタインもこの作品は「ファゴットのための純正なコンチェルト」であると高く評価している。[全作品事典]p.194
残念ながらモーツァルトが全く継子扱いにしたか、あるいは全然念頭にもおかなかったチェロなどのために、編曲することは決してできない。 楽器に適切な跳躍と経過句とカンタービレ的性格を持つ独奏部は、はじめから終りまで、悦びと愛とをもって書かれているが、このことはとりわけ、オーケストラが生き生きとして関与するところで明示されている。[アインシュタイン]p.385
この曲が作られたのはイタリア旅行(1772年10月〜73年3月)そしてウィーン旅行(1773年7月〜12月)から帰郷した時期であり、旅先で受けた刺激・様式を随所に取り入れているといわれている。 また、1773年から77年にかけてはモーツァルトが「ギャラントリー」に転向していたといわれる時期であり、この曲はその傾向をいち早く示す記念碑的な作品となっている。 変ロ長調という調性は特にファゴットに向いているといわれ、モーツァルトが18歳でこの楽器の性能を把握したことは驚くべきことである。 ただモーツァルトは、演奏者の必死な形相にもかかわらず少しとぼけた親しみのある音色をもつこの楽器が幼い頃から好きだったこともあり、この時期に協奏曲を完成できたことが後のオペラや交響曲における極めて性格的な書法に役立った。 たとえば、おしゃべりなパパゲーノが口に錠をかけられ、必死に言葉にならない声を発するとき、この楽器が見事にそれを代弁したりする。
第2楽章冒頭のメロディーは8歳のときのノート(K.15mm)に見られ、さらに後に『フィガロ』の中の「愛の神よ」となって再現する。 フィナーレのロンド形式のメヌエットはヨハン・クリスチャン・バッハをまねたものとも言われているが、独奏ファゴットに手の込んだ変奏を次々と与えることで、この楽器の様々な側面を浮き彫りにする工夫もされている。
出版されたのは遅く、1790年頃、オッフェンバッハとアンドレから初版された。 アンドレがこの協奏曲を出版したときには売行きが良く、4年もしないうちに再版になったという。
〔演奏〕
CD [RCA BVCC-9701] t=16'28 シャロウ (fg), トスカニーニ指揮NBC交響楽団 1947年11月18日、NBC スタジオ |
CD [COCO-78060] t=19'23 ヘルマン (fg), クラウス指揮ウィーン・モーツァルトEns 1987年 |
CD [POCL-5243] t=15'39 ボンド Danny Bond (fg), ホグウッド指揮 Christopher Hogwood (cond), Academy of Ancient Music 1987年1月ロンドン、 Henry Wood Hall ※ファゴットはグレンザー(Heinrich Grenser, 1764-1813)が製作したもの。 |
CD [TELDEC 27P2-2240] t=18'10 トゥルコヴィチ (fg), アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス 1987年3〜4月 ※ オリジナル楽器使用 |
CD [POCG-7061] t=18'52 モレッリ Frank Morelli (fg), オルフェウス室内管弦楽団 Orpheus Chamber Orchestra 1987年12月、ニューヨーク ※カデンツァはモレッリ。 |
CD [PHILIPS PCD-22] t=17'05 トゥーネマン Klaus Thunemann (fg), マリナー指揮 Sir Neville Marriner (cond), Academy of St Martin in the Fields 1988年9月ロンドン ※カデンツァはトゥーネマン |
CD [422 675-2] t=17'05 ※同上 |
CD [CHANDOS CHAN-9656] t=19'08 ポポフ (fg), ポリャンスキ指揮ロシア国立交 1988年 |
CD [ERATO WPCS-11107] t=16'22 ヴァロン (fg), コープマン指揮アムステルダム・バロック管 1993年5月ハールレム、ドープスヘジンデ教会 ※オリジナル楽器使用 |
CD [SONY SRCR 2412] t=18'50 イェンセン (fg), 小澤征爾指揮, 水戸室内管弦楽団 1999年 |
CD [HUNGAROTON HCD 32169] t=19'35 Koji Okazaki (fg), Janos Rolla (cond), Liszt Ferenc Chamber Orchestra, Budapest 2002年8月 |
CD [R30E-1028] t=18'53 オンニュ (fg), グシュルバウアー指揮バンベルクSO 演奏年不明 |
■ファゴット以外での演奏
CD [FINLANDIA WPCS-10204] t=18'04 カトラマ Iorma Katrama (cb), アルミラ指揮 Atso Almila (cond), クオピオ交響楽団 Kuopio Symphony Orchestra 1997年11月、フィンランド、クオピオ・コンサート・ホール ※ コントラバス協奏曲。Edouard Nanny による第2楽章カデンツァはコントラバスを存分に歌わせている。 |
CD [Teldec WPCS-11406] t=16'48 ナカリャコフ Sergei Nakariakov (tp), ソンデスキス指揮 Saulius Sondeckis (cond), リトアニア室内管弦楽団 Lithuanian Chamber Orchestra 2002年2月、リトアニア、ヴィルニュス、Vilnius Philharmonic Hall ※ トランペット協奏曲。低い音はオクターブ上げて演奏。軽く華やかな仕上がりになっているが、演奏は見事。 第1楽章カデンツァは Sergei Nakariakov、第2楽章カデンツァは Vera Nakariakov。 |
〔動画〕
〔参考文献〕
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