Mozart con grazia > クラリネットのための曲 / ホルンのための曲 >
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アダージョ 断片 K.Anh.94 (K.580a)

〔編成〕 cl, 3 basset-hr ?
〔作曲〕 1783-85年、1788-89年 ウィーン?

ハ長調またはヘ長調。 断片 73小節。 2分の2拍子。 変則的なソナタ形式で書かれ、提示部は2つの主題を持ち、展開部を欠く。 作曲された目的、時期、楽器の編成など不明。 もちろんモーツァルト自身による自作目録にも記載なし。

モーツァルテウムが所蔵する自筆譜には、28小節までは4つのパートがすべてモーツァルト自身により書かれてあるが、あとは旋律を奏する声部のみ。 ただし新全集は伴奏声部が書かれていないものの完成されていたと推測。 楽器についてはイングリッシュ・ホルンの記載が(ニッセンの手で)あるのみで、その他の楽器指定はない。 ケッヘル旧版では(イングリッシュ・ホルン以外の3パートを)ヴァイオリン2とチェロとし、第6版ではホルン2とファゴット。 新全集はクラリネットとバセットホルン3としている。 成立時期について第6版では1789年9月の作 K.580a として位置づけていたが、自筆譜の「すかし模様」の考証で著名なタイソン(Alan Tyson, 1926.10.27-2001.11.10)は疑問符つきながら「1788年成立」としている。 また新全集は1783~85年末としている。 それは、このような曲が演奏された可能性を示す以下のような音楽会があったからである。
1785年10月





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「ツー・デン・ドライ・アードラン」と「ツム・パルムバウム」の合同支部からヴィーンのシュヴェスター支部に宛てた招待状
1785年10月15日
二人の外国人同志を支援するために、先頃就職口を求めてヴィーンに来ながら、空しく待たされるばかりで、遂には困難な状況に陥り、ために目下決意した祖国への帰還もままならぬ事態になったバセットホルンの二人のヴィルトゥオーゾを支援するために、ツー・デン・ドライ・アードランとツム・パルムバウムの二つの尊き支部は来たる10月20日、木曜日6時半に演奏会を催します。
尊き同志モーツァルトとシュタードラーも演奏します。
[ドイッチュ&アイブル] p.181
よく知られているように、モーツァルトはフリーメーソンのウイーンにおけるロッジの一つである「善行に向かって進む Zur Wohltatigkeit」に入会(1784年12月14日)していたが、クラリネットの名手シュタードラーは上の演奏会が企画される3週間ほど前に「パルムバウム」に入会したばかりだった。 バセットホルンの二人のヴィルトゥオーゾとはダーフィト(Anton David, 1730-96)とシュプリンガー(Vinzent Springer, 1756/57-1800以降)である。 モーツァルトはこの二人を知って以来、作品の中にバセットホルンを頻繁に使うようになったという。
そしてさらに年末にも演奏会があったのである。
「ツア・ゲクレーンテン・ホフヌング」支部からヴィーンのシュヴェスター支部に宛てた招待状
1785年12月9日
二人の同志ダーフィトとシュプレンガーの申し出により□ツア・ゲクレーンテン・ホフヌング支部は12月15日、集会を催します。 その際この二人は他の数人の同志達と共に次のような次第でその和声と音楽芸術を皆様に御披露します。
第1 □支部のためにヴラニツキーが作曲した交響曲の演奏。
第2 二人の同志ダーフィトとシュプレンガーがバセットホルンで演奏する協奏曲。
第3 尊き同志ボルンが編集し同志モーツァルトが音楽をつけたカンタータ、歌はアーダムベルガー
第4 同志モーツァルトの演奏するピアノフォルテのための協奏曲
第5 シュタードラーが6つの管楽器のために起草したパート、同志ロッツも8オクターブの大ファゴットを演奏する。
第6 同志ヴラニツキーがやはり□支部のために作曲した交響曲。
第7 同志モーツァルトによる即興演奏。
同書
このような機会を通して、モーツァルトがクラリネットの名手シュタードラーを中心にして「クラリネットと3つのバセットホルン」のための合奏曲を書こうとしたとしても不思議ではない。 バセットホルンの奏者は当然ダーフィトとシュプリンガーの二人と、シュタードラーの弟ヨハン(Johann Nepomuk Franz Stadler, 1755-1804)ということになるのだろう。 ダーフィトとシュプリンガーは1783年末から1785年末の間にウィーンに滞在していたといわれている。

なお、この曲の冒頭4小節はモテット『アヴェ・ヴェルム・コルプス』(K.618)の冒頭と同じであるとの指摘もある。 また補作として、バイヤー版、シュナイダー・カーミン版などがある。

余談であるが、イングリッシュホルンという名称から、金管楽器のホルンの一種と思われがちであり、このページの編集者(森下)も最初はそのように想像していた。 しかしそれは通常のホルンとはまったく別物であり、その原型は「オーボエ・ダ・ガッチャ(狩りのオーボエ)」にあり、オーボエの仲間であるという。 同じように紛らわしい名前の楽器にバセットホルンがある。 こちらもホルンではなく、クラリネットの仲間である。 どちらも普通のオーボエやクラリネットよりも低い音域が出せることが特徴である。 イングリッシュホルンについては、ホルンに関する内容が充実している池野徹氏のサイトに、以下の説明がある。

イングリッシュホルンあるいはコールアングレという呼び名は、「イギリスの管楽器」を意味するが、実はイギリスとはまったく関係がない。 これは発音あるいはスペルの間違いから生じた。ボーカルが曲がった楽器の形から、「曲がった管楽器」を意味するコール・アングル "Cor Angl" (Angle Horn) と呼ばれ、それが誤って伝わりコール・アングレ "Cor Anglais" (English Horn) になった。 イギリスではコールアングレ、アメリカではイングリッシュホルンと呼ぶのが一般的だ。 「イングリッシュホルンはテナー・オーボエというべき」(レオン・グーセンス)という意見もある。
この楽器の実際の形や演奏はネット上で見ることができる。

  
(右)動画 [https://www.youtube.com/watch?v=ePFIlpBJq1o] から

〔演奏〕
CD [EMI CC33-3640] t=6'56 (ヘ長調)
マイヤー・トリオ Hans Deinzer (cl), Reiner Wehle (bs hr), Wolfgang Meyer (bs hr), Sabine Meyer (bs hr)
1986年6月、ノイマルクト
CD [EMI CMS 7 63810 2] t=6'56 (ヘ長調)
※上と同じ
CD [RVC R30E-1025-8] t=4'41 (ハ長調)
ゴイ Jean=paul Goy (cor ang), ジョルダン指揮ローザンヌ室内管弦楽団(2つのヴァイオリンとチェロ)
1987年頃
※ケッヘル旧版による楽器編成
CD [KKCC-4123-4] t=8'50 (ヘ長調)
オランダ・ソロイスツEns (cl, 3 bs hr)
1992年
CD [CHANDOS CHAN 9284] t=5'07
Schneemann (cor ang), de Boer (cl), Vreugdenhil (cl), Boonstra (bs hr)
1993
CD [GLOSSA GCD 920602] t=5'41
シュタドラー・トリオ Eric Hoeprich (cl), Carles Riera (bs hr), Alf Hoerbrg (bs hr), Albert Gumi (bs hr)
1996年4月、 Iglesia de San Miguel, Cuenca
※Carles Riera 補完
CD [KKCC-2304] t=8'21 (ハ長調)
ベルリン・フィル木管五重奏団 Andreas Wittmann (cor ang), Walter Seyfarth (bs hr), Fergus McWilliam (hr), Henning Trog (fg)
2000年
※ハーゼル Michael Hasel による編曲

〔動画〕

〔参考文献〕

 

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2013/11/24
Mozart con grazia