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歌曲 「おいで、いとしのツィターよ」 K.351 (367b)

〔編成〕 マンドリン伴奏
〔作曲〕 1780年11月8日〜81年3月 ミュンヘン
現在のツィターの演奏 CD[TECC-30064]

ハ長調、8分の6拍子。

ミュンヘン宮廷楽団のホルン奏者で友人のラング(Martin Alexander Lang, 1755-1819)のために作られたマンドリン伴奏によるリートといわれている。 歌詞の内容は、恋を打ち明けられない内気な青年がツィターにその気持ちを託すというものであるが、作詞者は不明である。 ツィターは右の写真のように、共鳴箱に弦を張った民族楽器であり、その響きを模するためにマンドリンを伴奏楽器としたと推定されている。 同じくラングのために書かれたとされている歌曲「満足 K.349」もマンドリン伴奏であるが、そちらはツィターとは関係のない歌であることを考えると、ラングはマンドリンを上手に弾くことができたのかもしれない。

ラングはもとマンハイム宮廷楽団に所属していて、モーツァルトが1777年10月末から翌78年3月までマンハイムに滞在していたときからの知り合いだった。 1780年、ザルツブルク脱出の機会を待っていたモーツァルトは、オペラ「クレタ王イドメネオ」(K.366)上演のためミュンヘンに旅立ち、11月8日に到着した。 その地に翌81年3月まで滞在していたとき、ラングと再会し、彼のために2つの歌曲「満足 K.349」と「おいで、いとしのツィターよ K.351」を作曲したらしい。 成立についてはっきりしたことがわからず、上記のように作曲時期にはばがある。

余談であるが、この作詞者不明の歌詞とモーツァルトの出会いの謎とともに興味が尽きないのはツィターとマンドリンという楽器についてである。 どちらの楽器も今日われわれが見ている形と違うようであるが、18世紀の頃はどんな音色がしていたのだろうか。 ツィターは特にチロル地方で愛好されていたといい、マンドリンはイタリアで生まれた楽器であることから、モーツァルトは父とのイタリア旅行でこれらと出会ったのだろうか。 それとも、ミサ以外のオルガンを用いない小規模の礼拝行事で伴奏楽器として使用され、それはヨーロッパの広範囲で見られると言われているので、モーツァルトにとって特に珍しい楽器ではなかったのだろうか。
ラングは1782年(27才)にマリアンネ・ブーデト(17才)と結婚しているので、想像をたくましくすれば、この歌詞は結婚前の彼の想いそのものであり、もしかしたらラングの作詞かもしれないと考えると、それにこたえるモーツァルト(26才)の心意気がより伝わってくる。
さらに想像をたくましくすれば、ラングのために書いたもう一つの歌曲「満足 K.349」も「日々、神の恩寵を感謝する満ち足りた気持ちを慎ましく歌う」ものではあるが、青年ラングが恋する少女マリアンネとの「平静で満ち足りた生活を夢見た歌」と考えることができる。
ウィーンで自立し、旺盛な音楽活動に突入した若いモーツァルトが「平凡ながらも幸福な人生に満足する」というような年寄りくさい歌をしみじみと歌うのはあまりに不自然である。 むしろそのような性格のラング青年が用意した2つの歌詞に曲を書いてやるついでに、恋のかけひきを指南するモーツァルトの得意気な姿が目に浮かぶようである。

〔歌詞〕
Komm, liebe Zither, komm.
Du Freundin stiller Liebe.
Du sollst auch meine Freundin sein.
Komm, dir vertrau'ich
Die geheimsten meiner Triebe,
Nur dir vertrau'ich meine Pein.
おいで、いとしいチターよ、おいで
お前は、ひそかな愛の友だちだ
僕の女友だちになっておくれ。
さあ、君に打ち明けよう
僕が隠している悩みを、
君にだけ、僕の苦しみを語ろう。
Sag'ihr an meiner Statt,
Ich darf's ihr noch nicht sagen,
Wie ihr so ganz mein Herz gehört
Sag' ihr an meiner Statt,
Ich darf's ihr noch nicht klagen,
Wie sich für sie mein Herz verzehrt.
僕の代りに、あの子にいっておくれ
僕は何もいえないのだ
僕の心はすっかりあの子のものだ、と
僕の代りに、あの子にいっておくれ
僕は悩みを打ち明けることができない
僕の心はあの子のために苦しんでいる、と

石井 宏訳 CD[ARCHIV POCA-2066]

〔演奏〕
CD [ARCHIV POCA-2066] t=2'08
クレプス Helmut Krebs (T), ハートマン Adolf Hartmann (mand)
1956年4月、フライブルク
CD [DENON 28CO-1864] t=2'15
シュライアー Peter Schreier (T), フィーツ (mand)
1975年9月、ドレスデン、ルカ教会
CD [PHILIPS 422 524-2] t=1'47
アメリンク Elly Ameling (S), ルーデマン Benny Ludemann (mand)
1977年8月、オランダ
CD [PHILIPS UCCP-4085/7] t=1'47
※上と同じ
CD [COCO-78062] t=1'58
白井光子 (Ms), ヘル Hartmut Höll (p)
1985-86年、ハイデルベルク
CD [PHILIPS PHCP-1413] t=1'54
オリーシュニヒ Dominik Orieschnig (S), ヴュルディンガー Walter Würdinger (mand)
1986年2月、ウィーン、シュヴァルツェンベルク宮殿
CD [TECC-30064] t=1'54
ベルガー Hans Berger (zither)と彼のアンサンブル
1989年1月
CD [WPCC-4666] t=1'52
ボニー Barbara Bonney (S), パーソンズ Geoffrey Parsons (p)
1990年8月、ベルリン
CD [WPCC-4279] t=1'25
シュリック Barbara Schlick (Ms), マトウ Tini Mathot (fp)
1990年5月、ユトレヒト

〔動画〕

〔参考文献〕

 

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2012/08/19
Mozart con grazia