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K.21 (19c) アリア「行け、怒りにかられて」

Aria for tenor "Va, dal furor portata."
編成 T, 2 ob, 2 fg, 2 hr, 2 vn, va, vc, bs
作曲 1765年 ロンドン
1765年2月




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テキストはメタスタージョの台本によるオペラ『エツィオ Ezio』第2幕第4場から。 そのオペラは1764年に複数の作曲家により共作され、その中に9才の神童ヴォルフガングによるアリアも挿入されたらしい。 著作権のない時代であり、複数の作曲家によるアリアなどの寄せ集め(pasticcio)で興行するのが普通であり、特に当時のロンドンではこの方法で盛んに公演されていたという。 ロンドン滞在中の1765年2月8日、レオポルトはザルツブルクのハーゲナウアーに次のように伝えている。

オペラは5つか6つ上演されています。 最初のものは『エーツィオ』、2番目のものは『ベレニーチェ』で、二つとも、何人もの作曲家によるいわゆるパスティッチョでした。 3番目のは、新しく作曲されたバッハさんの『シリアのアドリアーノ』でした。 新しく作曲されたヴェントの『デモフォンテ』が上演されるというのをきいています。 それからまた、パスティッチョが二つほど加わります。
[書簡全集 I] pp.204-205
このアリアは1764年11月24日にヘイマーケットのキングズ・シアターで上演された『エツィオ』で、マッシモ役のテノール歌手チプランディ(Ercole Ciprandi)のために作られたと思われているが、その確証はなく、1765年2月21日と5月13日に催された演奏会のために作曲されたという説もある。
この歌手は当時キングズ・シアターにおいてメタスタジオの『エツィオ』(これは《パスティッチョ》、すなわち、いろいろな作曲家たちの手になるアリアを持つオペラの一つである)の父親役を歌っていたのである。
[アインシュタイン] p.484
ロンドンのヘイマーケットにあったキングズ・シアターは1704年から1705年に建てられた「クイーンズシアター」が1714年に改名されたもので、そこではヘンデルの作品が数多く上演されていた。 ヘンデルによる『エツィオ』は1732年1月15日にそこで初演されている。 この劇場は1790年に消失した。

このオペラのタイトルとなっているエツィオ(またはアエティウス)はローマ皇帝ヴァレンティニアヌス3世に仕える将軍で、フン族のアッティラ軍を下した英雄。 凡庸で猜疑心の強い皇帝はエツィオを殺し、その罪を政敵のマッシモに着せようとする。 マッシモとは、エツィオの恋人フルヴィアの父である。 メタスタージオのこの台本は1728年12月にローマで初演されて以来、ヘンデル、グルックハッセなど多くの作曲家が音楽をつけているという。 神童モーツァルトがロンドンを訪れたとき、このオペラがパスティッチョ形式で公演されることになり、エツィオが捕らえれたことを知ったフルヴィアが父マッシモを責め、そのときマッシモは「行け、怒りにかられて」と歌う場面に曲をつけるよう依頼された。 当然のことながら、神童の父はこの機会を大いに活用しようと考えたであろう。 草稿は父の手で書かれてあるといい、曲は完全なダ・カーポの形式で作られた。

ヘンデルの曲は情熱的だが、第二歌手と劇の動機(一人の狡智にたけた父親が、いささか無軌道な娘が退場したあとで非難の言葉を投げかけたところ)にふさわしく、よくまとまっていた。
同書 p.484
それに比べ、まだ幼い少年モーツァルトの曲は、アインシュタインによれば「お飾りたくさんの伴奏のついた、きわめて因習的な名人芸アリア」であり、モーツァルトにしては「やりそこない」の作品と酷評している。
のちの『ドン・ジョヴァンニ』(K.527)の作曲者は、まだアリアの劇的機能と《適正さ》を夢にも知らず、パスティッチョ作曲に協力した他の連中もおそらくやったように、自分の歌手を引きたたせようとだけ努めているのである。
同書 p.484

劇の進行は、凡庸で猜疑心の強い皇帝はエツィオを殺し、その罪を政敵のマッシモに着せようとする。 のちにモーツァルトは、その場面で怒りと絶望のあまりフルヴィアが嘆くアリア『哀れなこの私はどこにいるの?』(K.369)を作曲するが、そこでは「テクストの要求するところと高貴の女性歌手の能力のあいだに、見事な調停を見出している」(アインシュタイン)ところまで達する。

なお、父レオポルトが残した作品目録には同じ時期に15曲のイタリア語のアリアが作曲されたとあるが、この1曲だけが現存。

歌詞

Va, dal furor portata, palesa il tradimento;
ma ti sovvenga, ingrata, il traditor qual è.
Scopri la frode ordita; ma pensa in quel momento
ch'io ti donai la vita, che tu la togli a me.

行け、怒りにかられて、裏切りを明かすがいい。だが思い出すがいい。
恩知らずの女よ、裏切り者は誰かを。お前は仕組まれた不正を見破ったが、
そのとき思ってくれ、わしがお前に命を与えたことを、
そしてお前がそれをわしから奪ってしまうことを。
海老沢 敏訳 CD[VJCC-2309]

演奏
CD [VJCC-2309] t=6'18
プレガーディエン Chritoph Pregardien (T), クイケン指揮 Sigiswald Kuijken (cond), ラ・プティット・バンド La Petite Bande
1988年3月、オランダ、Haarlem
CD [Brilliant Classics 93408/3] t=5'58
Marcel Reijans (T), European Chamber Orchestra, Wilhelm Keitel (cond)
2002年6月

参考文献

動画
[http://www.youtube.com/watch?v=4YIw4IZ4OLc] t=6'38
Thomas Moser (T), Leopold Hager (cond), Mozarteum-Orchester Salzburg
 


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2011/10/23
Mozart con grazia