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ピアノ・ソナタ 第16番 変ロ長調 K.570
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自作目録に上記日付で記載。 ベーレンライター版新全集では第17番。 成立の事情については不明。 しかし現実主義者のモーツァルトが何の目的もなく、気休めに作曲したはずがなく、何らかの動機があったことは間違いない。 演奏家でモーツァルトの音楽に造詣が深い久元は「難しい技巧は注意深く避けられており、やや範囲の広い愛好家向けに出版することが意図されていたのではないか」と推測している。 ただし、作曲者の生前にこの曲が出版されなかったことから、逆に特定の狭い範囲での演奏の機会を目的としていたと想像することもできる。 父レオポルトの死後、父子の往復書簡がなくなったことにより、作品の成立の手がかりがまったく掴めないのが残念である。 ソロモンが
1788年の終りにかけてモーツァルトの作品は少なくなる。 ・・(中略)・・ 冬を越しながらレドゥテンザール用のダンス音楽を2ダースほど書く。 ・・(中略)・・ 2月のピアノ・ソナタ変ロ長調K570とヘンデルの《メサイア》の編曲で、ベルリン旅行前のモーツァルトの机の上の仕掛かりの作品はきれいになってしまった。 モーツァルトを作曲に駆り立てるために必要な演奏の機会や作曲の注文が減少したことから考えれば、この凋落はごく自然なように見える。と言っているが、八方塞がりのこの時期に作られたこの曲にはいったいどんな事情があったのか興味が尽きない。 この作品は、前曲第15番(K.545)と同様に、簡素で澄み切った境地に達していて、アインシュタインは「おそらく最も均衡の取れたタイプ、彼のピアノ・ソナタの理想である」と評している。 また、オカールは[ソロモン] pp.705-706
一見するとつまらないものにみえかねない。 まるでパリ時代のソナータに連れ戻されでもしたかのように思われるかもしれないからだ。 しかし、間違ってはならない。 この作品の透明とわかりやすさは、熟練した職人芸のたまものなのである。 その転調と対位法の技法はあまりに完璧なので、外にはあらわれないのである。 アダージョには、やさしく、ぼんやりとしたノスタルジーがかすかに色合いをあたえる、静かな晴朗さがみられる。 モーツァルトは持続が中断されたようにみえる美の状態を実現しているのだ。と賞賛している。 ただし別の評価もあり、このソナタの「簡素な」または「ひかえめな」という性格のゆえに、クリストフ・ヴォルフは前年の1788年1月に書かれたヘ長調のソナタ(K.533)と比べて、次のように厳しい見方をしている。[オカール] p.156
コンパクトな路線へと回帰しており、ポリフォニックな傾向は引き続き見られるものの、ヘ長調ソナタのユニークさにはとうてい及ばない。[ヴォルフ] pp.106-107
モーツァルトの死後1796年ウィーンのアルタリア社からヴァイオリン・パートが加えられて初版され、その形で世に知られていた。 そのパートを誰が書いたかは不明。 アインシュタインはモーツァルト自身としていた。
変ロ長調ピアノ・ソナタにはヴァイオリンを伴う楽譜も存在する。 全くひかえめなものであるが非常に巧妙に作られてあるから、おそらくモーツァルト自身の手に成るものであろう。しかし、新全集ではヨハン・アントン・アンドレとしている。 また、ウィーン原典版ではヨハン・メーデリッチュとしている。 なお、アンドレはこの曲を弦楽四重奏曲とヴァイオリン二重奏曲にも編曲しているという。[アインシュタイン] p.345
このピアノソナタ第1楽章のスケッチとみられている断片 K.Anh.31 (K6.569a) がある。
〔演奏〕
CD [DENON CO-3861] t=15'20 ピリス (p) 1974年1・2月、東京、イイノ・ホール |
CD [WPCC-5277] t=15'20 ※上と同じ |
CD [ASTREE E 7704] t=20'17 バドゥラ=スコダ (fp) 1984年4月、ウィーン ※ヨハン・シャンツ製、1790年頃ウィーンで使われたフォルテピアノで演奏 |
CD [ACCENT ACC 8849/50D] t=22'24 ヴェッセリノーヴァ (fp) 1988年 ※アウクスブルクのシュタイン・モデル(1788)によるケレコム製(1978)フォルテピアノで演奏 |
CD [fontec FOCD3149] t=17'58 浦川宜也 (vn), 岡本美智子 (p) 1990-92年、田園ホール・エローラ |
<編曲>
CD [Victor VICC-104] III. t=2'02 モーツァルト・ジャズ・トリオ 1991年 |
〔動画〕
Johann Mederitsch1752 - 1835 |
メーデリッチュはヴァーゲンザイル(Georg Christoph Wagenseil, 1715-77)の弟子で、ガルス(Gallus)と呼ばれてもいた。 モーツァルトは彼を酷評していた。
1783年2月5日、ザルツブルクの父へ
あさっての金曜日に、新作オペラが上演される予定です。 その音楽(わけの分からない混成曲)は、若いヴィーン人の作曲です。 この人はヴァーゲンザイルの弟子で、《止まり木でコケコッコーと鳴く雄鳥》みたいなやつと呼ばれています。 おそらく大して成功しないでしょう。[書簡全集V] p.336
〔参考文献〕
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