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ピアノのためのロンド ニ長調 K.485

    Allegro ニ長調 168小節
〔作曲〕 1786年1月10日 ウィーン
1786年1月






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謎の多い作品である。 自筆譜はニューヨークのピアポイント・モーガン図書館が所蔵しているが、そこには上記の日付でウィーンで作曲したことが書かれている。 さらに献呈相手の名前も書いてあったが、いつの頃か消されてしまい、読むことはできない。 誰が何のために消してしまったのか。 そこには「シャルロッテ・ド・ヴュ・・・嬢」という名前があり、それはモーツァルトの弟子シャルロッテ・フォン・ヴュルベン嬢(Charlotte von Würben)らしいが、詳しいことはわからない。 アインシュタインによれば「トラットナー夫人よりも技倆の低い女弟子」のうちの一人であろうという。

この曲を含め、自作目録には、K.483 から K.485 まで3曲の記載がない。 その中でこの曲の場合、初版が同年ホフマイスター社から出版されているというのに、作曲者が自作目録に記載しなかった理由がわからない。 単に忘れていただけであろうか。 4月29日に完成するオペラ・ブッファ『フィガロの結婚』(K.492)作曲のために忙しかったとでも言うのであろうか。 3曲も続けて記載することができなかった(あるいは「しなかった」)のはなぜか。 K.483 は1786年1月14日の式典で演奏されたが、モーツァルトは体調不良を理由に欠席している。 このような健康上の理由から自作目録に記入することができなかったのだろうか。

この曲はロンドと題されているが、その基本構造は

A(反復主題)─B(副主題)─A─C─A─B─A
であるのに対して、この曲ではソナタ形式のように
<提示部>A─B─A─B─<展開部>A─A─B─A─<再現部>A─B─A─<コーダ>A
とつながっている。
このロンドは基本構造から離れ、愛らしいひとつの主題を全編に配しながらソナタ形式と融和させる、変則的な構造をとっていますが、最大の特徴は、冒頭主題が転調を繰り返し、そのことを通して和音の推移が魅力的に印象づけられるのです。
[藤本] p.81
ここに作曲者の意図が隠されているのである。
このよく知られていて、ひどくモーツァルトの制作の枠からはみ出ている作品の背後には一種の狡さが隠れている。 なぜならこの曲のなかでモーツァルトは、ヨーハン・クリスティアーンフィーリップ・エマーヌエルとを混ぜ合わせているからである。 主題は、ヨーハン・クリスティアーンが選帝侯カルル・テーオドールに捧げた五重奏曲ニ長調、作品11番の6(1775年頃)の印象的な一節に、副主題として出ている。
しかしモーツァルトはこの主題を全く、フィーリップ・エマーヌエルが1780年と1783年にその『識者と愛好家のための、フォルテ・ピアノ用ソナタおよび自由幻想曲、ならびにロンド』のなかに発表したロンドの流儀で処理している。
[アインシュタイン] pp.170-171
この作品を「ロンド」として聴くとすれば、主要主題が常に主調で現れる(たとえば、《ピアノ・ソナタ》K309のロンドのように)のではなく、ニ長調、イ長調、ト長調、ニ短調、ヘ長調、変ロ長調と、驚くような調で現れることがわかるであろう。 エピソードも他の主張もないという単純な理由によって、「主要な」主題が存在しないということもわかるであろう。
[全作品事典] p.401
つまりは「単一主題に基づくソナタ楽章」であり、そのクリスチャン・バッハから借りた主題が調性を変えて多彩に繰り返されているのである。 「単一主題であるからこそ鮮明に際立つ」(藤本)のである。

〔演奏〕
CD [COCQ-84576] t=6'11
クラウス (p)
1950年
CD [東芝EMI CC30-3777] t=4'46
ギーゼキング (p)
1953年、ロンドン
CD [エフ・アイ・シー ANC-1011B] t=3'59
グルダ (p)
1953年
CD [LONDON POCL-4395] t=3'59
グルダ (p)
1953年
CD [PHCP-20328] t=4'05
グルダ (p)
1961年11月
CD [DENON CO-3858] t=4'59
ピリス (p)
1974年1・2月、東京、イイノ・ホール
CD [PHILIPS 32CD-3120] t=6'51
ヘブラー (p)
1977年8月、アムステルダム、コンセルトヘボウ
CD [WP ノンサッチ 27P2-2807] t=6'22
ビルソン (fp)
1981年6月、コーネル大学
※ヴァルター作(1785年頃)によるレプリカ(ベルト製作)による演奏
CD [U.S.A. Music and Arts CD-660] t=6'08
キプニス (fp)
1986年10月、アメリカ、コネティカット州ウィルトン
※グレプナー製フォルテピアノ使用
CD [RCA BVCC-131] t=6'19
デ・ラローチャ (p)
1990年
CD [MEISTER MUSIC MM-1020] t=6'40
岩井美子 (p)
1996年1月、神奈川、伊勢原市民文化会館

〔動画〕

〔参考文献〕


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2016/01/17
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