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レチタティーヴォとアリア「かくて汝は裏切りぬ。激しく堪えがたき苛責」 K.432 (421a)

Recitative and aria for bass "Cosi dunque tradisci. Aspri rimorsi atroci."

〔編成〕 Bs, 2 fl, 2 ob, 2 fg, 2 hr, 2 vn, va, vc, bs
〔作曲〕 1783年? ウィーン

タイトルについて[事典]と[全作品事典]と[海老沢]では、レチタティーヴォ「そなたはこうして裏切りをするのか」とアリア「苦く恐ろしい後悔の気持ちが」となっている。 細かいところでは「恐ろしい」と「怖ろしい」の違いもあるが。

バス独唱のためのコンサート・アリア(Allegro ヘ短調)であり、歌詞はメタスタージオの『テミストークレ Temistocle』の第3幕第8場から。 テミストークレ(またはテミストクレス)はサラミスの海戦でペルシャ軍を撃破し、アテネをペルシャ戦争で勝利に導いたことで有名であるが、陰謀家でもあった。 のちにアテナイから敵国ペルシャのクセルクセス王(セルセ王)の許に逃亡し、王は寛大にも彼を保護してくれた。 快く思わない腹心のセバステは王女ロッサーネを味方につけて反乱を企てる。 しかし彼の謀略は王の知るところとなり、セバステは王女に裏切られたと、激しい怒りをもって逃げ場のない絶望を歌ったものである。

おそらく、モーツァルトの最初のオスミーン役だったバス歌手カルル・ルートヴィヒ・フィッシャーのために作曲され、メタスタジオの『デミストクレ』の或るときの上演に挿入されたものであろう。 奇妙にもそれは一人の第2歌手によって、つまりクセルクセス王を裏切った腹心の男によって歌われるのであり、シテュエーションからいえば、裏切りがばれたあとでの良心の苛責の爆発である。 われわれにとっては、これはこのうえなくひどい「メロドラマ」であるが、モーツァルトはそれを全く本気に受け取って、彼のオペラ・セリアのどれにも決して見あたらないほどの、また主役にのみふさわしいほどの力と重みのある、暗澹たるヘ短調の曲に書き上げたのである。
[アインシュタイン] p.502
このアリアが誰かの作曲になる『テミストークレ』上演の際の挿入歌なのか、それとも純粋なコンサート用アリアなのかについて確証はない。 成立について不明であるが、フィッシャー(当時38歳)のために作曲したといわれている。 フィッシャーは、よく知られているように、『後宮』初演でオスミン役を演じた。 彼はコロレド大司教に「バス歌手にしては低い声だ」とけなされたことがあり、モーツァルトはそれに怒って、コロレド大司教を「ザルツブルクのミダス王」(ミダス王とは音痴の代名詞 [書簡全集 V]pp.149-150)と呼び、『後宮』ではフィッシャーのためにもっとも低音のアリアを書いたことでも知られている。

〔歌詞〕
Cosi dunque tradisci, disleal principessa!
Ah folle!
Ed io... son d'accusarla ardito?!
. . .
Aspri rimorsi atroci,
figli del fallo mio,
perchè si tardi, oh Dio,
mi lacerate il cor?
. . .

〔演奏〕
CD [L'oiseau Lyre 458 557-2] t=4'07
スカルトゥリーティ (Br), ルーセ指揮 Les Talens Lyriques
1996年、パリ
CD [Brilliant Classics 93408/4] t=3'58
Ezio Maria Tisi (Bs), European Chamber Orchestra, Wilhelm Keitel (cond)
2002年6月、バイロイト

〔動画〕

〔参考文献〕


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2016/10/16
Mozart con grazia