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カノン「親愛なるフライシュテットラー君」 K.232 (509a)

"Lieber Freistädtler, lieber Gaulimauli."
〔作曲〕 1787年7月4日後 ウィーン

1787年7月






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ト長調、4分の4拍子の4声カノン。 1787年1月15日、プラハ滞在中のモーツァルトは親友ゴットフリート・フォン・ジャカン(24歳)に宛てた手紙の中で、「ガウリマウリ Gaulimauli」とあだ名をつけた人物がいる。 それは弟子のフライシュテットラー(26歳)で、その意味は「馬の口」あるいは「馬面の顔」であるという。 手紙にはその他の友人たちにもそれぞれのあだ名を羅列しているが、身体の特徴にちなんで付けられているものがあるので、この「ガウリマウリ」とはフライシュテットラーが「出っ歯」である特徴をとらえているのかもしれない。 モーツァルトはゴットフリートに「この名前を彼に伝えてあげてほしい」と書いているが、当のフライシュテットラーは気に入らなかったようである。 さらにゴットフリートは「やまあらし Stachelschwein」というあだ名を付けたが、これはフライシュテットラーのボサボサ頭が「針ねずみ」を連想させるようだったのだろう。 これに対しても本人は不服であり、あげくに「自由市民」を意味する自分の本名「フライシュテットラー」までも否定する始末だった。 そしてかわりに「Lilienfeld」すなわち「野の百合」あるいは「百合の花畑」を自称したことから、モーツァルトがこのような歌で彼をからかったのである。

〔歌詞〕
Lieber Freistädtler,
Lieber Gaulimauli,
Lieber Stachelschwein,
Wo gehn Sie hin?
Etwa zum Finta,
Oder zum Scultetti?
Ha, wohin, wohin?
Ei, zu kein'm von beiten,
nein, sondern zum Kitscha
Geht der Herr von Lilienfeld,
Und nicht der Freistädtler,
Nein, auch nicht der Gaulimauli,
Weder der Stachelschwein,
Sondern der Herr von Lilienfeld.
  おい、フライシュテットラー
馬面(うまづら)の君よ
針ねずみの君よ
どこへ行くんだ
フィンタの家かね
スクルテッティかね
さあ、どこだ、どこだ
いや、どっちでもないぞ
違うさ、キッチャのとこだ
行くのはリリエンフェルト様だよ
フライシュテットラーじゃない
馬面の君じゃない
針ねずみの君でもない
行くのはリリエンフェルト様さ
石井宏訳 CD[PHILIPS UCCP-4085/7]

歌詞はモーツァルト自身の作と思われ、フライシュテットラーが用があってスクルテッティ(Ferdinand von Skulteti)を訪ねて行くところを複数のあだ名で茶化しているのである。 「フィンタ」と「キッチャ」は誰のことか、諸説があるが、これらはスクルテッティのあだ名であろう。 これについて[野口]が詳しい。 すなわちフライシュテットラーがスクルテッティのところへ行くというだけのことを、それぞれのあだ名を次々に持ち出して一つの歌に仕上げたものと思われる。 また、譜例は[野口 p.76]にある。 なお、ほかにヘルテル詞「酒色を愛でざる者やある Wer nicht liebt Wein und Weiber」があるという。 さらに、歌詞を付けず、アカペラ演奏([https://www.youtube.com/watch?v=GhIhITv8Y7g])を聞くと、これほどふざけたカノンが神聖な教会音楽として響くのに驚く。 まさにモーツァルトの真髄である。

〔演奏〕
CD [ARCHIV POCA-2065] t=1'38
北ドイツ合唱団
1955年
CD [EMI TOCE-6596] t=2'20
ケート (S), シュライヤー (T), プライ (Br), ベリー (Bs)
演奏年不明
CD [PHILIPS UCCP-4085/7] t=2'19
コルス・ヴィエネンシス
1991年

〔動画〕


 

喜劇「ウィーンに暮らすザルツブルクのならず者」 K.509b

Lustspiel "Der Salzburger Lump in Wien"
〔作曲〕 1787年? ウィーン

フックス(Alois Fuchs, 1794-1855)がモーツァルトの『ウィーンに暮らすザルツブルクのならず者』という一幕劇の自筆稿を所有していたといわれるが、現在それは行方不明。 いつ何の目的で書こうとしていたのか不明。 完成を意図したものではなかったとも言われる。

登場人物の「やまあらし Stachelschwein」氏が故郷ザルツブルクから「父死去」の知らせを受けて、財産を相続することを喜んでいると、かつての豚箱(牢や)仲間が「どこへ行くのか? フィンタのところか? それともスクルテッティのところか?」と尋ねるので、それに対してやまあらし氏が「どちらでもない、キッチャのところだ」と答える場面がある。 このように、カノン「親愛なるフライシュテットラー君」(K.232)と共通する人名が出てくることから、この喜劇(スケッチのまま)も同じ頃に書かれたと思われている。

なお、よく知られているように、1787年5月28日ザルツブルクでモーツァルトの父レオポルトが死去。 意味深なものを感じざるを得ない。
 


〔参考文献〕


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2015/05/31
Mozart con grazia