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ピアノのためのメヌエット ヘ長調 K.5

〔作曲〕 1762年7月5日 ザルツブルク
1762年7月



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ヘ長調、22小節、二部形式の小曲。 父レオポルトが作っていた『ナンネルの楽譜帳』にあとで書き込まれた。 この『楽譜帳』には、1月に「メヌエット ヘ長調」(K.2)が、3月に「アレグロ 変ロ長調」(K.3)が、5月に「メヌエット ヘ長調」(K.4)が書き込まれ、2ケ月ごとにモーツァルトの幼児期の足跡が残されていて、日付が明記されている作品はこのメヌエットが最後となる。 あとは「アレグロ」(K.5a)と「アンダンテ」(K.5b)だけである。

こうして父レオポルトによる英才教育とそれを吸い取り紙のように吸収してゆく神童の成長の一端がこの『楽譜帳』を介して見ることができるのであるが、この時期の教育が違っていたら、言い換えると、音楽家レオポルトの力量が違っていたら、モーツァルトの成長も大きく変っていただろうか?

父親は真面目で細心な技術者であり、すぐれた教育者だった。 しかし作曲家としての彼はまったく霊感というものを欠いていた。 受けた教育からすればバロック期に属していたが、新しい様式を採り入れることで、何とか音楽的趣味の変化についていこうと努めていた。 だが彼には、流行のそうした変化が音楽の根底的な転換に対応しているのではないかとは、とうてい思えなかったのである。 そのため、しっかりしたものではあったがスコラ的な彼の教育は、ヴォルフガングの成長を遅らせるような作用をおよぼした。 そのことで彼を非難する者もいたが、とどのつまり、息子のその後の進展にそれが特に有害であったとは思えない。 というのも、ヴォルフガングは18世紀後半の音楽の一大変化に、一歩一歩段階を踏みつつ対応していったのだからだ。
[オカール] p.23
当時の音楽観は「人間のさまざまな感情の動き、情緒を描写的に表現すること」であり、幼いモーツァルトは日ごろから慣れ親しみ影響を受け、父からそのような教育を受けていながら、しかし独自の道を歩いていくのである。
モーツァルトは、このような当時の音楽観に、具体的な音楽作品を通して、ひたり切っていながら、こうした傾向が、とくに特殊な形で現れているものと思われる描写音楽的な傾向、そして父親のレーオポルトが、特別に愛好した表題音楽的な傾向には、まったく背をむけている。 モーツァルトは、じじつ、レーオポルトが得意だった表題音楽のジャンルの作品、たとえば《音楽の橇あそび》などの楽曲には、まったく関心を示さなかったらしく、そのような表題音楽作品を、ぜんぜん作曲しようともしなかった。 このような点にも、モーツァルトの、時代の枠、時代の限界をこえる天才のはたらきが、これほどおさないころから、はっきりとあらわになっているのである。
[海老沢] pp.26-27
モーツァルトに備わっていたこの天性は彼が時代を越えて愛される作品を生み出す源となっている。 のちに彼は「感情の動きや情緒の描写的な表現」をはっきりと否定している。
(1781年9月26日)
オスミンの怒りは、トルコ風の音楽がつけられるために、滑稽になって来ます。 アーリアの展開で、ぼくはあの人の美しい低音をひびかせるようにしました。 「だから予言者の髯にかけて・・・」は、テンポは同じでも速い音符ですし、その怒りがつのるにつれて、アーリアがもう終るかと思うころに、アレグロ・アッサイがまったく別なテンポと、別な調性になるので、正に最高の効果をあげるに違いありません。 しっさい、人間は、こんなに烈しく怒ったら、秩序も節度も目標もすべて踏み越えて、自分自身が分からなくなります。 音楽だって、もう自分が分からなくなるはずです。 でも、激情は、烈しくあろうとなかろうと、けっして嫌悪を催すほどに表現されてはなりませんし、音楽は、どんなに恐ろしい場面でも、けっして耳を汚さず、やはり楽しませてくれるもの、つまり、いつでも音楽でありつづけなければなりません。
[手紙(下)] p.25

〔楽譜〕



(譜例は下に紹介した動画からコピーしたもの)

〔演奏〕
CD [EMI TOCE-11557] t=0'56
ギーゼキング Walter Gieseking (p)
1953年4月
モノラル録音(1956年モーツァルト生誕200年祭のために)
CD [PHILIPS PHCP-3594] t=1'06
スミス Erik Smith (hc)
1976年、ロンドン
CD [PHILIPS 32CD-3120] t=1'18
ヘブラー Ingrid Haebler (p)
1977年8月、アムステルダム、コンセルトヘボウ
CD [MEISTER MUSIC MM-1020] t=0'51
岩井美子 (p)
1996年1月、伊勢原市民文化会館

〔動画〕
[http://www.youtube.com/watch?v=oNlfUVdkOM4] t=1'02
K.2 から K.5b まで6曲含まれている動画(全体で10分42秒)の 3:50 から 4:52 までの間
演奏不明

〔参考文献〕

 

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2012/01/15
Mozart con grazia