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43曲の小品「ロンドン小曲集」 K.15a-15ss

43 pieces and fragments for piano "Das Londoner Notenbuch (London Sketchbook)"
〔作曲〕 1764年4月~65年 ロンドン

幼いモーツァルトが作曲した曲は、よく知られているように、『ナンネル楽譜帳』に父レオポルトの手で記録されたが、その後少年モーツァルトは自分自身の練習帳を与えられた。 それは父の手で「ヴォルフガンゴ・モーツァルト、ロンドンにて」と書かれていることから『ロンドン・スケッチ帳』と呼ばれ、それには以下の43曲の小品が書き込まれている。 ケッヘル第3版では Anh.109b に置かれていた。

1.K.15aAllegro ヘ長調3/8 38小節
2.K.15bAndantino ハ長調2/4 24小節
3.K.15cメヌエット ト長調3/4 20小節
4.K.15dロンド ニ長調6/8 26小節
5.K.15eコントルダンス ト長調2/4 16小節
6.K.15fTempo di minuetto ハ長調3/4 18小節
7.K.15gプレリュード(og?) ト長調4/4 18小節
8.K.15hコントルダンス ヘ長調2/4 36小節
9.K.15iメヌエット イ長調3/4 16小節
10.K.15kメヌエットのトリオ イ短調3/4 18小節
11.K.15lコントルダンス イ長調・イ短調2/4 32小節
12.K.15mメヌエット ヘ長調3/4 20小節
13.K.15nAndante ハ長調4/4 18小節
14.K.15oAndante ニ長調2/4 22小節
15.K.15pソナタ楽章 ト短調3/4 72小節
16.K.15qAndante 変ロ長調2/4 32小節
17.K.15rAndante ト短調3/8 75小節
18.K.15sロンド ハ長調・イ短調3/8 25小節
19.K.15tソナタ楽章 ヘ長調3/4 98小節
20.K.15uシチリアーノ ニ短調6/8 34小節
21.K.15vソナタ終楽章 ヘ長調2/4 103小節
22.K.15wアルマンド 変ロ長調4/4 32小節
23.K.15xソナタ終楽章 ヘ長調2/4 55小節
24.K.15yメヌエット ト長調3/4 20小節
25.K.15zジーグ ハ短調6/8 61小節
26.K.15aaソナタ終楽章 変ロ長調2/4 51小節
27.K.15bbソナタ終楽章 ニ長調6/8 32小節
28.K.15ccTempo di minuetto 変ホ長調3/4 64小節
29.K.15ddAndante 変イ長調2/2 53小節
30.K.15eeメヌエット 変ホ長調3/4 16小節
31.K.15ffメヌエット 変イ長調3/4 16小節
32.K.15ggコントルダンス 変ロ長調2/4 56小節
33.K.15hhロンド ヘ長調3/8 78小節
34.K.15iiAndante 変ロ長調2/4 43小節
35.K.15kkソナタ楽章 変ホ長調2/2 32小節
36.K.15llソナタ終楽章 Presto 変ロ長調3/8 28小節
37.K.15mmAndante 変ホ長調2/4 20小節
38.K.15nnソナタ楽章 ヘ長調3小節(断片)
39.K.15ooTempo di minuetto ヘ長調3/4 18小節
40.K.15ppメヌエット 変ロ長調3/4 20小節
41.K.15qqメヌエット 変ホ長調3/4 16小節
42.K.15rrメヌエット ハ長調12小節(未完)
43.K.15ss四声のフーガ イ短調23小節(未完)

1763年6月9日、モーツァルト一家は3年半にもおよぶ西方への大旅行に出た。 翌1964年4月23日、一家はロンドン到着。 さっそく4月27日と5月19日にはバッキンガム宮殿で国王ジョージ3世に謁見を賜わり、二人の神童の父レオポルトは自信に満ちていた。 ロンドンでは今までにないほどの熱狂的な歓迎を受けたのである。

1764年6月8日、ザルツブルクのハーゲナウアー
私の娘はまだ12歳だというのに、ヨーロッパのもっとも熟達した女流演奏家のひとりであること、それに私の息子は、要するに、8歳だというのに、40歳の男に要求されるものをすべて知っていること、これだけで十分です。 つまり、見たり聴いたりしたことのないものには、それが信じられないのです。
[書簡全集 I] p.164
そのレオポルトでさえ驚いたことがあった。 6月5日の公開コンサートでは、3時間で100ギニーの金貨を手にしたからである。 それはレオポルトの年俸の8年分に相当する収入だという。 一方で、節約家で用心深い彼は支出に細かい配慮を怠ることはなく、家族の健康にも十分気を使っていた。 生水は危ないので、水分補給にビールを飲むことに慣れようとしたが、健康に良くないと気づき、ワインにしたという。 手に入れることができる一番安いワインをレオポルトと妻マリア・アンナが飲み、二人の子供には水で薄めたものを与えていたという。 当時のロンドンは現在では想像できないほど衛生環境が悪く、レオポルトは「これほどたくさんの蒸気、煙、埃、それに霧がでる人口稠密な都会では、住居の場所と大きさが健康を維持するのに大いに役立つ」と書いている。 しかし不幸なことに、そのレオポルトが発病したのである。
1764年8月3日、ザルツブルクのハーゲナウアー
たぶんもう私の筆跡で、私がいったいどんな境遇にあるのかお分かりでしょう。 偉大な神は私に突然の重い病気という試練を下されましたが、この病気についてご説明するには私にはあまりに力が失われています。 要するにです! 浣腸をし、下剤をかけ、首に烈しい炎症が出たため、瀉血もおこなわれました。 こうしたことがすべてすんでしまい、お医者さんから、もう熱がないので食事をとらなければならないと申し渡されたあとでも、私はまるで子供みたいです。 胃はなにも受けつけようとはしませんし、私はあまりに弱ってしまったので、分別をもって考えることはほとんどできません。 これがもう2、3日続いています。
あやうく死にかけるほどの父レオポルトの病気療養のため、一家はロンドン郊外のチェルシーに(9月25日頃まで)滞在することになる。 このとき姉弟はピアノ(クラヴィーア)に触れることができずに、そのため少年モーツァルトはさまざまな作曲を試みていたという。 それらがこの「スケッチ・ブック」に書き込まれたのである。 父の手が加えられていないスケッチであり、モーツァルトの幼い頃の創作を知ることができる貴重な資料となっている。 ほとんどがピアノ曲と思われているが、オルガン演奏用として書いたのではないかという曲(たとえば、15g、15ii)や、鍵盤楽器では演奏不能な音程を含むものもあるため、管弦楽曲のためのスケッチとみられる曲もあると言われる。 第25曲まで(全部で86ページあるうちの60ページまで)は鉛筆で、それ以降はインクで書かれているが、たぶんそれは用心深い父レオポルトの配慮によるものであろう。

この自筆譜はナンネルが所有していたが、ハインリヒ・ベーア(Heinrich Beer)に贈り、さらにベーアが1830年にメンデルスゾーン(Felix Mendelssohn-Bartholdy)に誕生祝いとして贈った。 その後、ドイツ皇帝に献上され、ベルリン・プロシャ国立図書館が所蔵していたが、第2次大戦後に紛失。 現在はポーランドのクラクフ図書館にあるという。 1909年にライプツィヒのブライトコップ&ヘルテルが全曲をシューネマンの校訂で出版。 現代の実用版はミュンヘンのヘンレ社による演奏不能の断片を除いた39曲を納めた版に従っている。 なお、モーツァルトは曲名を書いていないし、テンポについても(K.15ll を除いて)何も設定していないので、上記の速度記号と曲名はケッヒェル目録によるものであり、また演奏によっても違いがある。

この「小曲集」はまた『ロンドン練習帳』あるいは『第2練習帳』とも呼ばれている。 また、この「小曲集」は、新全集では「クラヴィア、グラスハーモニカ、自動オルガンのための小品」というジャンルに区分されている。

〔演奏〕
CD [PHILIPS PHCP-3595] t=55'09
マリナー指揮 Neville Marriner (cond), アカデミー Academy of St Martin in the Fields
1971年8月、ロンドン、ウェンブリー
※ a, b, d-f, h-l, o-r, t-v, x, z, bb-dd, ff, gg, ii-mm, pp, qq の28曲とK.33Bを合わせて、スミスの編曲によるディヴェルティメント
CD [ポリドール POCL-1559] t=22'59
スミス Erik Smith (hc)
1976年3月、9月、ロンドン
※ a, b, f, g, i, k, l, o, t, u, v, z, gg, ii, ll, pp, qq の17曲
CD [ハイブライト HTCL-1001] t=54'42
伊藤栄麻 Ema Ito (p)
1991年2月、埼玉県松伏町中央公民館、田園ホール・エローラ
※ 断片 nn, rr, ss を除く全39曲(ヘンレ版)
CD [ポリドール POCL-1559] t=7'06
トロッター Thomas Trotter (og)
1993年11月、オランダ、ファルムスム、Hervormde Kerk
※ a, o, q, ii の4曲
※ オランダのファルムスムにあるローマン製(1828年)のオルガン使用
CD [NAXOS 8.554769] total t=74'40
クローエルス Hans-Udo Kreuels (p), フォアアールベルク音楽院アンサンブル Vorarlberg Conservatory Ensemble
2001年12月、オーストリア、ドルンビルン
※ rr と ss はクローエルスによる補筆版。

〔動画〕

〔参考文献〕

 

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2014/08/10
Mozart con grazia