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ピアノのためのアダージョ ロ短調 K.540〔作曲〕 1788年3月19日 ウィーン |
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モーツァルトの曲では非常に珍しい(唯一と言ってもよい)ロ短調という調性。 展開部を持った典型的なソナタ形式で書かれ、6小節のコーダを伴う。 自作目録に上記日付で記入された。 何のために書いたか分かっていないが、この年の8月に姉ナンネルに送ったピアノ独奏用作品の一つではないかと考えられている。
1788年8月2日父レオポルトの死後、遺産相続について姉弟の間で争いがあったことはよく知られている。 そのような時期にこのロ短調のアダージョが書かれたこととの関係が説明できるわけでもなく、また、この曲の前後の作品を見ても、作曲の動機となるようなヒントは見つからない。 作曲の目的が謎であるだけに、この短調作品はいっそう深く暗いイメージを聴く者に与えるようであり、また、とらえ難いもどかしさを感じるようである。
ぼくに腹を立てるのも当然です! でも、この郵便馬車でぼくの最新のクラヴィーア作品を受け取ったら、それでもやはり怒るのかなあ? いや、そんなことはない! またすべてうまく行くと思いますよ。[書簡全集 VI] p.472
アインシュタイン
モーツァルトがかつて作曲したもののうちで最も完璧で、感覚的で、最も慰めのないものの一つである。 長調の終結部は、この曲が或るホ短調ソナタのためのものだったことを暗示する。 しかしこのような作品が、困難であると同時に幸福だった時期に、別に《目的》もなく、モーツァルトのペン先から流れ出しえたのだと、単純に言ってしまったらいいのではなかろうか?オカール[アインシュタイン] p.344
彼のピアノ作品中最も苦悩に満ちた独白だ。 最初のフレーズは不安気で差し迫った問となり、これに可能なあらゆる返答がつぎつぎもたらされるが、いずれも無駄に終っている。 そして彼には有り得ないことだが、歌が放棄されている。 どんなささいな旋律的試みも挫折してしまい、大きく口を開いた沈黙の穴に落ちてしまう。 彼はもう何も主張せず、何も言いさえしない。恐ろしく孤独だ。ラポルト[オカール] pp.142-143
然るべき証拠があって、このアダージョは、モーツァルトが数時間の間ただ一人でピアノに向かい、即興演奏していたことの証と言われてきた。 実際同アダージョは、一種の瞑想、深夜のそれのような、苦悩に満ちた、孤独な瞑想である。 一つの問いが想起され、一つの呼びかけが発せられても、答えるのは沈黙だけであるか、あるいは、さらに一層耐え難いことに、音楽がわれわれに聞き取らせるのは、あの「答えるものは何もない」ということである。 苦悩にもかかわらず、また一種の動揺にもかかわらず、新たに、より白熱した問いが発せられるが、毎回それは空しく提起されるばかりである。 そして突如、最後から3小節目になってようやく、音楽は、ピアニッシモでロ長調に落ち着くのだ。 同様の歩みはディヴェルティメント変ホ長調K563のアダージョ楽章にも見出される。久元[ラポルト] pp.135-136
《ロンド イ短調K511》よりも重く、深刻な表情を見せる。 モーツァルトは、決してこの曲で悲劇を語ろうとしたのでもなければ、痛切な心情を五線紙にぶつけたわけでもないだろうが、そこにはアイロニーはなく、まっすぐに見つめる視線がある。 (中略) むしろ純粋な清らかさがあるように思える。ド・ニ[久元] p.130
モーツァルトの作品のなかでも最も見事な曲の一つであるK540のロ短調のアダージョがオルガンのための曲だといったら驚かれるだろうか。 しかし当時の楽器、つまり南ドイツやオーストリアに存在するイタリア様式の影響を受けたオルガンで演奏されたものを聴くと、デンナーラインが「この曲はまるでクルムホルンと人声のために、とくに書かれたもののように聞こえる。 この曲によって要求されるような、豊かな息継ぎをもっているものはオルガンだけである」といっていることが、いかに正しいかが理解できようというものである。[ド・ニ] p.136
〔演奏〕
CD [COCQ-84579] t=8'50 クラウス (p) 1950年 |
CD [東芝EMI CC30-3777] t=6'13 ギーゼキング Walter Gieseking (p) 1953年8月、Abbey Road No.3 Studio, London |
CD [PHILIPS 32CD-3120] t=10'00 ヘブラー Ingrid Haebler (p) 1977年8月、アムステルダム、コンセルトヘボウ |
CD [ポリドール F32L-20266] t=16'45 シフ Andras Schiff (p) 1986年2月、ウィーン・コンツェルトハウス |
CD [U.S.A. Music and Arts CD-660] t=16'26 キプニス Igor Kipnis (fp) 1986年10月、St. Matthew's Episcopal Church, Wilton, Connecticut ※1793年グレプナー製フォルテピアノ使用 |
CD [SONY CSCR 8360] t=7'51 御喜美江 (classic accordion) 1990年9月、カザルス・ホール |
CD [PHCP-10370] t=11'03 内田光子 (p) 1991年5月 |
CD [ポリドール POCL-1559] t=6'17 トロッター Thomas Trotter (og) 1993年11月、Nederlandse Hervormde Kerk, Farmsum |
〔動画〕
アダージョ ロ短調 (断片) K.deest |
K.540 のスケッチと思われる。
〔演奏〕
CD [キング K32Y 297] t=0'42 クロムランク Duo Crommelynck (p) 1984年9月、ビクター青山スタジオ |
〔参考文献〕
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