Mozart con grazia
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ハイドンのこれらの四重奏曲(ロシア四重奏曲)を知ったということは、モーツァルトの芸術家としての生涯における最も深い感銘の一つであった。しかし彼は今度はもはや圧倒されない。

アルフレート・アインシュタイン
「モーツァルト、その人間と作品」
浅井真男訳(白水社)

弦楽四重奏曲

String Quartets

よく知られているように、弦楽四重奏曲の古典的形式を確立したのはヨーゼフ・ハイドンであり、彼の長い生涯に70曲に近い作品を残した。 そのハイドンは1772年に「太陽四重奏曲集」を書いて以来しばらく弦楽四重奏曲の作曲から遠ざかっていたが、1781年に、このジャンルの様式を完成させたといわれる「ロシア四重奏曲集」を作曲し翌年出版した。 それを見たモーツァルトは深く感銘を受け、それに優るとも劣らない6曲の個性的な作品を書き上げ、ハイドンに捧げた。

[ 1785年9月1日 ](ヨーゼフ・ハイドンへ、弦楽四重奏曲6曲を贈る)

Eccoti dunque del pari, Uom celebre, ed Amico mio carissimoi sei miei figli. ... Piacciati dunque accoglierli benignamente; ed esser loro Padre, Guida, ed Amico! Da questo momento, Jo ti cedo i miei diritti sopra di essi.
高名にして、わが親愛なる友よ、ここに6人の息子を贈りいたします。・・・ なにとぞ彼らを優しくお迎えくださり、彼らの父とも指導者ともなられますよう! 今よりのち、彼らに対する父なる権利をあなたにお譲りいたします。

rem : ハイドン・セットとオペラとの性格的な類似を指摘する説がある。 cf : ジークムント・シュルツェ「モーツァルトのハイドン四重奏曲」1961(モーツァルト探求、中央公論社)pp.186-202


K.387 弦楽四重奏曲 第14番 ト長調「春」

Quartet in G for 2 violins, viola, violoncello
  1. Allegro vivace assai ト長調 4/4 ソナタ形式
  2. Menuetto : Allegretto ト長調 トリオはト短調
  3. Andante cantabile ハ長調 3/4 展開部を欠くソナタ形式
  4. Molto allegro ト長調 4/4 ソナタ形式
[ 82年12月31日 ウィーン ] ハイドンが創造した弦楽四重奏のジャンルでその作法の根源を極め、自らのものとして完成させた6曲をその師に贈った。 自筆譜にはハイドン・セットの最初の3曲には後の3曲には見られない、多くの訂正の跡があるという。その中でこれは最も前衛的。 いわゆる「モーツァルト・クロマティスム」と呼ばれる半音階が多用され、効果を上げている。第2楽章にメヌエットをおくのはハイドン(あるいはウィーン)の影響。 ただしフォルテとピアノを次々と交替し、2拍子のような効果を与えている。このような試みはト短調シンフォニーK.550でも使っている。 第4楽章はジュピター交響曲の原型で、古典派様式における対位法的書法の完成といわれる。

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K.417b (421) 弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調

Quartet in D minor for 2 violins, viola, violoncello
  1. Allegro ニ短調 4/4 ソナタ形式
  2. Andante ヘ長調 6/8 三部形式
  3. Menuetto : Allegretto ニ短調 トリオはニ長調
  4. Allegretto ma non troppo ニ短調 6/8 変奏形式
[ 1783年6月中旬 ウィーン ] セット中、唯一の短調作品。また、フィナーレを変奏曲で飾るのもこれだけ。 この曲においてモーツァルトは弦楽四重奏の中で自由なそして統一された情感の世界をついに獲得したと言える。

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K.421b (428) 弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調

Quartet in E flat for 2 violins, viola, violoncello
  1. Allegro ma non troppo 変ホ長調 2/2 ソナタ形式
  2. Andante con moto 変イ長調 6/8 ソナタ形式
  3. Menuetto : Allegretto 変ホ長調
  4. Allegro vivace 変ホ長調 2/4 ロンド風ソナタ形式
[ 1783年6月か7月? ウィーン ] セット第3番。ただし自筆譜と初版は第4番と記された。

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K.458 弦楽四重奏曲 第17番「狩」変ロ長調

Quartet (Hunting) in B flat for 2 violins, viola, violoncello
  1. Allegro vivace assai 変ロ長調 6/8 ソナタ形式
  2. Menuetto : Moderato 変ロ長調(トリオも変ロ長調)
  3. Adagio 変ホ長調 4/4 展開部を欠くソナタ形式
  4. Allegro assai 変ロ長調 2/4 ソナタ形式
[ 1784年11月9日 ウィーン ] 自作目録第10番。第1楽章の冒頭主題が狩猟のときの角笛の響きに似ているので狩あるいは狩猟という副題がつけられている。

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K.464 弦楽四重奏曲 第18番 イ長調

Quartet in A for 2 violins, viola, violoncello
  1. Allegro イ長調 3/4 ソナタ形式
  2. Menuetto イ長調 トリオはホ長調
  3. Andante ニ長調 2/4 主題と6変奏(第4変奏はニ短調)
  4. Allegro イ長調 4/4 ソナタ形式
[ 1785年1月10日 ウィーン ] シリーズ中で最大規模。この曲全体を透明で柔らかな雰囲気が貫いている。 1784年頃からモーツァルトの作曲の仕方が変わってくる。つまり、聴衆を対象としたものから自分自身に向けて作るようになった。 その大きな変化の原因は前年暮れにフリーメーソンへ入会したことと考えられている。ベートーヴェンもこの曲が気に入り、第4楽章を自ら写譜した。

K.465 弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調「不協和音」

Quartet (Dissonant) in C for 2 violins, viola, violoncello
  1. 序奏 Adagio 3/4 (22小節) - Allegro ハ長調 4/4 ソナタ形式
  2. Andante cantabile ヘ長調 3/4 展開部を欠くソナタ形式
  3. Menuetto ハ長調 Trio ハ短調
  4. Allegro ハ長調 2/4 ソナタ形式
[ 1785年1月14日 ウィーン ] ハイドン・セット第6番。

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