「こんにちわ〜」
最初に到着したのは金髪の少年。
淡い新緑色のチュニック、背中には竪琴。 春の日差しのようにふわりと微笑む。
「いらっしゃ〜い♪ まだはじめるまで時間もあるし、その辺座って待っててよ」
オリーブオイルの瓶を棚から取りだしつつミチアキは言う。
「あ、準備なら手伝いますよ?」
「いいよ〜、これで終わりだからさ」
丁度材料を並べ終わる。
小麦粉、卵にお砂糖、お塩。 牛乳とアールグレイの葉。精製したタイプのオリーブオイルに、あとは生クリーム。
これでシフォンケーキの材料。
パイ生地は冷凍庫の中だし、アーモンドは今弱火のオーブンの中。
かりっと香ばしくなったところを取り出して…
からんころんと、また入り口のドアが開く。
「やっほー☆」
「あ、いらっしゃー……ぃ………」
振り向いたミチアキは思わずオーブンの天板を落としそうになった。
入ってきたのはごく普通の…えぇ、ちょっと可愛いくらいのおかっぱ頭の女の子。
それはどうでもいい、まぁどうでも良くないのかもしれないが、ココではそれは問題ではない。
問題なのは、彼女の抱えた買い物袋からはみ出したネギ。
……えぇ、それは長ネギとしか言いようの無い物体。
「あっ!また煙草吸ってる〜!煙いからイヤ!」
「って取るなっ! 消すなっ! 捨てるなっ! この中じゃ買えないから貴重なんだぞ!?」
いつものごとくフェンリルの煙草を取り上げると、灰皿で揉み消し、灰皿ごとポイ。
「…で、そのネギは何だ?」
「ネギだけじゃないよ〜♪ちゃーんと用意して来たんだから!」
テーブルの上に買い物袋の中身を広げていく。
長ネギ、白菜、白滝に鴨肉、それと大量のあぶらあげ。
「………あのな…?…………きつね子。」
「え?だってお料理教室でしょ?お料理ったら鍋物に決まってるじゃない〜♪ やだなぁ、フェンさんったら☆」
(本日の兵庫標語:人の話はちゃんと聞きましょう。)
「…ミチアキ……どうするよ、コレ…」
「んー…時間が余ったらやろっか?」
鍋物教室の予定じゃなかったんだけどなぁ…と口の中だけで呟いて、ミチアキは小さく肩を竦めた。
「あとは…レジスとるみ嬢かな…」
時計を見上げて呟くフェンリル。時計は13時20分。
渡されたエプロンを付けながら、ティシアは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます♪ デザインも可愛いし…色も綺麗ですね」
ミチアキは濃緑、ティシアはパステルブルー、珠子は朱色で、イステムには淡黄色。
…………ずるり。
ドアの向こうから何かが引きずられる音。
ぎぎぃ……とドアを開け、うつむいたファストが入ってくる。
丈夫な帆布製の寝袋は何か色々と重いものが入っているらしく、軽く膨れ上がっている。
「…あ……えと……いらっしゃい…」
おずおずとミチアキが掛けた声に、ふと顔を上げる。
「………ククク…」
にやぁりと笑み。また、うつむくと重い寝袋を引きずって店内へ。
「あ、よかったぁ〜。僕が最後じゃないですよね?」
可愛らしいピンクのリボンのついた手かごを抱えてレジスが入ってくる。 時計は13時25分。
いつもの制服ではなく水色の開襟シャツにブルージーンズ。籠の中にはイチゴがどっさり。
「あ、ミチアキくん、デザートにいちご食べない?
社で昼休憩に、ここで料理教室するって言ったら、 先輩がどさどさくれてさあ」
「わ♪ ありがとうございます〜☆ シフォンケーキに生クリームと一緒に添えてもいいですよねー♪」
ミチアキは籠を受け取るとキッチンへ。
レモン果汁をボールに張った水に少したらして、その中にイチゴをそっと入れて洗う。
「先輩!? まぁ! きっと女の人なんだわ。
それで…あ〜ん♪とかってイチゴ食べさせてくれたり、ほっぺについた生クリーム笑いながらふいてくれたりするのね? 」
…突っ走るな突っ走るな…。
「あ、レジスさーん、イチゴの中になんかメモ畳んではいってますよー?」
「あぁ、それ?もう読んだから捨てちゃっていいよ?…全く…コレだからうるさいんだよね……」
フェンリルから紺色のエプロンを受け取り、慣れた手つきで付けながら答える。
「わ、良いデザインじゃないですか。 皆さんも似合ってますし♪
村雨さんが手配してくださったんです?」
「そ、あいつこういうの好きでねぇ…」
「村雨さんは こられないんです?
僕、村雨さん、好きだな♪ あまりお会いしたことないけど、楽しい人ですよねえ。 美人だし」
「プロジェクター設置できれば読んでも良かったんだけどさ、ホログラフィじゃさんかできないだろ?
あとでお菓子できあがったらデータスキャンして渡しとくさ」
籠の中のメモに何が書いてあったのかはひみつひみつ。
最後に駆けこんで来たのはるみ。時計は13時28分。
「ごめんね、遅くなって。でも、遅刻じゃないよね?」
「ん、ぎりぎりセーフだな」
苦笑しつつ、最後のエプロンをフェンリルは彼女に手渡す。
「わーっ♪ すっごい可愛い〜☆ ねぇ、似合うかなぁ?」
きゃいきゃいはしゃぎながらエプロンを付け、くるりと回って見せる。
「うん、似合う似合う♪ ルミちゃんやっぱりピンク色とか似合うよねー」
「そうかなぁ?えへへっ☆」
レジスにそう言われて照れ笑い。
「じゃぁそろそろはじめよっか。みんな手を洗ってきてね〜!」
時計は13時30分。ココまでの予定はほぼ狂っていない。