「武富士の闇を暴く」訴訟で意見陳述
2003年9月3日午前11時から、東京地方裁判所で行われた「闇を暴く」訴訟の第二回が行われた。
被告による意見陳述が行われた。
記
武富士による名誉毀損事件意見陳述要旨
私達が、「武富士の闇を暴く」を出版したのは、武富士の貸金業務のあり方が、単に、個々の従業員の仕事熱心なあまりの行き過ぎではなく、歴史的に形成された貸金業規制法にふれるような経営姿勢、体質によるものではないかとの観点からであります。 私が、今回、意見陳述をしたいと思った理由は、次の3点であります。 まず、第一に、武富士の異常な過剰融資、第二に、法律上支払義務のない第三者に対する理不尽な請求と、そして、第三に、武富士の異常な営業ノルマと管理ノルマ、それらのノルマの重圧の下に、従業員の方が残業代も支払われず厳しい労働を強いられていたかについてであります。 私は、第一、第二については、これまでの多重債務者の相談によって、ある程度認識がありましたが、第三の点は、この一年弱の中で知るに至ったものであります。 私は、現在は、この3点は、密接に関連した武富士の体質的な問題であると考えるにいたりました。特に、武富士は、わが国を代表する東証一部上場企業であり、消費者金融業界を代表する最大手の貸金業者であり、その企業が、貸金業規制法に違反するような貸金業務を行っていることは看過できないと考えております。
私は、昭和53年より、釧路弁護士会のサラ金問題対策委員となり、今日に至っております。 武富士が、釧路支店を開設したのも、私の記憶に間違いがなければ、昭和53年だと思います。
私が、最初に武富士について驚いたのは、異常な過剰融資でした。 武富士の関係者が、私のホームページに、武富士の歴史は、「過剰融資の歴史である。貸して、貸して、貸しまくれだ」とのメールを下さいましたが、まさに、その言葉が、最も適切だと感じております。 私が、昭和58年4月に作成した「武富士2店貸出状況」と題する一覧表は、釧路市内にある武富士の2店が、同一人物、あるいは、夫婦、親子に対して、どのような貸付を行っているかをまとめたものです。 昭和58年11月にまとめた「脅威の異常貸付」として報告したものは、武富士の道東の4店が、同一人物、夫婦、家族に対して、どのような異常な貸付を行っているかをまとめております。 これらについては、全国サラ金問題対策協議会の機関紙であった「サラ金対策ニュース」に報告しています。
その次に、私が直面した武富士の貸金業務の問題は、いわゆる「支払義務のない第三者に対する請求」の問題でした。 昭和60年6月4日に関東財務局に行政処分の申立てをした事例は、およそ次のようなものです。 武富士から金を借りていた債務者の78歳になる母親が、生活保護を受給し、月約4万円しか収入がないことを知りながら、なんとか、息子さんのために、15,000円を払ってほしいと執拗に迫るものです。武富士社員は、この母親に対して、何度も督促をするため、耐えられなくなって、この母親が転居した後も、どのようにしてか、新しい電話番号を突き止めて、武富士の社員が執拗な電話をしてきたというものでした。このときの武富士社員の執拗な請求の内容は、「おかあさんが、もらっている生活保護費の中から15,000円を払うということは、自分の給料にしたら6万円も払うことになるから、大変だとは思うが、月15,000円払うことにして利息を止める手続きをとらないと、どんどんどんどん利息が増えて、20万円も30万円も払わないと終わらないことになる」というものでした。 この件については、刑事告訴もいたしました。国会でも問題となりました。武富士の本社の役員の方が、釧路の私の事務所にまで謝罪に来られて、全部のマニュアルを作り替える、全国の支店の支店長を一カ所に集めて1週間教育をする、二度と同様の問題は起こさないというような内容の話をされました。そのため、私は、電話の録音テープをお渡しして和解をしました。刑事告訴も取り下げました。 私は、当時、仕事熱心な社員の方がやりすぎたのだと思っていました。本社ぐるみで行ったものではないと単純に信じたのです。 しかし、このころ、武富士では、「愛ちゃん運動」という名前で、「愛の完済運動」なるものを展開していたということを後日聞きました。これは、家族が愛をもって武富士からの借入を返済するということだということです。そして、各支店でグラフを作って競っていたということです。しかし、私が行政処分をした事件の後、やめられたということでした。
その次に驚いたのは「管理カード」に、「支払い義務なき承知・協力の申し出」なる横判を押して、法律上支払義務のない第三者から支払ってもらっているということを知った時でした。これも、自分で懸命に働きながら、持病で入院しなければならない時は、生活保護を受給している、月収8万円前後の母親から、娘の債務の支払いとして15,000円を母親の給料日に集金に行って支払わせているというものでした。本訴で訴えられております「武富士の闇を暴く」44頁以下で紹介している事例です。50頁に掲載されている管理カードのどの頁にも、「支払い義務なき承知・協力の申し出」なる横判が押されていました。 ところで、今回、武富士の法律上支払義務のない第三者に対する請求の件が問題となり、武富士対策全国会議が結成され、武富士の元支店長・元社員の方からお話を伺う機会ができました。その中から、武富士は、平成8年か9年ころ、土・日返上で、出勤して,すべての手書きの管理カードをシュレッダーにかけて廃棄処分にしたということを聞きました。
私は、「サラ金トラブル」という本を出版しておりますが、この本の「第1章」は、「家族に内緒は良い客?!」という表題となっています。この事例で、家族が2回にわたって債務整理をした後も、「口座はそのままにしておきますから,いつでもご利用ください」と言われたとか、返済に行くたびに側にきて、「限度額をすぐ増額できますよ」とか、「限度額をお調べします」などと言って、お金を借りるよう勧誘されたというのは、武富士のことです。私は、この本を書くとき、本当にそんなに執拗に返済にきた人にお金を貸そうとするのかと、多少疑問に思っていました。しかし、今回、伝達画面をみて、ま さに、そのとおりであることを知りました。
このような事例に遭遇していた時、平成13年12月下旬、武富士が、法律上支払義務のない第三者に対して支払請求をしているという事例に、遭遇しました。(「武富士の闇を暴く」33頁浅野氏の事例) さらに、私は、平成14年3月7日、8日に、「2,000円でも3,000円でもいいからお願いします」という執拗な電話をした事例に遭遇しました(同33頁鈴村氏の事例)。 昭和60年の時も、「中間決算期なので、利息を停止する手続きをとることができるので、月15,000円を支払ってほしい」という内容でしたが、今回も、決算期だけこのような特別な手続きがとれるとして、「2,000円でも3,000円でもいいからお願いします」という内容でした。 私は、このような事例に遭遇し、行政処分の申立てをしました。 それは、平成14年4月のことです。 私は、武富士に対する行政処分については、特別、記者会見等を行いませんでしたが、私が開設しているホームページに、このことを載せました。 ところが、武富士に対する行政処分の申立てのことをホームページに掲載すると、武富士の現社員の方や、元社員の方から、思わぬメールがくるようになりました。
武富士の現社員の方や元社員の方のメールの内容は、それは、驚くべきものでした。 そこには、武富士の社員が厳しいノルマに追われ、貸金業規制法に違反した業務を行わざるをえない状況にあるとのことが赤裸々に書かれておりました。 このようなメールを読み、武富士が、貸金業規制法に違反するような業務を行わなくてもよいような業務の改善がなされなければ、法律上支払義務のない第三者に対する請求がなくなることはないと考えざるをえない状況に追い込まれました。 しかし、このようなメールをみても、私は、武富士の社員がどのような状況で仕事をしているのかを、具体的に想像することはできませんでした。厳しいノルマと言っても、そこには、一定の「ゆとり」というか、「自分を取り戻す」時間があると考えていたのです。 しかし、このような私の考えは、非常に浅薄なものであり、皮相的なものでしかないことを、知りました。
私は、武富士元社員の御木さんという方を知りました 御木さんから、武富士がどのような業務を行っているのかについてお聞きしました。そして、具体的には、伝達画面によって業務が行われているということを知りました。 私は、この伝達画面をみて、武富士が社員に行わせている業務というのは、貸金業規制法に違反するものであることを確信しました。
私は、貸金業者が融資をするのは、借主が、貸金業者の店に、お金を借りにきてから、融資をするものだと、固く信じていました。 貸金業規制法のガイドラインでは、借主が、金員の借入の申込をしてきた場合に、「無担保、無保証の貸付を行うときは、借入申込書に借入希望額、既往借入額、年収額等の項目を顧客自らに記入させることによりその借入意思の確認を行う」ことと定めています。 ところが、武富士の伝達画面をみると、貸金業務というのは、武富士が計画をたてて、目標(ノルマ)を定めて、PRという業務内容で、顧客に対してお金の借入れの勧誘をし、銀行振込での約付を得て貸すということなのだと知りました。 武富士の伝統、歴史の営業姿勢は、『配布』『接客』『再の掘り起こし』であるとの記述があります(甲第2号証・5月10日・20頁)。 再の掘り起こしとは、一旦完済した客に貸付の,PRをすることだということです。 伝達画面の4月15日のところには、営業統轄本部からの指導として、【貸付基準変更】が記載されています。 ◎国保の扶養は高額商品OKとする。 また年収申告書は再度OKで高額商品OKとする。 多くの場合、独自の収入がないと考えられる国保の扶養者にも高 額貸付を認め、年収申告制も認めるというのです。 私が現実に経験した事例でも、「生活保護者に100万円を融資したという」ものがありました。 このような貸付条件からすると、資金需要者の返済能力を無視した異常な過剰融資がなされることは容易に推測されるところであります。 本社から融資に適合しそうな客のリストを送るので徹底的に活用せよ(33頁・再度、本社からの融資抽出顧客一覧を帳票から打ち上げ徹底活用)などの指示に至っては、唖然とするほかありません。 そもそも、融資適合顧客を本社がリストアップすることが問題であると考えます。なぜなら、信用情報は顧客が融資の申込をした段階でのみ、利用できるものであり、融資申込もないのに、融資に適合しているとして信用情報を調査することは問題があると考えるからです。 私は、このような武富士の貸金業務のやり方は、貸金業規制法が予定していない異常なものであり、多重債務者を作り出す過剰融資であって許されないと考えます。
このような形で、作り出された多重債務者は、必ず、行き詰まります。そして、厳しい督促にさらされることとなります。 武富士は、「管理禁止事項・管理遵守事項」なる内規を定めています。 武富士の管理遵守事項には、非常に詳細にどこまで尊属に交渉ができるかが定められています。又、武富士は、「尊属に債務の内容を開示した場合には、債権を放棄すると」社員に教育しているとのことです。 武富士が、自ら定めている規則を遵守するならば、伝達画面に記載されているような尊属問合せや尊属調査はできないと考えます。 なぜなら、本人がいる場合には、法律上支払義務のない第三者に対しては連絡することすら、禁止しています(15−3)。 しかしながら、伝達画面での管理に関する指示によれば、借主本人が約定返済日から10日乃至16日遅れている場合においても、尊属問合せや尊属調査をもれなくやれとか、真剣にやれとか、尊属等交渉債権は、すぐ電話せよなどとなっているのです。 約定返済日から10日から16日遅れているにもかかわらず、返済の約束がとれていない債権が、4億5千万円あるとし、尊属問合せ・尊属調査を「お願いの精神」「情の管理」で真剣にやれということは、法律上支払義務のない第三者である尊属に支払ってもらえるようにせよということにほかならないと解するほかないと、考えるのは、私だけでしょうか。 表面的には、規則を守れ、と命じられながら、一方で、きわめて達成困難なノルマを課せられている。武富士の元社員は、「管理については、親兄弟などへの第三者請求をしなければ目標達成は、絶対に不可能だった」(「武富士の闇を暴く」109頁)と述懐しているのです。 また、法律上支払義務のない第三者から支払を受けたときは、必ず「義務なし承知」と記載しなければならないこととなっているとのことです。即ち、交渉履歴に「義務なし承知」と書かなければ、規則違反として社員が責任を問われるということだというのです。 私達が相談にのり、行政処分の申立てをした事例においては、「支払義務がない」などと説明をされた場合には、「支払わない」あるいは、「支払いたいと思っても支払えない」という人がすべてです。被告は、「社会的弱者に対しては、配慮しなさい」と社員に指示しているということを公にしています。しかし、「武富士の闇を暴く」で紹介している事例は、社会的弱者であると明かに判断されるべき人の場合においても、武富士は、法律上支払義務のない第三者に対して支払わせているのです。
私は、武富士は、東証一部上場企業として、少なくとも、社員は、貸金業規制法を遵守するという方針で業務を行っていると考えていました。 私達が、遭遇する貸金業規制法違反事例は、たまたま仕事熱心な社員が、行き過ぎた業務を行い、その結果として出現したものであると考えていました。また、法律上支払義務のない第三者に対する理不尽な請求であると指摘された場合には、それを改善する措置をとっているものと考えていました。 武富士のノルマは厳しい、ノルマが3ケ月続けて達成できない場合は、降格になるというようなことも聞いてはいましたが、ノルマ自体が、どの程度のものなのかは全く知りませんでした。 また、日本ではサービス残業は、珍しいことではありません。しかし、わが国で有数の企業として大きな営業利益をあげている武富士が、恒常的に厳しいサービス残業を強いていたということも、今回、初めて知りました。 どのような企業も、批判を封じ込めようとするならば、大きな損失を得ると考えます。批判に対して、襟をただし、業務を改善するという姿勢を示すことこそ、東証一部上場企業のとるべき姿勢であると考えます。 私達は、東証一部上場企業である武富士に対して、事実ではないことを主張して、被害者をでっちあげるような無謀なことはいたしません。 相談にのった事例の中で、これは、正義の観点から許されないと思ったことを、公にし、同じような被害者が出ないようにと考えて行動しているだけです。 裁判所においては、曇りのない目で事実を直視していただき、弱者の唯一の武器、言論活動が封じ籠められるようなことがないよう、ご判断をお願いしたいと考えております。
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