武富士取立規制違反訴訟の内容?

 平成8年1月から平成8年5月にかけて行なわれた武富士の取り立ての事例を紹介する。
 S子は、病弱なA子の一人娘であった。

 A子は、自分で働けるときは働くが、持病があり、生活保護をうけながら、S子を育てた。働いている時は、殆ど生活保護は受ける必要がないが、一年に一度は病気で入院するなどしていた。A子は、借金は大嫌いだった。お金がなくて、おかずを買うことができなくて、ご飯に塩をかけて食べても借金は嫌だった。お金を借りて人さまに迷惑をかけるようなことは絶対にしてはいけないと、S子に何時も話していた。

 S子は、一六歳の時から食堂のウエイトレスとして働いていたが、一八歳のとき、武富士からお金を借りた。20万円であった。勿論、母親には『内緒』であった。

 S子が、20歳になった直後、武富士からS子の勤務先に電話がきて、枠が50万円になったので、ご利用下さいとの電話が入った。S子は、特別お金が必要ではなかったが、交際していたB男から頼まれて、50万円の枠一杯借り入れをした。


一、
S子の交際していたB男は、平成七年一二月になって、暴力団員ともめごとを起こし半殺しの目にあった。B男は、警察に保護してもらうために出頭した。S子は、B男と交際しているというだけで、暴力団員から金を払えなどと言われて追い回され働くことができなくなった。

 A子のところに、平成八年一月に入って、「S子さんいますか」というような電話が入るようになった。A子が、「いません」というと、最初は、それ以上のことは言わなかった。しかし、何回か電話が来た時、武富士・アイフルという会社名を名乗った。
A子は、テレビをみて、武富士というのが、サラ金だということは知っていた。そのサラ金からS子がお金を借りているということを知り非常に驚いた。


二、
S子は、一月の中ころ、A子のところに帰ってきました。A子は、S子が帰ってきた時に、思わず、「お前、サラ金から金を借りているのか?」と言い、そして、なんで、そんなところからお金を借りたのか、わんわんと泣いてS子を問い詰めたのです。このころ、S子は、電話が来ても出ない。昼間も、一人で家にいて、外には出ない、夜も、一人の時は、電気も、テレビも消して布団かぶって寝ているという状態だった。電話のベルはしょっちゅうなっていた。夜は、S子は、A子の部屋でA子と一緒に寝ていた。S子はとても怯えていた。S子は、警察官からも、人目につくところには出ないように、電話にも、出ないように警察から言われていた。それで、電話のコールの暗号を作ってその電話にだけ出るようにしていた。


三、
武富士の社員から、S子の母親のA子がいる時間に電話がきた。
 武富士の社員が、電話で、A子に、S子にお金を貸したので、15000円を払ってほしいと言ったのです。A子が、幾らS子に貸したのか聞いたところ、「50万円だ」と言ったのです。A子は、もう、びっくりしてしまいました。そして、武富士の社員に「保証人もなしに、そんなに多額のお金を貸すんですか」と言いましたら、「娘さんに信用があったから」と言いました。A子は、武富士の社員に、3000円か5000円、払えるだけ払ってほしいというのなら、娘が借りたものだから払うと言ったところ、武富士の社員は、「お母さんだって責任がある。子供さんが借りたのだから。おかあさんに払ってもらわないとならない」と言いました。A子は、自分が借りたわけでもないのにどうして払わないといけないのか、自分は一円も使ったわけでない、と言いました。しかし、武富士の社員は、「お母さんの方から幾らかずつでも払ってもらわないと困る」と言いました。そして、A子は、幾らかずつでもというのなら、「3000円か5000円位なら、なんとか払う」と言ったのですが、なんとしても、頭から、15000円を払え」と言ったというのです。
 このような電話が武富士からあったので、A子は、そのことを娘のS子に話しました。S子は、サラ金からの借金についてA子が請求されているため、警察官にどうしたらよいか相談したようです。S子は、警察官の助言に従って、武富士以外のサラ金会社に手紙を出しました。S子は、武富士に、事情を話して支払えない、母親も病気で支払えないと言ったといいます。


四、
こういうことがあって後、S子が、A子が病院からもらっている睡眠薬を飲んで自殺を図ったのです。自分さえいなければ、A子にも迷惑を掛けないと思ったようです。
最初、医者から、危篤状態だから目を話さないでほしいと言われた。A子にS子が借りた金を払うように言ったのは、アイフルというところと、武富士というところでした。アイフルには、3000円か5000円を一度位払いました。
 武富士の社員は、何回も家に来た。


五、
武富士が、A子の家に電話をした日時と電話の回数は、武富士が作成保管している「管理カード」によれば、次のとおりとなっている。

1/23火=2回
2/1 木=1回
2/3 土=1回
2/5 月=3回
2/6 火=1回
2/7 水=2回
2/8 木=4回
2/9 金=4回
2/10土=6回
2/13火=14回
2/14水=10回
2/15木=5回
2/16金=5回
2/17土=3回
2/19月=1回
2/20火=8回
2/21水=5回
2/22木=4回
2/23金=6回
2/27火=2回
2/28水=4回
2/29木=7回
3/1 金=1回
3/2 土=1回
3/4 月=3回
3/5 火=1回
3/12=2回
3/13水=5回
3/16土=1回
3/21木=3回
3/22金=4回
3/23土=1回
3/25月=4回
3/26火=3回
3/27水=4回
3/28木=5回
3/29金=6回
3/30土=4回
4/1 月=9回
4/2 火=9回
4/3 水=7回
4/4 木=4回
4/5 金=2回
4/6 土=2回
5/1 水=4回
5/2 木=7回
5/7 火=3回
5/8 水=2回
5/9木=4回
5/10金=2回
5/13月=3回
5/14火=6回
5/15水=6回
5/16木=4回
5/17金=6回
5/18土=1回
5/20 月=5回
5/21火=6回
5/22水=6回
5/23木=10回
5/24金=5回
5/26土=1回
5/27月=5回
5/28火=3回
5/29水=7回
5/30木=4回
5/31金=9回
6/1 土=4回

 武富士では、一日「実話」( 現実に会話すること2回までの督促を認めているという。
 現実に電話をしたときの会話の内容は、次のようになっている。

1/23 本人から連絡入ると思うが、居所わからず。○○にはいないと思う。
1/23 自宅はこちらだが本人は、○○さんと一緒に住んでいる。電話ない。連絡はいれば伝える。
2/03従姉妹
の女性
母は外出中です。本人の支払いの件ですかと当社の内容承知。本人と○○さんは警察にいるらしい。○○は捕まって本人は保護されている。ある男におどされてかくまってもらっていくらしい。6 時迄母戻ったらTELくれる。
2/03
PM8:00
本人
及び母
本日警察より戻った、無職無収入であり母支払い義務なき承知も 5日であれば協力したいと、5日午後1時30分TEL下さい。
2/05
PM1:30
本人
及び母
相談、再度したいと希望。
2/05
PM2:20
本人
及び母
15,000円入金TEL不足分母も協力困難。まだ警察と行き来もある。支払い相談乗って下さい。本日再TEL待ち。
2/05
PM5:50
警察から仕事紹介してもらい勤務先探す。今週中に不足分入金する。
2/16
PM0:02
本人 来週再度警察に呼ばれる。再本日TEL待ち。
2/23
PM4:40
本人 支払い目途無し。もう少し待って下さい。
2/29
PM5:16
本人 まだ都合つかず警察にもまた明日行かなければならない。
3/01
PM7:20
本人 母に相談して3/2 太田宛TELくれる。
3/02
PM2:50
本人 まだ、母に相談してない。本日話す。4 日朝TEL下さい。
3/04
PM3:36
5日TEL後訪問希望
3/05
PM6:53
安藤訪問にて預かる。
3/27
AM8:20
出る。本人外出しているので戻ったらTELくれる。
3/30
PM6:20
2 〜3 日見てない。来たら伝えます。
4/04
PM7:30
安藤訪問にて本人及び母と4/5 ( 不明確で読めない)
4/06
PM4:32
訪問にて本人より預かっていたと25,000円入金。
6/01
PM2:23
○弁護士に相談に行く予定。
6/10 ○弁護士より訴訟を起こされる。


六、
武富士が訴訟に提出した担当者の陳述書によれば、二月五日の集金に関するA子と武富士の社員の会話は、次のようになっている。

二月三日の訪問時の会話
社員: お世話になっております武富士の太田ですが、今回はどうされましたか。
S子: 警察で一緒にいた○○君のことで取り調べを受けたり、ヤクザみたいて人から逃げたりしていた。
社員: 支払いが遅れていますし、連絡もいただいていないので、解約になっています。
S子: 支払いはしたいが、仕事もしてないので都合つかないです。
社員: 何とかできませんか。
S子: お母さんとか友達に相談するしかない。今は手持ちもないので。
社員: もし相談できるのであれば、私の方でも相談に乗ります。
 この時、居間からA子が出てきました。
A子: 幾ら位あるんですか。
社員: 四九万六八五円です。
A子: そんなにあるんですか。
社員: はい、それに利息も加算になります。一ケ月以上遅れているので、現状では解約となり一括請求になっております。
A子: 今の現状では全く無理だと思います。
S子: 私がこれから仕事を警察から紹介してもらい、それからだったら払えます。
社員: 今後の支払いの相談には乗りますが、まず、解約を止めなければなりません。
A子: でも、今はどうしようもない。
社員: 一ケ月分だけでもなんとかなりませんか。
S子: 今日はどうしようもないが、五日なら私の給料が入るのでなんとかなる。
社員: でも、お母さんには支払い義務はありませんよ。
S子: でも、本人ではどうしようもないと思うし。
社員: S子さんの方でも都合してみて下さい。
A子: やってはみるが、できるかどうかはわからない。
社員: 五日の何時ころだったらよろしいですか。
A子: 五日の一時半ころ、一回連絡下さい。
社員: わかりました。改めて連絡させていただきます。

このような経緯の後、二月五日に、一万5000円を集金している。


七、
武富士が訴訟に提出した担当者の陳述書によれば、三月五日の集金時のA子と武富士の社員の会話は、次のようになっている。

A子:武富士さんですね。ちょっと話があるんですが。
社員:はい、何でしょうか。
A子:今後も、私の方で15000円を払っていかなければダメですか。
社員:いいえ、そんなことはありません。お母様には支払い義務はありません。
A子:今回は、一万5000円じゃないとダメなんですか。私はできる限り協力したいが、一万5000円と言われても、収入が八万前後しかなく、その中から協力するには月いくらとは私の方から言えないが、少しずつ今回は5000円、今回は3000円と穴埋めしていきたいですけど。
社員:金額に関しては、私は答えできません。ただ、S子さんも仕事が決まり働くようになれば、今までどおり取引してもらえると思うんですが。
 このような会話の後、武富士の社員は、A子から一万5000円を預った。
A子:金額なんですけど、相談に乗ってもらえないですか。
社員:金額に関しては、上司の方と話し合ってみます。

 私(社員)は、第三者には支払義務がなく請求をしてはいけないことは会社から厳しく教育されていますので、右の会話の中でも話しているようにA子にも確認しています。このときは、初からS子さんの母親であるA子が支払いに協力してくれるという事情のもとに支払いを受けてくるよう指示があったのです。


八、
A子の記憶と言い分は、次のようである。
 A子は、武富士から、「お母さんには、娘さんの借金の支払い義務がある。15000円を支払ってもらわなければこまる」と言われたが、自分の収入が八万円前後しかないため、15000円も支払えない、なんとか、3000円か5000円にしてもらえないと話したが、武富士の社員がどうしても15000円支払ってもらえないと会社に戻れないと言ったため、しかくなく二月五日に、15000円を支払った。
二月の中旬、A子の家に武富士の社員が来て、A子に、「こないだ15000円払ってもらったが、あと、15000円足りない、それは何時払ってくれるのですか」と言った。 A子は、この間、15000円払って、また、すぐに15000円払えと言われても、S子も仕事ができない状態だし、払えないと言った。
 しかし、武富士の社員は、「いや、とにかく払ってもらわないと困る」「どうしても15000円足りないから払ってほしい」と言った。A子は、生活保護を受けていること、病気もちだから何時倒れるか判らないこと、自分は一円も使っていないこと、保証人も付けずに、どうして、そんなにお金を貸したのかなど、を話した。さらにS子が自殺を図ったことも話しました。しかし、武富士社員は、「とにかく、15000円払ってもらわないと困る、僕も払ってもらえないと会社に帰れない」と言った。
 このような会話あった後、三月五日の給料日に、武富士の社員がきて、また、15000円を支払わされた。この時、A子は、「15000円となればゆるくないんだ。自分で働いてもらった給料はこれだけだ」と給料の明細を見せました。そして、この給料の明細を市役所に持っていって、足りない分を保護からもらっていると説明しました。
 武富士の社員は、A子がどのような状態にあるか、前の担当の社員から聞いて知っているが「とにかく、15000円払ってほしい、手ぶらで帰ると上の者に怒られます」と言いました。
 三月五日にも、A子は15000円を支払った。
 三月中ごろかと思いますが、A子が仕事から帰った後で、武富士社員がきて、A子に、未だ、一ケ月分遅れているので、払ってほしいと言った。
 A子は、三月五日の給料日に15000円を支払っていますので、とても、それ以上には払えません。生活保護を受けていること、病気で何時倒れて働けなくなるか、わからないこと等を話したが、武富士の社員は、「しっかりして下さい。おかあさんもつらいけど、手ぶらで帰ると、上の者に怒られる。借りたものは返すのが当たり前。S子さんが払えなかったら、お母さんに払ってもらわないと困る」といい、いっこうに帰ろうとしないので、A子は、幾ら話してもわかってもらえないし、払うお金はないし、どうしたらよいかわからない状態になり貧血を起こして気分が悪くなって立っていられなくなり倒れました。
 武富士の社員は母親A子との話を奥の部屋で聞いていたS子と友達が、A子の様子が変だと思って居間に出てきて、武富士の社員にに、「一時、帰ってください」と強く言って帰ってもらった。
 三月の終わりころか、四月に入ってからか、わかりませんが、武富士の社員が、A子がいるときに来て、知り合いか、誰かから借りてでも払ってもらわないと困ると言った。しかし、A子は、お金を借りたこともありませんし、お金を貸してくれる人もいませんので、どうしたらよいか本当に困っていました。
 そのことを保護課の社員に話したら、保護課の社員が、弁護士に相談したらよいんじゃないかと言ってくれました。それで、A子は、市役所の困り事相談に行ったら、弁護士会の法律相談に行ったらよいと教えてくれました。


一〇、
四月の六日に、S子が、A子に、武富士の社員が来たら、渡すようにと言って15000円を渡してくれました。S子は、武富士の社員が、友達から借りてでも払うようにと言っていたのを聞いて、知っている友達に電話をしてお金を貸してほしいと頼んだところ貸してもらうことができたと話していました。
 四月六日に、武富士の社員がきました。
 A子は、その社員に、S子から渡してもらった15000円を渡しました。そして、弁護士さんに相談するということを話しました。すると、その社員は、弁護士さんに相談するのなら、あと一万円足して払ってもらわないと困ると言った。A子は、これまで、武富士の社員から、15000円を払ってくれ、なんとしても15000円を払ってくれと言われていましたので、びっくりしました。そうすると、その社員は、弁護士に相談するのならあと10000円を払ってくれ、そうしたら、いいですよというのです。
 A子は、給料の明細もみせて、そんなに払えない、生活もできない言いましたが、弁護士に頼むのなら、あと10000円払ってくれと言い続けたので、A子は、仕方なく、S子が友達から借りた15000円の他に、自分のお金、100円やら500円などのダラ銭も全部はき出して一万円を払いました。
 その後も、武富士からは、電話が来たり、社員の社員がきたりしました。
 そして、「何時、弁護士のところに行くのか」とか、「誰が弁護士を頼んだのか」などと聞いた。 このようにして、弁護士を頼むと言ってからも、武富士から何度も電話が入ったり、武富士の社員が来たりしたことを気にしたのか、S子は、五月二七日の日、再び自殺を図ったが、発見が早く命はとりとめた。
 S子は、A子に、「S子が死んだら、お母さんに迷惑をかけないで済む」と言っていたので、S子が自殺を図ったのは、武富士さんがしつこく請求にきていたことが原因の一つだと思っている。A子が、弁護士の法律相談に行くといった後である平成八年六月五日にも、武富士の社員がきました。A子は、武富士の社員に、明日、弁護士に相談すると言ったが、武富士の社員は、15000円払ってもらえないかと言った。


十一、
S子は、武富士以外にも、数社からお金を借りていた。武富士以外の会社では、アイフルが一度5000円をA子から集金しているのみである。S子の事情がわかり、請求を諦めたようである。ところで、武富士のみは、実にしつこく、支払い義務のないことが明らかで、一月頑張って働いても八万円前後という母親から、毎月15000円という支払いを受けている。
 武富士の「管理カード」の特記事項欄には、次のような横判が押されている。

  支払い義務なき承知
  協力の申し出
  不審な電話は困る。
  社名開示の要請有り


十二、
武富士の社員の主張が、正しいのか、A子の主張が正しいのかは、常識ある人の判断を仰ぐしかない。
 このあまりにもひどい支払い義務のない者への請求と、現実に支払いをさせたということについて、武富士を被告にして訴訟を提起した。母親が支払った四万円と、母親が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の請求である。
 裁判官は、これらの証拠を十分に検討された結果、「武富士の集金には違法性はない、お母さんが、支払い義務があると勘違いして支払ったのだということで、母親が支払った四万円を返せという判決をした。

 社会の常識と、裁判官の常識とは一致していると言えるだろうか。