刑事事件で無罪でも、免許停止や減点は取り消されないの? こんな不合理許されるの?

2008年 12月 8日

 S氏は、大型トラックでトレーラーを牽引する仕事をしている。
 これまで、シートベルト装着違反が一度あるだけの優良運転手だ。

 1月末の早朝5時、トレーラーを牽引して出発した。

国道を右折するため、右方の車両の有無を確認したところ、369メートル先に車両の明かりが見えた。その場所は、標識があり、反対側からの照明が設置されていることから、はっきりしている。
あたりは暗かった。

 総延長約18メートルというトラック・トレーラーを右折させるべく運転をした。

 あと少しで完全に右折し終わるというところで、B男が運転していた軽四が、一番後ろのタイヤに衝突した。

 S氏は、優先道路の走行を妨害したということで、免許停止90日、減点11点(法定横断等禁止違反・重傷事故)という処分を受けた。


刑事事件の審理

  1. S氏は、警察官や検察官から、S氏が優先道路の進行を妨害したことが事故の原因と言われた。
    S氏は、自分は、369メートル先に自動車を確認し、安全に右折できると判断して右折を開始したと訴えたが、認められなかった。
    S氏は、仕方なく、「略式命令」による刑事処分に同意した。
    この時、S氏は、100万円位の罰金になるだろうと言われたという。
  2. 略式は不相当となった。
  3. 簡易裁判所における審理であったが、地方裁判所に移送となった。
  4. 審理の中で明らかになったこと
    1. B男は、ずっと「近目」で走行していた。
    2. B男は、時速60キロ制限の道路であったが、ずっと時速80キロで走行していた。(尚、衝突時のメーターは87キロをさしていた)
    3. B男は、トラックの前照灯しかみえなかった。トレーラーの側面につけられているサイドマーカーランプやウインカーは、全くみえなかったと言っている。
    4. 検証の結果、B男の運転していた軽四の運転席から、360メートル先にS氏が運転するトラックのサイドマーカーランプやウインカーがはっきり見えるということになった。
    5. B男の軽四のブレーキ痕は、3メートルと6メートルであった。
    6. 求刑  50万円
  5. 判決
    判決  20万円
  6. 判決理由
    判決では、B男が、トラックの前照灯に注意がいっていたため、サイドマーカーランプやウインカーがみえなかったことはやむをえない。
    B男が「居眠り」をしていたとの主張は、認められない。
    S氏が、60キロ制限の道路であっても、20キロ位オーバーして走行する車両があることを予見して、右折をすべきであり、過失がある。
  7. S氏は、控訴した。
  8. 控訴審において主張したこと
    1. 300メートル以上前方に、右折しようとする車両がある時は、速度を落として走行しなければならない。
    2. 軽四は、遠目にして走行しなければならない。
      遠目の照射範囲は、100メートル
      近目の照射範囲は、40メートル
    3. 夜間暗闇で走行するときは、前照灯の照射範囲になんらかの異物が入り込んだ場合、適切に対応できる速度で運転しなければならない。
    4. 時速80キロで走行している場合の急制動をして停止できるためには、53メートルが必要である。
      近目で照射範囲が40メートルという場合、急制動の措置をとっても、必ず、衝突する。
    5. 車幅・尾灯の照射範囲は、300メートルである。
      即ち、300メートル以上先に、自動車の存在を認めた場合は、それを認めた側が危険を回避する運転をしなければならない。
    6. 男は、前を見ていれば、ずっと、その前方にS氏運転のトラック・トレーラーを見ることができたのであるから、S氏には過失はない。
  9. 判決
    控訴審では、S氏の言い分がすべて認められて無罪となった。

行政処分

  1. S氏は、刑事事件で無罪となったことから、行政処分の取り消しをするよう求めたが、行政処分の取り消しはできない旨言われた。
  2. 訴訟においても、これまでの訴訟では、「訴えの利益がない」という理由で、行政処分の取り消しは認められていない。

感想

 公安委員会は、交通関係の問題に精通した人(大体、警察官ということである)が、刑事事件の判決を待つことなく「行政処分」をしている。
 勿論、行政処分の際には、意見を主張する機会が与えられる。
 又、行政処分について「納得ができない」場合は、行政処分の取り消しの訴訟をすぐに起こすこともできる。

 行政処分は、確定した後でも、1年以内ならば、取り消しの訴訟を提起できる。

 しかし、S氏の裁判は、1年以内には終わらなかった。
 そのため、行政処分の取り消しはできないという。

 しかし、S氏の場合は、「完全無罪」である。なんらかの意味で、S氏にも過失があるというような内容ではない。

 適切な行政処分がされるためにも、無罪となった場合に、行政処分を取り消すことや、無罪となった事件の内容を検討し、同じような事例で、間違った行政処分がなされないようにしなければならないのではないか。

 S氏については、行政処分の取り消しの訴訟を検討している。
 そうでなければ、無事故無違反(シートベルト装着違反の軽微な違反はあるが)の優良運転手であるS氏は、重大事故による11点減点という不名誉な記録を残されることとなるのだから。