恋人商法とやくざのしのぎ
20歳になったばかりの青年が、母親と恩師に連れられて相談にきた。「一つ年上の学校の先輩に可愛い女の子を紹介してあげると言われた。」
「ドライブに行くというので、彼女が運転してドライブに行った。」
「彼女が、前を走っている車があんまり遅いので、早く走れというようなパッシングをした。何回もした。自分はやめたほうがよいと思ったが、彼女は何回もした」
「前の車から、見るからにやくざ風の男が下りてきて、自分達の車の方に来た」
『おい、俺が何をしたって言うんだ!』とすごまれた。
「見ただけでもおっかない大柄な人だったので、すいませんと言って下を向いていた」
「その男は、落とし前として200万円を払えと言った」
「彼女は、その間に、彼女が一緒に住んでいる人のところに携帯電話をかけていた」
「彼女が住んでいるところの女性の交際しているという男性がやってきた。
「自分はどうしていいかわからず困っていた。」
彼女の住んでいる女性の交際相手は、やくざだと聞いていた。
その人が交渉して120万円で話がついた。
彼女と自分で半分ずつ支払うということになったが、彼女は無職だったので、自分がサラ金から借りて支払えと言われた。
自分は4件のサラ金に行って120万円を借りてきて支払った。
どうも、息子の様子がおかしいということで、母親が問い詰めてサラ金の借金のことを白状させたという。
息子は、「落とし前を200万円から120万円に減額させてくれた」人に感謝するようになった。
そして、120万円をどのようにして返したらよいか相談した。やくざは、「お前の車は保険がかかっているか」と聞いた。息子は「保険は入っている」とこたえた。 すると、「事故を起こして、その保険金で払うしかないだろう」と言われた。
息子は、どういうことか、すぐにはわからなかった。しかし、やくざは、どんどんと計画を進めた。
そして、ある日、「今日、やるぞ」と言われた。
やくざとその交際相手の女性、息子と彼女、息子の知らない男性が二人。
「ここでやるぞ」というところまできて、準備し、道路の中央部分を左右から走り、わざとぶつけるという物損事故を起こそうとしたが、ぶつかり方が弱かったため、修理が必要なほどの事故にはならなかった。
やくざは、運転をしていた男に怒り、日を改めて、もう一度やることにした。
日を改めて、道路がアイスバーンのときの真夜中、運転役二人、車の所有者二人、他車の走行があるかないか等を監視する役の女性二人が現場に行き、自動車を走行させ、わざとぶつけた。相当なショックだったという。運転していたもの二人と、女性二人はすぐに現場を離れ、車の所有者二人が現場に残り、保険屋と警察に電話した。
鹿が飛び出してきてハンドルを切ったらぶつかったというふうに話した。
保険会社は,息子の車に130万円、相手方の車に120万円を出した。
息子は、ぶつけた車の修理はしてもらえず、130万円の殆どを巻き上げられた。
その後、息子は、感謝していたやくざの経営する店で働いていたが、ある日、「やくざの器量は、一人の人間からどれだけ金を引き出せるかだ」と言い、ヤクザの舎弟となっている青年の家族をターゲットにして、金を引き出す方法を話し合っているのを聞いてしまった。
そして、最初の「落とし前120万円」を払ったのも、前を走っている車の見るからにやくざ風の男と、息子を助けてくれたやくざが知り合いで、自分がはめられたことにも気付いた。
そして、この息子は、警察に「自首する」ことにした。
私は、この息子の国選の刑事事件の弁護人もした。
検事の求刑は懲役1年だった。
判決は、懲役5ケ月で執行猶予2年だった。
恋人商法とやくざの金儲けは、このような恐ろしいやり方で広がっている。
北海道道東の田舎町にも。