医療過誤訴訟!日本の医療はこれでよいのか!



 医療過誤訴訟で勝訴判決を得ることは難しい。私は、明らかなカルテ偽造の事件を担当したが、裁判所は両親の主張を認めなかった。若年性パーキンソン病の息子がいた。この病気で死ぬことはないが、一生直らないといわれる難病だと言われていた。

 北海道新聞に「世界のパーキンソン病の権威と言われるM医師の記事が掲載された」。その記事では、パーキンソン病が直る薬を持っている。その薬による治療を受ければ必ず直るという趣旨のことが書かれていた。父親は、なにがなんでもこの医師の治療を受けさせたいと思った。そして、4月26日夜の夜行列車で札幌まで出た。

 病院についたのは、夜中の10時を過ぎていた。そのまま病院に入院し、翌日午後M医師による診断を受けて薬の投薬を受けた。付き添いは不要と言われて帰宅した。しかし、5月7日だったと記憶しているが、死亡した。

 5月4日ころ病院から付き添いが必要と言われて母親が付き添いに行ったところ、自分で歩いて入院した息子は、ベッドの上で意識不明状態であった。母親の顔を見た息子は、「毒を飲まされた」と訴えた。

 パーキンソン病では死なないと聞いていた。

 父親は、自分がM医師のところに連れて行かなければ息子は死ななかったと、自分を攻めた。

 父親は、M医師からカルテをもらって、私のところに持ってきた。

 私は、知り合いの医師にそのカルテを見てもらった。

 そうすると、そのカルテには、投薬した薬ではなく、従前投薬を受けていた薬による治療を受けていたと記載されていた。少なくとも、カルテには実際投薬した薬は記載されていなかった。

 訴訟を提起した。

 なんと、驚くべきことに、別にカルテが2種類証拠として提出された。

 一つは、M医師のカルテ。それは、全部が横文字で書いてある論文のようなカルテであった。

 もう一つは、入院している病院の院長が記載したというカルテで、毎日、息子を診察していたと記載されていた。ちょうど、一枚で「死亡」までが記載されていた。

 夜中の10時ころ病院に着いて、父親が寝る支度をして息子をベットに寝かせ、父親は、ホテルに行って泊まるため病院を後にした。

 驚いたことに、院長のカルテには、病院に着いた日に、院長が息子の尿をとったり血液をとったりしたという記載となっていた。看護婦を連れず、院長自身がおしっこをとったり、血液をとったりしたということは、考えられなかった。

 院長は、大学の同級生のM医師にベットだけを貸しており、整形外科が専門で、パーキンソン病の治療には全く関与していないということだった。これは、広く知られた事実だった。

 M医師のカルテには治験薬を投与したということが記載されていた。治験薬の量は、通常投与する量の10倍以上という数量が記載されていた。つまり、従前の治療薬と同じ量の投与をしたという記載なのだ。ちなみに治験薬は無料であった。院長のカルテには、ラッセル音があったとの記載があったが、M医師のカルテには、「マアマア」(これは、正確な記憶ではない)という心臓の異常音の記載があった。しかし、M医師は、これは肺の異常音の記載だと強弁した。

 それでは、そのようなことが書かれている教科書があるのかと聞いても答えてはくれなかった。

 私が相談をした医師は、カルテに現実に投与した薬ではない薬を投与したと書くことは医師法に違反することだと言っていた。

 パーキンソン病で死ぬことはないが、これは、パーキンソン病で死亡した希有な事例だとM医師は法廷で証言した。

 私は、それなら、なぜ解剖してパーキンソン病で死亡した希有な事例として学会に報告しなかったのかと聞いたが、それに対する答えは覚えていない。

 最高裁まで戦ったが、負けた。

 ところで、次の事例は、大学の医師による手術の瑕疵による死亡事例の勝訴判決のメールである。

 傷害致死ということの刑事告訴もしたということだが、それは、起訴にはならなかったという。判決でも、故意による傷害致死は認められなかったというが、きわめて厳しい過失を認めているという。

 私が経験した前記事例は、20年位前のものだ。パーキンソン病についてもその後、次々と新しい治療薬が製造販売されていると聞く。

 下記メールは、ご了解を得て転載させていただく。

「私たちの父は平成9年4月に大学病院で肝臓癌の切除術を受け,その15日後に亡くなりました。医師の対応に不審を抱いた私たち遺族は,証拠保全で入手した資料などの調査分析を進め,担当医たちは本来行うべきでない手術を患者・家族をだまして強行し,その術中に大出血を引き起こしたとの結論に達しました。

そこで私たちは,本件を刑事告発するとともに,民事裁判でも被告大学と被告医師たちの責任を追及して来ました。検察の担当者の消極的対応のため残念ながら刑事告訴は不起訴に終わりましたが,民事裁判の方は東京地裁で昨年12月24日に判決言渡しがあり,本件肝臓癌切除術に関与した被告医師4名と被告大学の損害賠償責任を認めました。この判決は翌25日の読売・毎日・日経・産経・東京各朝刊で報道されました。

同判決は理由の中で,「適応性が乏しく大量出血の危険性があったから,主治医と執刀医には本件肝臓癌手術を選択し実施してはならない注意義務があった。」「主治医と執刀医は本件肝臓癌手術を選択し実施してはならないのに,虚偽説明により患者・家族を誤った判断に誘導し,本件肝臓癌手術を選択し実施して患者を死亡させた。」と判断しています。その他にも,原告の事実解明費用の負担を被告に命じるなど注目すべき判断があります。

私たちは,被告医師の行為は故意の傷害致死であると主張していましたが、被告医師が父を傷害しようとする動機が不明であるとして,裁判所は過失責任のみを認めました。そうとしても,本件が単なる過失とは異なる,より悪質な犯罪行為であるとの論旨がはっきりと示された判決です。

私たち遺族は,医療過誤の問題に取り組んでおられる方々にぜひ広く本件と今回の判決を知って頂きたいと考え,このメールを差し上げる次第です。

なお,本件について詳しくはホームページ
http://homepage3.nifty.com/malpractice/

をご覧下さい。判決の全文や総括なども掲載しております。」