なんでお金が借りられたの?
  自首するほかないんじゃないの?



 私は、いわゆる「短期・小口」と称する異常高利ヤミ金融からお金を借りたことから、離婚されたという女性であるA子の相談を受けた。

 A子は、貸金業者20件から約500万円位の借金をした外、短期・小口10件から借入をしていた。

 A子の借入は、平成12年からであった。

 平成12年からの借金にしては、貸金業者からの借入件数が多い。

「あなた、これ以前にもお金借りたことがある?」

「はい、破産しました。」

 多重債務者の借金を、親族が一括返済するなどした場合、すぐに、「再発する」ので、このような質問をしたのだ。ところが、「一括返済による整理」ではなく、「破産」という返事だった。

「何時、破産したの?」

「平成10年です」

「平成10年?」

「はい」

「名前が変ったとか、住所が変ったということあるの?」

「ありません」

「それだったら、あなた、お金、借りられなかったんじゃないの?」

「あの、生年月日を変えました」

「あなたの身分を証明する、保険証とか、免許証などがいるでしょう?」

「電話で、コピーでいいところから借りました。生年月日を変えて、何回かコピーして送りました」

「そんなこと、誰に教わったの?」

「あの、借入の申込をしたときに、断られて、新聞に書いてあるところに電話をした時に生年月日が違うと貸してもらえると言われたことがあったので」

「生年月日を変えて、お金を借りるというのはどういうことか、わかるの?」

「はい、詐欺だと思います。」

「ふーん、それにしても、あなた、今年の4月から6月、9件、合計200万円以上借りているわよね」

 私は、A子が書いてきた一覧表の中から、4月、5月、6月借入分を抜き出して表にした。

「あなたが、すでに10件以上借りている段階で、わずか3ケ月で、こんなには貸してくれないと思うよ。どういうことなの?」

 A子は、黙っていた。そして、言った。

「ここに書いている短期の外にも、借入があって、その支払があったのです」

「そんなこと聞いてないでしょう。そもそも、借りられないんじゃないか、ということなの」

 暫く、下を向いていたA子は、意を決したように話した。

「娘の名前で借りました」

「えっ、この平成7年産まれの娘の名前?」

「はい」

「年令は、どうしたの?」

「生年月日を変えました。昭和48年生というふうに」

 私は、ここまで聞いて、淡々と、話してるA子の顔をまじまじと見つめた。

「あなた、これは、やっぱり、自首するしかないんじゃないの?」

「自首しました」

「何時?」

「えっと、この前の月曜日ですから、7月1日です」

「そう、それで、警察で、どう言われたの?」

「今、来てもらっても困る。帰ってくれと言われました。」

「その外には、何か言われたの?」

「弁護士さんに相談しなさいと言われました。」

「それなら、何で、最初から、正直に、誰の名前で借りたとか、言わなかったのか。これ、全部、自分で、自分の名前で借りたように書いてあるでしょう」

 私は、怒るのも忘れて、愕然とした。

 夫に『内緒』で、サラ金を借り、一度、夫が銀行から300万円を借りて返済したという。

 その後、再び、夫に『内緒』でサラ金から金を借り、平成10年に自己破産したという。

 そして、今回、また、借金をし、夫は遂に、「離婚する」と言ったという。

 何で、A子が、又、金を借りたのか。その理由は、親族から借りていた金を返すように言われたことだという。

 多重債務者が、簡単に破産をすることによって、今度は犯罪者になるという、典型的な事例である。

 A子の場合、名義が平成7年生の娘であることから、現実の被害を受ける人はいないが、名義借りなどの場合は、真面目な第三者が被害者となることも多い。

 多重債務者相談は、千差万別、弁護士を騙すつもりはなくても、弁護士に、すべてを話そうとする人はいない。

 A子が話した内容だけで、介入通知を出した場合、該当なしの回答が貸金業者からやってきて、また、振り回されることになっていただろう。

 多重債務者は、そもそもの犯罪者は少ない。サラ金さえなければ、ごく、普通の人として弁護士や裁判所に無関係に生きていく人なのだ。

 A子の相談は、改めて、多重債務者相談の困難さを、私に自覚させた。時間をかけ、借金の一覧表だけをみて、多重債務者の真実を見抜かなければ、多重債務者は、「弁護士を騙すことなんか簡単だ」と思うだろう。