確定判決に既判力はあるか?

 私は、10年以上前、全国クレジット・サラ金問題対策協議会の会議で、「確定判決に既判力はない」と発言して失笑を受けた。こんな言葉は、少なくとも、法律家たるものの発言すべき内容ではないとされている。確定判決に既判力があるということが、法的安定の最大の原則なのだから。既判力というのは、あとで、その内容についてとやかくいうことは一切できない、その内容どおりの権利が判決で認められているということなのだ。従って、既判力の範囲内だとなれば、改めて訴訟を起こして、違う判決を取得することはできないのだ。

 しかし、現実には、確定判決に既判力があるということを前提とすると、現実に惹起している多くの事態を改善することができないこととなり、酷い不正義がまかり通ることとなってしまうということが、多々ある。

 私は、もう、10数年前から、確定判決を前提として、その不合理、不正義を正すためにどうすれば、いいかに真剣に悩んだ。そして「それは、おかしい」「そんなことが許されるはずがない」という単純な動機から、いろいろなことをやってきた。そして、「確定判決に既判力はない」ということで、相談にのり、少しでも、確定判決の不合理を正すほかないと考えるようになった。

 例えば、次のような事例があった。

 主債務者Aが、100万円をクレジット会社から借りて、実弟のBが、その連帯保証人となった。

 主債務者が支払わないため、A・Bが訴訟を提起された。Bは、Aにどうするのだと言ったところ、Aは、自分が支払うから、あんたには迷惑をかけないので、裁判所に行くこともないと言った。Aは、裁判所に出向いて、毎月2万円ずつ支払うという和解をした。Aは毎月2万円ずつ、遅れることなく支払えば、利息・遅延損害金を免除してもらうという内容の和解をした。Bは、Aが間違いなく支払うと言ったため、裁判所にも出向かず、そのまま放置したため、判決が確定してしまった。

 Aは、 2万円ずつを76万円迄支払ったが、その後、支払いをしなかった。

 Bは、100万円と遅延損害金年30%を支払えという判決に基づいて給料の差押えをされた。Aが支払った76万円は、どうなったのだろうか。


 Bの給料差押えの記録を調べると、Aが支払った毎月2万円の支払いは、すべて、遅延損害金に充当されていた。即ち、100万円の30%は、30万円である。一年間30万円の遅延損害金が発生している。Aは、毎月2万円しか支払っていないので、年間支払い額は24万円である。Aが幾ら支払っても、Bの判決では、毎年6万円の遅延損害金が加算されていたこととなるのだ。

 私が相談にのり、このような不合理なことは許されないとして、残金の24万円を支払うということで和解した。(この問題には、保証の付従性という問題があり、法的に困難な解釈論があります。)

 Cは、毎月数年間にわたってクレジット会社と約束したお金を支払っていたが、その支払いをやめたところ、自分が思っていた残金よりも非常に大きい金額で、給料の差押えをされた。それは納得できないという相談があった。債権者であるクレジット会社に問い合わせたところ、5〜6年も前に確定判決があり、その遅延損害金に全部充当しているため、全く元金が減っていないということだった。

 主債務者夫婦は、クレジット会社から言われたとおりに支払っており、それで、だんだん借金が減っているとばかり思っていたのだ。




 ところで、欠席判決やこのホームページで問題している違法調停などが横行しているのですから、このような債務名義で給料の差押えをされている人も、非常に多いと思います。

 給料の差押えをされた人は、非常な怒りを裁判所にぶつけるということもあるだろう。

 特に、最高裁が、破産免責中の債権執行を認めた判決を出した後は、非常に多くの貸金業務が、我先にと給料の差押えをするということになり、その被害は大変なものだ。




 私たち弁護士は、確定判決には、既判力はない、という立場で、社会的に首肯される合理的な解決を図るべく、努力する必要があると思う。

 確定判決によって、給料の差押えをされた後でも、確定判決の問題点を指摘し、その不合理性を指摘すれば、多くの債権者が、それなりの譲歩をしてくれるということは、私の経験からも明らかだ。

 そして、裁判所が、真に、社会的弱者に対する立場から、判決制度の在り方についても改善するよう内部的に検討してくれることが望ましい。裁判所の内部で、何が問題となっているのか、私達弁護士が、外からでは容易に知ることができない事態が起きていると思う。

 そして、裁判所の職員が、まるで、「サラ金会社の下請け機関ではないか?」とか、「悪徳金融業者の手下ではないか?」などと悩むことがないようにしてもらいたい。

 社会的妥当性、この言葉こそ、消費者事件解決の「キーワード」だと思う。

 全国の弁護士会の窓口で、「確定判決による強制執行」を受けた人に対する相談が積極的に行われるようになれば、裁判所の担当者の憂鬱も少しは減るだろう。