日本の警察と犯罪処罰の在り方?

私は、8月7日、器物損壊事件の弁護人として、被告人の弁護をした。

事件の概要は、次のようなものだ。

母親のところに居候していたが、このままではいけないので、仕事を探そうと思って、6月10日に、母から5万円をもらって仕事を探しに家を出た。
バスで、約4時間位かかるところの町に行き、以前勤めていたところで働かせてほしいと頼んだが、働かせてくれなかった。別のところもあたったが、結局、仕事が見つからなかった。
母のいるところに戻ったのは6月20日だった。
その時、手元には12000円位しかなかった。病院に入院していたこともあったことから、病院に入院しようと思って受診した。受診したときに、病院に7000円を支払った。
残りは4000円位になった。
1000円位で泊まれるところに泊まったりして、22日には1200円位になっていた。
夕食をコンビニで買った。500円位だった。
夜11時ころ、泊まるところもないし、コンビニで缶ビールを買ってそれを飲みながら歩いていると、交番が目に入った。寒けがしたので、交番に入り、ビールを飲んでいると、気がイライラして交番の玄関扉を足で蹴ったところ、ガラスが割れた。
何回が蹴ったので、2枚のガラスが割れた。ガラスの値段は2枚で22,320円だった。この男性は、ガラスを割ったままいなくなると悪いと思って、交番の電話をとって道警本部に、自分がガラスを割ったことを連絡した。
ガラスを割った時間は、6月23日午前0時40分ころだった。

という事件だ。この事件について、警察は次のように対応した。

  1. 現場に司法巡査である警察官が出向いて事情を聞いた後、道警本部に任意同行した上で、緊急逮捕した。その後、逮捕状が発布されたのは、6月23日午前4時56分だった。

  2. 道警本部会計課が被害届けを6月23日に出した。

  3. 被害金額を算出するために、見積書を業者からとった。(6月23日)
    ガラス2枚11,160円×2=22,320円
    消費税1,116円
    合計23,436円

  4. 6月23日、司法巡査が、破損された表玄関引き戸ガラスの採寸についての報告書を作成した。 この報告書には、図面が一枚添付されている。

  5. 6月23日、司法巡査が被害場所の写真撮影をした。 この報告書には、現場見取図(ガラスの割れ具合を記載)と、写真4枚が付けられている。

  6. 6月26日に、被疑者を現場に臨場させて、実況見分を行った。
    実況見分調書には、10枚の写真とその説明、さらに、現場見取図2(現場付近の地図)、現場見取図3(交番内部の配置等)、現場見取図4(玄関引き戸の採寸)、現場見取図5(ガラスの割れた模様と足跡様の痕跡印象箇所が記載されている)

  7. 6月23日、交番出入口ガラス足跡様印象状況についての報告書が作成されている。 現場見取図にガラスの割れ具合の記載と、足跡様印象箇所を記載した引き戸の図面がある。

  8. 6月23日、交番の勤務状況報告(この交番に勤務していた警察官が、その時間帯、徒歩警らに指定されていたため、交番にいなかったとの報告書と交番の勤務日誌が添付されている。

  9. 6月29日、犯行状況を明らかにするための実況検分がされ、実況検分調書が作成されている。被疑者が、窓を蹴っている状況を写した写真3枚に、その説明文が付けられている。

  10. 実母の供述調書 

  11. 飲酒検知の実施をした報告書(6月23日)酒酔い・酒気帯び鑑識カード添付

  12. 6月25日、被疑者の病歴等の捜査結果に関する報告書          

  13. 道警本部本部長が告訴をした。(6月25日)

  14. 7月3日、被疑者の刑事責任能力等の再捜査結果についての報告書

 以上が、器物損壊罪によって起訴された被告人に関する客観的な証拠である。さらに、被告人の供述調書が出されている。

  1. 自首調書(6月23日)(警察官)

  2. 6月23日付け供述調書(警察官)

  3. 6月29日付け供述調書(警察官)

  4. 7月4日日付け供述調書(検察官)

  5. 犯罪経歴及び指名手配(通報) 前歴の捜査

  6. 前科に関する判決文

  7. 戸籍謄本

                                          

 私は、この事件を担当して、この事件が、これほどの捜査をしなければならない事件なのかとの疑問をもった。

 日本の刑事事件の処理について、起訴便宜主義という手法がとられている。
 即ち、「微罪」と称されるものや、処罰をするまでの必要がない事件については、「不起訴処分」がされる。因みに、最近の不起訴事件で著名なのは、福岡地検次席検事の不起訴処分である(国家公務員守秘義務違反容疑)。検察庁がした不起訴処分が不当であるとして、検察審査会が、起訴相当の結論を出し、検察庁が再度捜査をすることとなったと報じられている。
 因みに、器物損壊罪は、懲役3年以下、もしくは、罰金30万円以下で処罰される。
 告訴が必要である。

 この事件については、被害弁償をすれば、即ち、警察に、金23,436円を支払えば、不起訴となることは間違いと思われる。(起訴猶予処分である。)
 万が一、起訴されるとしても、略式起訴という簡易な刑事裁判で、罰金で終わるのだ。
 この事件について、これほどの捜査をして、刑務所に入れて、性格を矯正しなければならないのだろうか。

 この事件のために、司法巡査、司法警察員と言われる警察官が、何人も捜査に携わり、少なくとも、3度も現場検証をし、写真をとり、ガラスがどのように壊れたかについての図面を作成している。

 裁判となり、国選弁護人が選任され、国選弁護人が、弁護をして、刑事裁判が行われた。
 国選弁護費用は、約7万円位から9万円位だ。これは、日当等が異なるため、画一ではない。
 検察官は、懲役6ケ月を求刑した。
 弁護人の私は、罰金相当であるとの弁論をした。
 住所が不定である被告人については、保護会というところに委託し、住居を定めて、生活をしてもらい、早く稼働してもらうようにして、罰金を払ってもらったらいいのではないかと思ったからだ。

 日本の刑事事件は、急増しているという。検挙率は、20%以下だという。このような軽微な事件をこれほどまでに丁寧に捜査しなければならないだろうか。
 日本の刑事事件の在り方について、改めて、考える必要があると思った。

 皆さんは、どう思われますか。