多重債務者相談マニュアルその2
「実母から、お金を借りてほしい」と頼まれた、どうすればいいがしら?
私は、多重債務者の相談にのるとき、結婚している人の場合は、配偶者を、独身者の場合には、親に同席してもらうことにしている。
私は、多重債務者と同道してきた人に、次のような質問をする。
「あなたね、嫁さんから、実家の母親が、おとうさんが病気になってお金が足りない、必ず、返すから、ちょっと、サラ金からお金を借りてくれないか?と頼まれた。どうしたら、よいでしょうか。と相談されたら、どうする?」
この質問には、千差万別の答えがある。
「親から頼まれたのだから、貸してあげる。自分のところにお金がなかったら、サラ金から借りてでも貸してあげる。」という人。
「サラ金から借りて貸すなんて、とんでもない、断るようにいう」という人。
「どうしたら、いいか、お金が必要なことは間違いないのだから………」
私は、言う。
「サラ金から借りて貸すなんてとんでもない、断れと言っても、奥さんは、母親からの頼みを断れるかしら?」
「そうですよね」
「なんで、おかあさんは、サラ金から借りて貸してほしいと言ったのだと思う?」
「お金がないから」
「そうよね。でもね。あなたなら、どうする?」
「………」
「あなたが、どうしても、お金が必要だけど、お金がないという場合、あなたなら、どうする?」
「私は、親に相談する?」
「親から断られた。どうする?」
「我慢する」
「どうしても、お金が必要なの。我慢すればできるということではないの。どうする?」
「………、自分で借りる」
「そうでしょう。自分で借りるわよね。借金していることなんか、人に知られたくないもの。それなら、どうして、奥さんのおかあさんは、主婦であるあなたの奥さんに、サラ金からお金を借りて貸してくれと言ったのかしらねえ?」
「………」
「あなたの奥さんがサラ金からお金を借りることができるのなら、奥さんのお母さんだってサラ金からお金を借りることができるんじゃないの?」
「そうですよね。」
「そしたら、どうして、奥さんのおかあさんは、自分で、サラ金からお金を借りないで、あなたのお母さんに、サラ金からお金を借りてほしいと頼むのかしら?」
「………」
「自分では借りられないからじゃないのかなあ?」
「ああ、そういうことですか?」
「多分、奥さんのお母さんは、真面目な人なのね。サラ金で多重債務者になる人は、真面目な人なの。真面目に払うから借金が増えるの。10万円を年50%の利息で借りたら、一年間に利息を幾ら払うことになるの?」
「5万円ですね」
「そう。年50%という利息の約束は、出資法違反だけど、電話担保金融というのは、今でも年54・75%迄認められているからね。10万円借りて、一度も利息を支払わなかった。そして、10年が過ぎた。そしたら、10年後の借金は幾らになる?」
「借りた10万円と、利息が一年5万円ですから、10年で50万円で、合計60万円ですね」
「そう。それなら、10万円を電話担保金融で年54・75%で借りて、その利息の支払いを、また、同じ利息の約束で借りて10年間支払い続けたら、10年後にどの位の借金になると思う?年54・75%と言うのは、一月4500円の利息なのよね」
「えっと、一年で、54,750円ですか?」
「そうですよ」
「10年で54万7500円ですけど………」
「支払う利息も同じ金利のお金を借りて支払い続けるということなの。そうすると、
1年後には 169,587円、
2年後には 287,600円、
3年後には 487,736円、
4年後には 827,142円、
5年後には 1,402,736円、
6年後には 2,378,875円、
7年後には 4,034,289円、
8年後には 6,841,675円、
9年後には 11,602,671円、
10年後には 19,676,753円になるのよね!」
「えっ、そんなになるのですか?」
「そうなの。日掛け金融というのがあるんだけど、それは、年109.5%迄、認められているの。つまり、一月9000円。この割合で、つまり、毎月支払う利息を、また、日掛け金融で、借り続けて支払いつづけたら、10年後に幾ら位の借金になると思う?」
「さっきが、2000万円ですから、その倍位ですか?」
「1年後は 281,266円、
2年後は 791,107円、
3年後は 2,225,122円、
4年後は 6,258,524円、
5年後は 17,603,128円、
6年後は 42,511,702円、
7年後は 139,259,820円、
8年後は 391,691,188円、
9年後は 111,696,060円、
10年後 3,098,701,571円ということになるのよね。」
「30億ですか?」
「そう。なんだったら、自分で計算してみたら」
「そうですか………」
「だから、きっと、奥さんのお母さんも、誰にも言えないで、一生懸命借金の支払いをしているのだと思う。そうだとすれば、ここで、あなたの奥さんが、サラ金から20万円借りてあげることは、なんの助けにもならないの。むしろ、おかあさんをもっともっと苦しい立場に追い込むことになるのよね」
「そしたら、どうすれば、いいんです?」
「まず、おかあさんに、事情をよく聞くことよね。なんで、サラ金から借りてくれって頼むの?そんなこと頼む位なら、自分で借りたらいいんじゃないの?もしかして、おかあさん、お父さんに『内緒』でサラ金からお金借りているんじゃないの?そうだすれば、全部きれいに家族に話して、きちんとしないとだめよ」
「そうですね」
「今は、普通に考えて、こうしたらいいと思うことは、絶対しないことね。待てよと考える。そうして、いろいろなことをみんなで話し合う。それが、大事なのよね。そうしないと、よかれと思ってやったことが全部裏目に出るということになってしまう。」
「はい」
「ほんとに助けあうことと、サラ金からお金を借りてあげることは別なの。ほんとにお金が必要だけど、どうしても、お金を準備できないというときには、どうする?」
「さあ、………」
「あのね、すべての自治体で、『福祉金庫』という制度がある。そこでは、大抵、10万円位までだけど、利息なしでお金を貸してくれる。」
「そういう制度があるんですか?」
「そうよ。市町村から配布される広報というのがあるでしょう。あれをこまめに読んでいると、そういう制度のことも書いてあるわよ」