多重債務者相談マニュアルその1

「サラ金借りてはダメよ!」
「保証人になってはダメよ!」は、ダメ?

 私は、事務所にいると、毎日のように、いわゆる「多重債務者」の債務整理の相談を受ける。私と相談者の最後の会話は、次のようなものだ。

「あなたね、子供が大きくなったら、サラ金借りてはダメよ!保証人になってはダメよ!と子供に言うんじゃない?」

「はい、言います。」

「それは、ダメよ!」

「どうしてですか?」

「あなた方が、子供に、そんなふうに言うと、きっと、あなた方の子供は、サラ金地獄に落ちるわよ!」

「えっ、どうしてですか?」

「どうしてでしょうね。」

 相談者は実に、不思議そうな顔をして、私の顔を見、一緒にきた人と顔を見合わせる。

「あのね、親が借金が嫌いなら、子供が借金をするのよね。夫が借金が嫌いなら妻が借金をする。妻が借金が嫌いなら、夫が借金をするのよね」

「えっ、どうしてですか?」

 多重債務者と一緒にきている配偶者は、こういうと、極めて心外だという顔をする。そう、多重債務者の配偶者は、ほとんど「私は借金が嫌いです」と胸を張っているから、複雑な表情をすることになる。

「あのね、どんな家庭でも。だんながどんなに給料をもらっても、お金って足りないんだわ」

「そうですね」

「どんな時に足りないと思う?」

「???」

「まあ、通常の生活費はそんなこともないんだけど、やっぱり、冠婚葬祭ね。親戚で結婚式がある。不幸がある。甥が学校を卒業する。なんだかんだとあるわけよ。そんなとき、家計を預かっている奥さんは、ダンナさんに、お金がないって、なかなか言えないのよね。ちょっと足りない。3万円足りない。どうせ、自分がやりくりしなきゃいけないんだから、ちょっと借りて間に合わせよう。それで、もしもし、となるわよね。主人に『内緒』で、3万円貸してほしいんですけど。主婦が、サラ金に、主人に『内緒』でお金を貸してほしいと言って申し込んだら、貸してくれると思う?」

 ここで、いろいろな反応がある。ある人は、「主婦なら貸してくれないでしょう」という人もいるし、「3万円なら貸してくれると思います」という人もいる。

 私は言う。

「3万円は貸してくれないのよ」

 そして、しばらくして、私は、言う。

「3万円は貸してくれないんだけど、50万円、ご融資します。50万円枠があります。50万円枠を作ってともかく借りて下さい。必要の分だけご使用いただいて、残りは、すぐに返しておいて下さい。一度、枠を作っていただくと、その範囲内で、いつでも、借りたり、返したりしていただけますから、便利ですよ。と言われるのよね。」

 多重債務者についてきた人は、50万円を主婦に融資しするということに、非常に驚く。

「どおして、主婦に夫に『内緒』で、50万円も貸すと思う?」

「最後には、ご主人が払うから………」

「でも、ご主人には『内緒』なのよ?」

「…………」

「『内緒』の人は、一生懸命払うの」

「………、ああ、ばれると困るから」

「そう。ばれたら困るから、一生懸命払う。こっから借りてあっち、あっちから借りてこっち。貸してくれるところは一杯ある。」

「そうですか………」

「『内緒』が担保なのよね。」

「はあ………」

「じゃあ、子供や、配偶者が、サラ金地獄に落ちないようにするために、どうしらいいと思う?」

「………」

「結局、『内緒』をなくすればいいのよね。何でも、話し合う。家族で、困ったことや、苦しいこと、悩んでいることは何でも話し合う。そして、一人ではハンコは押さない。ハンコを押す時は、必ず、家族会議を開いてからにする。そうすれば、まあ、ひどいことにはならないわよね」