美術出版業界ウラ事情〜読者からの投稿
2007年 2月 1日
消費者信用の部屋「絵画の出品料が28万円?絵画の出品料が35万円?」について、過去に一時期、美術出版社に所属していたという人から、次ぎのようなメールがきた。
現在、国内にはこの中で名前が挙がっていた「遊美堂」以外にも同様に、本や展覧会などに掲載、出品するために数万〜数百万といったお金を
請求する美術出版社が数多くあります。
こういった美術出版社以外にも、1部新聞の夕刊に掲載されているものなども同じ方法で契約をとっています。
建前上は、国内で活動をされている作家の方(以後先生)に
- 評論家の○○先生が作品を見て評論を書きたいので誌面上で掲載させてください とか、
- こういうイベントがあって先生の作品が推薦されていますので、誌面上で掲載させてください とか、
- これこれこういった賞に受賞をされましたので誌面上で掲載させてください さらに、
- 評論家の○○先生が1度実際にお会いして話をしたいとおっしゃっていますので、その内容を誌面上で対談という形で掲載させてください
といったお願いをし、承諾された先生に対して掲載させていただくかわりにいくらかの協賛金お願いするというものです。しかし実際は協賛金名目でお金をもらうための営業です。
その証拠に、
- 評論家の人は実際の作品は見ていないです。
実際に承諾→入金があって初めて作品の写真を見て評論を執筆します。
執筆自体がゴーストの事も多々あります。 - 先生個人に対して推薦はないです。
ひたすら名簿から順番に電話をかけていっているだけです。 - 掲載しないと受賞をしたことにはならない。
受賞した賞自体がでっちあげの上、2.と同様に名簿から順番に電話しているだけです。 - 評論家の人からそんな話はきていません。
承諾をうけてから評論家の人にその旨を伝えます。
その結果当時の相場として、本への掲載はカラー1頁で大体20万前後、3分の1で10万前後でした。これにイベントや受賞が絡む場合は記念品の金額、さらに写真撮影が必要な場合は写真代、対談の場合は交通費・出張代・宿泊費などが上乗せされたものが、先生に対して協賛金(契約金)として請求をされます。
名簿の取得方法については、東京都美術館などで開催されている会の展覧会会場へ赴き図録をもらってくることが多かったです。
私が働いていたころは図録には出品者の住所、名前、電話番号等が掲載されていました。
今は個人情報保護法の関係でどうなっているはわかりませんが。。。
もらった図録に電話番号がない場合は、「104」で電話番号の問合せをして電話をしていました。
実際の支払い方法としては、
- 本が出版される前に前金として大体3分の1支払い
- 出版後に残金を分割で支払い
といった形式が基本でした。
しかし、最近は信販会社のローンが採用されていたりする場合もあるようです。さらに前金が払われると、掲載頁の拡大の電話営業を行います。
内容としては、「評論家の○○先生が他の作品もぜひ見せて欲しいとおっしゃっているので。。。」というような話をし、3分の1→2分の1→1頁。。。と、どんどん頁数を増やして行きます。だいたいが頁数を増やすと少し割安になるような設定になっているのに加えてすでに支払われた前金と相殺されるので、さらに割安間ででて新しく契約を採るよりは比較的楽に増やしていくことができます。
この手法で結果的にカラー10頁で百数十万の契約をされる先生も中にはおられます。
展覧会についても大体同じです。
展覧会の場合、会場だけは国内外のすごく立派な会場を借り、大体が出品した先生のすべてが何かしらの賞に受賞をするようになっています。
会場が立派な上、賞に受賞もするということで本に掲載よりも楽に契約を集めることができます。さらに展覧会の場合、旅行代理店にツアーを企画してそのツアー代金自体も契約金に含む形式をとったりします。会場が海外の場合はその金額も非常に高額になったりします。
こうして契約した金額の数パーセントが契約を取った人に対して歩合として給与に上乗せして支給されます。
なかには1ヶ月に1000万以上契約をとってくる人もいました。さらに1度契約をした先生は内部のリストに追加され、毎回何かしらの営業の連絡が入るようになります。
内部ではすぐに契約してくれるような先生はみなが狙っているので激しい争奪戦が行われることもあります。さらに、本の場合は本そのものが他の出版社の営業資料となるので、他の会社からも次々に電話がかかってくる自体になります。
ひどいところになると、誌面上の写真をそのまま転写して自分の所の誌面に平然と掲載するところもあります。
こういった美術出版社は数多くあるので、出品経験が何回もある先生の方は心得たもので、電話をしても大体はお断りされます。なのでこういった電話で契約をする方は、初めて出品される方がやはり多いようです。
ですので、本に掲載される多くは
- 初めて出品した方
- 営業を断れない方
がほとんどを占めています。
こうした中ではやはりお金に絡んだトラブルもあるのですが、その結果先生が所属される会の方から直接クレームが来たり、出入りを禁止されることはありませんでした。しかし中には、とりあえず何でも良いから作品を出したいと考える先生もいらっしゃるようで、喜んで契約をされる先生もごく少数ですがいらっしゃいました。
そういった先生はお得意様として展覧会の際には上位の賞が受賞されるようになっていました。
今の美術出版社の現状は大体がこのようなものです。
大き目の本屋で書籍として販売されている多くはこのような形式で作品を集めています。
感想
功なり名を遂げた人をこのような形でターゲットにしているということに、新鮮な驚きを持った。私のごく近い知り合いが、「出版詐欺」とでもいうべき勧誘を受けた。
その人は、一時、人事不省となり、すべての言語も記憶も失った。直っても寝たきりか植物人間になるおそれがあると言われたようだ。
しかし、必死で闘病し、リハビリをし、言葉を取り戻し、歩くこともできるようになった。その間、「地獄を見た」として、「川柳」を作っていた。
ある日、そのような経験したことについての体験記を募集するという記事を見た。そして「応募」した。「入選」との連絡があった。入選したが、さらに審査の上、どのような入選なのかが決まるということであった。
ところが、最終審査の前に「本として出版しませんか」という勧誘があった。
本として出版する費用は300万円近い金額だった。
その人は、私に相談をした。私は、文学作品について判断する能力を持ち合わせていないが、わずか「25頁〜30頁」の分量の川柳で、本としての体裁がとれるのか疑問だった。確かに、その人が経験した鮮烈な経験が川柳になっていた。経験した人にしか作れない内容であり、感動を覚えるものだった。
その人は、本として出版すると印税もはいるととてもよろこんでいた。
私は、知り合いのフリーライターに頼んで、意見を聞いた。 その人は、本として出版して大勢の人が購入するということは期待できないとの意見だった。
その間にも、その出版社は、300万円から250万円、250万円から200万円、200万円から150万円と企画書の金額をさげてきた。最後には75万円というところまできた。
その本の企画書には、医師等の推薦者の写真などが掲載されていた。
結局、この人は本を出版しなかった。
私は、その人に「自分史」として知り合いに配るということなら出してもいいのではないかと言った。
しかし、このようなやり方には心の底から腹がたった。
私の意見を聞いて、その人は、とてもがっくりきていた。
このような商法は許されるべきではないと思う。
特に、このような商法における「評論家」「知識人」の役割は、特に重要で責任があると思う。
破格の謝礼で、「歯の浮くような評論」を書いているのだろうか。