名義貸し事件について、割賦販売法上の抗弁の接続を認めた事例

 釧路簡易裁判所は、平成12年3月23日、ジャックスによる大型空売り事件の一部について、「割賦販売法第30条の4第1項の抗弁の接続を認める判決を出しました。


判決要旨

 被告は、抗弁事由として、本件売買契約の虚偽表示にらる無効を主張し、原告は、売買契約の虚偽表示による無効をもって立替払契約の抗弁とすることはできないと主張するので、この点について判断する。

1、割賦販売法第三〇条の四第一項は、割賦購入あっせん業者が、あっせん行為を通じて、販売業者と購入者間の売買契約の成立に関し、販売業者と経済的に密接不可分な関係にあることから、購入者に売買契約上の抗弁事由が存する場合、購入者が、割賦購入あっせん業者に対してもその抗弁を主張できるようにして、購入者を保護する趣旨を規定したものであると解される。

2、そうすると、購入者が、販売業者に対して有する抗弁を主張して、割賦購入あっせん業者に対抗することが法の趣旨に反し、信義則上許されない場合を除き、同条は、抗弁事由について特にこれを限定していないので、原則として、購入者が販売業者に対抗できる事由は、同条の抗弁事由になるというべきである。

3、被告は、割賦購入あっせん取引あるいは立替払契約の意義を理解していないのみならず、自己の氏名以外の文字の読み書きが殆どできず、本件契約についても、三善屋の社長の妻高橋〇〇あるいは、専務の妻の高橋〇〇から、羅臼町に住む嫁が姑に内緒でコートを購入するのだが、迷惑をかけないので、名前だけを貸してほしいと言われ、被告名義で契約することの意味もわからず、また、三善屋としても、支払いが滞った場合の被告の責任等について、何の説明をすることもなく、名義を貸すことが如何にも人助けであるこのような印象を与え、被告の名義使用について承諾を得た。

4、被告自身が本件各契約書に署名した事実は認めることができない。印影についても、被告宅で家族印として使用していた印鑑を高橋○○あるいは○○が被告名のかたわらに押印したものか、三善屋が用意した印鑑によって押印されたものであるのか、いずれとも認めることができない。

5、右事実によれば、三善屋は、原告の加盟店として、クレジットを利用して商品を販売しているのであるから、誠実に立替払契約の申込手続を代行すべきであるのに、立替払契約の仕組みを悪用し、その仕組み等を全く理解していない被告に詐欺的言動で名義使用を承諾させ、虚偽の売買契約を仮装したものということができる。

6、原告は、原告が民法第九四条二項の「善意の第三者」に該当するので、被告は、原告に対して虚偽表示による無効を対抗できない旨主張するが、割賦購入あっせん業者三〇条の四第一項は、信義則上同条の抗弁事由に該当しないと解すべき場合を除き、販売業者に対して生じた事由をもって、あっせん業者の善意悪意を問わずあっせん業者に対抗できるとしたものであるから、原告の主張は失当である。

 被告が原告に対して、虚偽表示による売買契約の無効を主張することが信義則に反するものでないことは前記のとおりである。