日本公証人制度について
ドイツと日本の公証人制度を比較しながらの考察
第一、初めに
ここには、日弁連消費者問題対策委員会が2004年6月付けで作成した「ドイツ公証人制度調査報告書」についての日本公証人連合会の見解が述べられているが、これは、前記報告書と一緒に読まなければならないので割愛する。
第二、ドイツと日本の公証人制度の比較
1、ドイツと日本の公証人制度の基本的相違
日本の公証人制度は、明治41年ドイツの法制にならって作られたことは事実であります。当時は登記所と同様司法省の所轄とされ、直接的には、地方裁判所に所属し、その監督を受けるとともに、管轄も地方裁判所の管轄と同じでありました。
しかしながら、その後、多少の変遷はありましたが、昭和22年、新日本国憲法の施行に伴い、アメリカの影響を受け、日本の公証人制度は、司法とは独立した法務省の所轄とされました。
その結果、交渉事務は、行政事務として、法務局の所轄とされ、現在に至っております。
ところが、ドイツの公証制度は、現在も裁判所に所属し、いわそる司法事務の色彩を強く残しており、公証人は裁判所の事務を補助する職責、司法と同じという意識が強いのであります。
また、ドイツの公証人の数は、約1万人で、日本の20倍であり、人口比にすれば、約40倍に達します。
これは、ドイツの公証人業務の主たるものが不動産取引の公正証書の作成やこれに付随する業務が主であり、会社設立、有限会社の持ち分の譲渡、遺言、株主総会決議、相続・家族関係などほとんどがいわゆる法律上公正証書の作成が義務付けられており、その件数がかなりの数になるからであります。
勿論、ドイツ公証人も法的に義務付けられていない公正証書をつくる権限はあるものの、消費者ローンや割賦販売などは殆ど作られていないようであります。
消費貸借も抵当権、不動産債務がついているため登記手続きに絡むものだけであります。
この点、日本の場合、公証人の作成する公正証書の大部分を占める債務弁済契約、消費貸借契約、遺言、不動産売買契約等は、公正証書の作成を法的に義務つけられていないのであります。
公正証書の作成が義務付けられているものは任意後見契約・規約・事業用借地権契約等数例にすぎません。
なお、日本の公正証書は、法務大臣から任命される公務員であります。
しかしながら、国からは一切の給与も貰わず、補助金等もありません。
嘱託人から貰う手数料収入のみで自己の生活費、役場の家賃、従業員の給料等を賄っている事業者であります。
それでいて、就任役場を指定され、手数料令に拘束され、守秘義務も課せられております。
しかも、只今も申し上げましたように債務弁済契約をはじめ遺言・不動産売買契約等殆どがドイツと異なり法的に作成を義務付けられていない公正証書を大多数作成しているのであります。
これは、まさに、日本の公証人が真摯に努力している結果であり、国民からいかに信頼されているかの証であるといえます。
2、不動産取引と登記制度の相違
ドイツ公証人制度で協調される教示義務、法的介護などの概念は、ドイツの不動産取引に関する公正証書についての損害賠償請求事件の判例で発展してきた概念であります。
従って、ドイツの登記制度や物権変動の考えを理解しないと、正確な意義は説明できないと考えます。
ドイツ民法による物権変動は、債権契約と物権契約が独自性をもちしかも互いに無因であります。即ち、売買契約が無効でも物件契約に影響を与えません。登記は、物権変動の効力要件となっております。
しかも、ドイツの登記制度は、わが国と同じく物的編成主義でありますが、わが国と異なり、登記に公信力があり、不動産の公示方法としてはわが国より完成度が高いのであります。
その代わり、不動産取引を行う者は、売買契約(債権契約)の他に物権契約が必要であり、また登記申請は両当事者出頭主義でかなり厳格であります。
このように登記により権利が完全に移転するため、取引は間違いが起こらないように、不動産登記を伴う契約はすべて公正証書作成が義務付けております。その結果、公証人には登記申請の代理、取引の前提となる登記簿の閲覧する権限が認められています。更には、同時履行その他複雑な法律関係で代金の授受などが間違いなく行われるよう、公証人が代金を保管し買い主に代わって支払うことまで認められているのです。
ここまで当事者の取引に関与するのは、日本では弁護士や司法書士の業務であります。
また、この複雑でコストのかかる取引であるため、ドイツでは、土地と建物は別々に取引できず、建物は、土地の構成物として独立の取引の対象とはなっておりません。
このように、ドイツ公証人制度は、一般の人が好むと好まざるとにかかわらず、公正証書の作成が義務付けられております。
そのため、裁判所が公証人に対して強い公平性を求めている結果、公証人は厳しい教示義務や法的介護義務を負わざるを得ないのであります。
日本の場合は、不動産登記制度はドイツと同じくいわゆる物的編成主義を倣ったけれども、登記原因となる物権変動については、フランス民法のいわそる「意思主義」を取り(民法176条)ました。従って、不動産登記は、物権変動の効力要件ではなく単なる対抗要件としました。
そのため、登記には公信力がなく公示制度としてはドイツに比べて完全とはいえないのであります。
しかしながら、日本においては、不動産取引には、公正証書も不要で、登記申請手続きの代理人はもっぱら司法書士にゆだねられており、印鑑(登録)証明書と委任状があれば、司法書士が簡単に登記をしてくれるのであります。(以下略)
3、代理制度による公正証書の作成の相違(略)
第三、日本公証人制度について
1、公証人の教示義務、法的介護義務について(略)
2、日本の印鑑証明制度について
印鑑証明制度は、当該印影が本人の印鑑として届け出たものと同一である旨を官公署が証明する制度であり、各自治体の条例に定められております。届出をしてある印章の遺失、盗難の場合には、直ちにその旨を届け出ることが義務付けられているのです。印鑑証明は、公正証書作成ばかりでなく、不動産登記において所有権の登記を申請する場合にも使用されております。
印鑑証明の制度は、国民の中に定着し、その制度の趣旨もよく理解され、書面の内容を見ずに実印を容易に押捺すべきでないことは常識となっています。
民事訴訟において、本人又は代理人の署名又は捺印がある時は、その文章全体の真正が推定されることになっている(民訴法228条4号)のも、捺印をした事実の重要性を前提にしているものであるのです。
この日本の印鑑証明制度をドイツの公証人にも良く理解していただくためにあえて項を改めて申し上げた次第です。
3、いわゆる集団事件について
日本公証人連合会(以下、日公連といいます)の統計によりますと、過去5年間における債務弁済契約・消費貸借契約の公正証書作成件数は平均すると毎年約20万件程度で推移しております。
このうち、代理人によるものがどのぐらいあるのか統計上で出されていないため正確な数字は挙げられませんが、かなりの割合を占めていることは間違いありません。
また、いわゆる集団事件の割合についても、同様かなりの割合を占めていることは間違いないと思われます。
ところで前記対策委員会が、主張している本人の納得しない内容の公正証書や本人の知らない間に作成されたとする公正証書、或いは債務者の認識なく作成された委任状というものが毎年何件位あるのか不明であります。
おそらく、約20万件のうちの0・01バーセントにも満たないのではないかと思います。
しかも、これは、債務者或いは、連帯保証人が一方的に主張しているだけで、これのみの理由により再販で認められたものは1件もないのではないかと思われます。少なくとも、日公連で調べた範囲では、存在しませんでした。
前記対策委員会がどのような根拠で、多数の本人の納得しない内容の公正証書や本人の知らない間に作成されたとする公正証書、或いは、債務者の認識なく作成された委任状が多数存在すると主張するのか理解出来ないのであります。
同委員会は、たとえば、SFCG(旧商工ファンド)の場合経済的弱者である債務者¥連帯保証人は、債権者の言いなりになって委任状の内容も良く理解しないまま委任状に実印を押しているのが殆どである旨主張しております。
しかしながら、果たしてそうでしょうか。
債務者等は、金融業者から金を借りるに際し、何の担保も無しに借りるのです。金利が高いということだけで、金融業者が金を貸してくれるとでも思っているのでしょうか。
金融業者も商売である以上貸付金の回収の確保を第1に考えるのがあります。
それは正に強制執行付きの公正証書を作成すること以外には手段がないのです。
会社の経営者は、勿論、商売人或いは一般の人でも社会的常識から考えて、消費者金融業者から担保も無しに金を借りる以上、もし返済できない場合には、自己の財産や給料を差し押さえられることは十分認識している筈であります。
しかも、只今も申し上げましたように、委任状に実印を押し印鑑(登録)証明書を提出することは如何に重要な事であり、且つ慎重になされる事は、社会教育を受けた成人なら当然身につけているものです。
特に、わざわざ印鑑登録をして、実印を作ることからもそのことはいえるのではないかと思います。
それですから、委任状に実印が押捺されその印鑑登録書が添付されているなら、公証人はそれを照合し間違いないとなれば、本人確認とその真意を確認したことになるのです。
|