公正証書国家賠償訴訟における国との和解や判決
公正証書に関する国家賠償訴訟について、これまで、何回も国家賠償訴訟を提起した。その中で、どのような判決がなされ、どのような和解をしたかを紹介する。
1、「公証人法に関する意見書」日本弁護士連合会昭和61年5月
現行公証人法及び公証人法施行規則の改正を提言
- 執行力を生ずる公正証書は、原則として、債務者側(債務者・保証人・連帯保証人等)は、本人が出頭して作成するものとすること
- 前記(1)の例外として、債務者側が代理人に嘱託して公正証書を作成しようとする場合には、公証人は、その各本人が公証役場に出頭できない理由、各本人と代理人との関係、その他代理権の存在について十分釈明したうえ、公正証書を作成するものとすること。(但し、代理人が弁護士である場合を除く)。
- 右2の場合には、その公正証書謄本を債務者側の各本人に書留郵便又は特別送達の方法により送達するものとすること。この場合には、現行公証人法施行規則第13条の2第1項の通知を省略することができるものとすること。
- 現行公証人法施行規則第13条の2第1項但書を削除すること。
- 右2の釈明事項については規則をもって定め、釈明の結果を書面にし、これを公正証書に連綴すること。(詳細な釈明事項提案)
2、第一次国家賠償訴訟の顛末
- 東京地方裁判所昭和62年(ワ)第6619号(原告は連帯保証人・被告は国、ライフ)
金200万円に関する金銭消費貸借契約
1989年4月 被告ライフが10万円を支払うという和解で終了
- 広島地方裁判所昭和63年(ワ)第137号(原告は、無断で名前を使われた債務者・被告は国)
1990年4月24日和解
事案の内容 印鑑の照合ミスで、本人が金を借りていないのに公正証書が作成され、強制執行を受けた。
和解内容
T 国は、本件公正証書の作成手続につき、公証人が委任状の真正の確認をすることについて十分な注意を尽くさなかったことを認め、今後このような事態の発生しないよう指導に努める。
U 国は、和解金として金40万円を支払う。
- 釧路地方裁判所平成元年(ワ)第181号(原告は連帯保証人・被告国、ライフ)
平成3年2月、和解で終了
和解内容は、原契約が締結されなかった状態に服することを意図したもので、訴え自体は取下げで終了
- 釧路地方裁判所平成元年(ワ)第193号(原告は連帯保証人・被告国、ライフ)(『裁判官!それはあんまりです!第9話)
一審・二審・最高裁まで敗訴
敗訴後、和解
- 釧路地方裁判所平成元年(ワ)第97号・同105号(原告は連帯保証人・被告は国、北見専門店会)(『裁判官!それはあんまりです!第10話)
平成5年5月25日、公証人の責任を認める内容の原告勝訴判決
平成6年5月31日、札幌高等裁判所において公証人の責任を認める判決(第97号)
平成7年5月10日、札幌高等裁判所において敗訴判決(第105号)
平成9年9月4日、最高裁判所で敗訴判決(公証人の審査義務の範囲広がる。
3、第二次、国家賠償訴訟
- 釧路地方裁判所平成5年(ワ)第172号(原告は連帯保証人、被告は国、日本信販)
平成8年3月26日判決 国に対して敗訴・日本信販の公正証書による強制執行について異義を認める・不法行為責任は否定
- 釧路地方裁判所平成5年(ワ)第202号(原告は債務者、被告は国、日本信販)
国に対して請求取下げ
日本信販は、和解金として金30万円を支払う。
日本信販の事案の内容 当初の約定返済が不可能となった債務者に対して、保証人をいれるよう要求し、再契約(準消費貸借契約)を締結して公正証書を作成しているが、貸金に関して利息制限法の制限利率による元本充当計算を行わず、立替払契約に関して遅延損害金(年6%)に違反している。前記?の事例では、当初契約では返済済であるにもかかわらず、公正証書上は債務が残っているとして請求をしてきた。
- 釧路地方裁判所平成5年(ワ)第215号・同240号事件
平成6年10月11日和解
被告 三洋電機クレジット株式会社
和解内容
被告国は、今後とも引き続き、適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
被告会社は、公正証書作成嘱託用の委任状の徴求に当たり、今後とも連帯保証人本人に対しても公正証書の作成嘱託をすること、及びその意義・内容を十分に説明するとともに右委任状を連帯保証人本人から徴求することを確約する。(被告会社の和解金10万円)
- 釧路地方裁判所平成五年(ワ)第207号・227号事件
平成6年10月11日和解 被告 商工ファンド
和解内容
被告国は、公証人法施行規則13条の2所定の通知の履行につき周知徹底を図るとともに、今後とも適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
被告会社は、これまでの公正証書作成嘱託用の委任状の記載内容に不明瞭な部分あるいは平易でない部分があったことを認め、今後、右委任状の記載内容をできる限り明瞭かつ平易なものにすることに努めるとともに、右委任状の徴求に当たり、今後とも、債務者及び連帯保証人に対し公正証書の作成嘱託をすること及びその意義・内容を十分に説明することとし、また、利息の徴収あるいは債権の取立てにあたっては、貸金業の規制等に関する法律を遵守することを確約する。(和解金20万円)
- 釧路地方裁判所北見支部平成6年(ワ)第25号・26号
平成6年11月22日和解 被告 北海道ファンド
被告会社との和解内容の一部
被告は、金銭消費貸借契約に当たって公正証書を作成した場合、当該取引が終了したときは、当該公正証書の正本に終了印を押捺した上で債務者に引き渡すことを約する。
被告が、新規に金銭消費貸借契約を締結して公正証書を書き替える場合、その新規の公正証書に本旨外要件として、「○○号の公正証書の執行力ある正本に基づく強制執行はしない」との条項を入れるよう努める。
- 釧路地方裁判所平成6年(ワ)第215号(債務者死亡後作成された公正証書・被告は国、商工ファンド)
平成7年2月15日和解
和解内容
被告国は、公証人法施行規則13条の2所定の通知の履行につき周知徹底を図るとともに、今後とも適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
被告会社は、原告らに対し、本件公正証書4通が疎外○○○○の死亡後に作成されたことについて遺憾の意を表し、今後とも、債務者及び連帯保証人に対し、公正証書の作成嘱託をすること及びその意義・内容を十分に説明することとし、また、利息の徴収あるいは債権の取立てにあたっては、貸金業の規制等に関する法律を遵守することを確約する。(和解金50万円)
- 釧路地方裁判所平成8年(ワ)第83号(原告は連帯保証人・被告は国、商工ファンド)
平成9年6月30日和解
和解内容
被告国は、今後とも引き続き適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していくものとする。
(過払いであるにもかかわらず、公正証書による強制執行で連帯保証人から取り立てた事例・返還金336万2465円)
- 釧路地方裁判所平成6年(ワ)第197号・260号(原告は、従業員が会社に損害賠償を与えたとして連帯保証人にいれられた人・被告は国、北海道ダンロップ販売株式会社)
平成7年5月23日和解
和解内容
被告国は、今後とも引き続き適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
- 釧路地方裁判所平成7年(ワ)第6号(原告は連帯保証人・被告は国、日栄)
平成7年5月23日和解
和解内容
被告国は、公証人法施行規則13条の2所定の通知の履行につき周知徹底を図るとともに、今後とも引き続き適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
- 横浜地方裁判所平成9年(ワ)第2795号(原告主債務者・被告人国と債権者)
平成12年3月16日和解
和解内容
被告国は、今後とも利息制限法・出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律、公証人法、公証人施行規則を遵守した適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していくものとする。
- 旭川地方裁判所平成9年(ワ)第220号(原告は主債務者・連帯保証人、被告は国、商工ファンド)
平成12年2月16日和解
和解内容
被告国は、今後とも引き続き適正な公正証書が作成されるよう公証 人を指導監督していく。
- 釧路地方裁判所平成8年(ワ)第40号(原告は連帯保証人、被告は国、新洋信販)
平成9年9月29日判決 新洋信販に対して金14万円を支払え。 国に対して敗訴
- 旭川地方裁判所平成9年(ワ)第220号(原告は主債務者・連帯保証人、被告は国、商工ファンド)
平成12年2月16日和解
和解内容
被告国は、今後とも引き続き適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。
- 釧路地方裁判所平成9年(ワ)第196号(原告は、連帯保証人、被告は国、新洋信販)
平成11年3月19日判決
新洋信販に対して金5万円を支払え。
国に対する関係で敗訴
- 釧路地方裁判所平成9年(ワ)第176号(原告は連帯保証人、被告は国、新洋信販)
平成11年3月19日判決
新洋信販に対して慰謝料と弁護士費用金60万円を支払え。
国に対する関係で敗訴
- 釧路地方裁判所帯広支部平成10年(ワ)第19号(原告は連帯保証人、被告は国、商工ファンド)
平成13年3月19日判決
商工ファンドに対して慰謝料と弁護士費用220万円を支払え。国に対する関係で敗訴
控訴審で商工ファンドと和解。
4、山口組系暴力団による30億円乗っ取り未遂事件と公正証書
- 1991年2月4日 Y・M 養子縁組
- 1991年4月26日 借用証書作成(公正証書の内容から推測
- 1991年5月15日 10億円の公正証書作成(債権者 K・Y)
- 1991年5月29日 20億円の公正証書作成(債権者K・Y)
- 1992年2月1日 弁護士に相談(知らない間に養子縁組されている。)
- 1992年2月18日 養子縁組無効確認訴訟提起
- 1993年10月28日 和解成立
- 1993年12月27日 債務不存在確認等訴訟提起
30億円の債務不存在・公正証書2通の請求異義訴訟提起 - Y・M、K・Yら刑事事件となり有罪判決あり
- 和歌山地方裁判所平成7年(ワ)第758号(原告は債務者とされた女性・被告は国)
委任状(資料1)
公正証書国家賠償において原告が主張した事実- 債務者の年齢・職業から考えて、10億円、20億円というというのは途方もなく巨額である。
- 金銭消費貸借契約書の添付がない。
- 金額が巨額であるにもかかわらず、返済期日が2ケ月後、6ケ月後の短期の一括返済である。
- 第一、第二公正証書が5月15日、5月29日と近接している。D 債務者が農業を営む71歳の老女である。
- 委任状の筆跡が素人目に見ても一見して「つたない」、
署名と委任事項の筆跡が明らかに違っていること。
委任状には住所の記載がない。 - 債権者の代理人や債務者の代理人が、年齢・職業・風貌からして一見して暴力団員風であること。
暴力団は、この委任状で、当初、不動産の移転登記をしようと考えて司法書士に所有権移転登記を依頼したところ、司法書士が、本人の意思確認をすると言ったことから、公正証書にすることにしたとの刑事事件における被告人の陳述があるとのことである。
5、新洋信販公正証書の委任状(資料2)
-
前記新洋信販に関する国家賠償は、すべて同じ内容の委任状による。
6、遺言に関する国家国家賠償
-
大阪地方裁判所堺支部平成3年(ワ)第67号(被告は国のみ)
平成5年5月26日判決 被告は、原告に対し、金1993万2057円及びこれに対する平成3年2月9日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
損害額の内訳
慰謝料 原告本人尋問の結果によれば、本件遺言が無効であったため、原告は、八重子ら3名から、遺産分割の調停及び遺言無効確認訴訟を起こされ、約2年間にわたり、兄妹間でタミの遺産を巡る骨肉の争いを余儀なくされ、少なからぬ精神的苦痛を被ったことが認められる。社会的に信用されるべき公証人が初歩的な過失によって無効の公正証書を作成した本件においては、原告の慰謝料請求を肯認すべきであり、その金額としては50万円が相当である。
慰謝料100万円
遺言が無効であったがために支払を余儀なくされた金員
金1843万2057円