ああ、驚いた!
そんなに相続債務を払わなければならないの!

サイト掲載: 2010年 9月 14日

 Aさんは、突然、ノースパシィフィック株式会社というところから、「催告書」という書留郵便物を受けとった。
 その内容は、およそ次のような内容だった。

 父親が、北洋銀行からお金員を借りていた。
 平成13年7月に死亡した母親が、父親の連帯保証人になっていた。
 ノースパシィフィックは、平成22年1月15日に、北洋銀行に、2,944,206円を代位弁済した。
 ノースパシィフィックは、担保になっていた不動産を売却し、配当金として1,536,500円受け取った。
 残債権額が、金1,407,706円である。
 母親の法定相続人であるAさんに対して、上記残債権額及び金2,944,206円に対する平成22年1月16日から平成22年7月14日まで、年14%の割合による遅延損害金203,270円の合計金1,610,976円と完済日まで年14%の割合による遅延損害金を弁済していただきたい。
 本書到達後1週間以内に、ご連絡がない場合には、やむを得ず相当の手続きをとりますので、あらかじめご承知おきください。

 Aさんは、3人姉妹の一番下だった。この手紙をみて驚いて、姉二人に聞いたところ、姉のところには、なんの手紙をきていないということだった。

Aさんが支払わねばならない相続債務は幾らか?

 Aさんが、姉二人とともに、相談にきた。
 私は、驚いた。Aさんの母親は、平成13年になくなっているが、そのとき、3人の娘は、みな未成年だった。
 母親の相続人は、父親と、娘3人だから、相続割合は、次のようになる。

  父親  2分の1
 娘達全員で2分の1だから、一人当たりは、6分の1となる。

 ノースパシィフィックが、母親の相続債務として主張している金額の相続割合による一人当たりの債務は、次のようになる(遅延損害金は別とする)。

1,407,706円÷6=234,618円

 ノースパシィフィックは、Aさんが、母親の相続債務として支払わなければならない金額は、元金で234,618円しかないのに、140万円以上支払えと主張し、もし、支払わなければ相当の手続きをとると脅しているのだ。

相続債務が幾らかもわからず、請求するの?

 私は、ノースパシィフィックが、なぜ、このような理不尽な請求をしたのか聞きたいと思って、ノースパシィフィック担当者に電話を入れた。
 ノースパシィフィックの担当者の話は、もっとひどいものだった。

 相続債務が、分割債務となることを知らなかったようだ。
 私が、「相続債務は、分割債務ですよね。」と聞くと、「えっ、分割債務」と聞き返した。
 「相続人は、……」と私がいい始めると、担当者は「3人です」と言った。 私は、「父親と娘3人で4人ですよ」と言った。
 担当者は、相続人の数も知らないようだった。
 私は、担当者が何も知らないようなので、電話を切った。

 ノースパシィフィックの課長という人が電話にでてきた。
 課長は、とりあえず、相続の場合は、誰がどのように相続するかわからないので、全額を相続人、一人一人に請求するのだという。

 相続が開始した場合、被相続人の死亡と同時に、相続人に、債権債務が移ることになる。しかし、相続をしたくない人は、3ケ月以内(被相続人の死亡と、債務があることを知ったときから)に相続放棄の手続きをとることができる。相続放棄の申述を、家庭裁判所に行い、受理されれば、相続をしないこととなる。

ともかく相続人に全額請求するって?

 ノースパシィフィックの課長は、相続放棄がされると、相続割合が変わるから、相続放棄がされたかどうかわからないから、相続人一人一人に、どれだけの相続割合かは関係なく、全額を請求するというのだ。

 私は、金銭債務については、相続開始と同時に、分割債務になるのだから、相続割合以上に請求することはできないのではないかと、質問したが、それを理解するのは、すぐにはできないようだった。
 しかも、私に対して、「先生もご存知だと思いますが、相続の時点では、だれがどのように相続するかはわからない……」と言ってきた。
 私は、弁護士として、そのようなことを理解できない。確かに、相続開始時点で、亡くなったひとが、多額の債務を負担している場合、相続放棄の手続きを勧める。しかし、それは、あくまでも、相続放棄をした後のことであり、金融機関が、相続人に対して請求行為をするときには、相続人が相続によって支払わねばならない金額をきちんと特定して行うのが、金融機関の最低限必要な責任だと思う。

金融庁は、銀行や金融機関に対して、どのような指導をしているのだろうか?

 私は、あまりにも杜撰で、本来、請求することができない金額を支払えと、書留郵便で請求し、さらに、1週間という短期間に連絡がない場合には、「相当の手続き」をとると、脅すことに、驚きを隠すことはできなかった。
 ノースパシィフィックは、銀行の100%子会社と聞いている。
 このような杜撰なことを平気で行うことに、なんといえばよいのかわからない。
このような取扱が、ノースパシィフィックだけなのか、それ以外の金融機関もそうなのか、わからないが、支払い義務のない人に請求をするということは明らかな不法行為である。まして、「相当の手続きをとる」などと脅し文句までつけて、違法な請求をしたことについて、どう考えているのだろうか。