2007年1月7日
多重債務者になる人は、どうしようもない無責任な人間なのだろうか?
サイト掲載: 2007年 1月 9日
私は、多重債務者の相談にのるとき、一人での相談にはのらないことにしている。配偶者のある場合は配偶者、子どもの場合は親、親の場合は子ども、身寄り頼りがない人の場合は、勤務先の同僚等、誰か同席してもらって相談にのることにしている。
個人のプライバシーの問題なのだから、当事者だけから相談を聞き、家族などの同席を求めないという弁護士もいると聞くが、それは間違いだと思う。
多重債務者の90パーセント以上は、家族に内緒である。
最初に聞くことは、「内緒で借入をしたかどうか。」だ。
「内緒」だという場合には、「何時、家族が知ったか」を聞く。
債権者からの督促、自動車の中の掃除をしていたらカードや領収書が発見された、「今日、弁護士のところに行くので一緒にきてほしいと言われた」等々がある。
私は、相談者に騙されたことが何度もある。
夫は、出稼ぎで千葉に行っているので一緒にきてもらえない。夫が出稼ぎ先からお金を送ってこないのでサラ金から金を借りた。夫や子どもが病気になったので病院代のためサラ金を借りたと、相談者のA子さんは話した。
相談後、家計簿をつけて残ったお金を返済のため持参するよう約束してもらったが、A子さんは、全く連絡がとれなかった。
事務所から「相談を打ち切る」と話したところ、その手紙を見た夫から電話があった。千葉はに出稼ぎに行っていると聞いていた事務員は、「ご主人は千葉に出稼ぎに行っているのではないのですか?」と聞いた。夫は「私は北海道から出たことはありません。」と言った。A子さんと夫にきてもらって改めて話しを聞いた。
B子さんは、偽の夫を連れてきた。
B子さんは、妹の夫がオートバイを購入するとき夫の名前で保証人になった。義弟が約束どおり支払えなくなり、クレジット会社から公正証書が送られてきた。保証を経緯を聞くため、B子とその夫、B子の妹とその夫に来てもらって話を聞いた。B子の夫は、B子の妹に頼まれて保証人になったと話した。
公正証書で給料の差押えをされないようにするため「請求異議」という訴訟を提起することにし、B子の夫から委任状を書いてもらった。
その件は、義弟の親が返済資金を用立てることになり訴訟をせず解決した。
ところが、半年後、B子夫婦が相談にきた。どうみても、半年前に見たB子の夫とは違うように感じた。半年前のB子の夫は、もっと色が黒かったという記憶だった。
私は尋ねた。
「あなた、半年程前、私のところに来ましたよね?」
「いいえ。今日が初めてです」
私は驚いて、半年前の話をした。
B子の夫は、「初めて聞いた話だ」と言った。
私は驚いて、半年前にB子の夫という人に書いてもらった「委任状」を出して見せた。
「これ、あなたが書いたものではないの?」
「違います。」
B子さんは、夫に叱られると思って、自分の弟を、夫として連れてきたのだった。
私は、B子さんの夫の裁判を提起しなかったことにほっとした。
私が経験した最大のものは次ぎのようなものだ。
ある日、C子さんが、「私は、隣の奥さんのK子さんから頼まれてサラ金からお金を借りてあげたんですけど、K子さんが払えなくなった、私の名前で破産したのです。K子さんは、私に頼んだ分だけ破産したのですけど、それ以外の私のクレジットの分はどうなるのでしょうか」という相談を受けた。
私は驚いてK子さんを呼んで話を聞いた。
K子さんは、C子さんに頼んで借りてもらった分の支払が、毎月10万円以上になり支払えなくなったので、支払やすくしてもらうように弁護士に相談をした。相談をしたとき、C子だといって相談をしたという。
相談を聞いた弁護士は、「そんなに借金があったら払うのは無理だから破産したほうがよい」と助言をした。
K子さんは、C子さんということで、自己破産の申立てを弁護士にしてもらい、破産宣告が出た。
この状態のときに、C子さんが、私に相談をしたのだ。
私は、驚いて、裁判所に「破産宣告の取り消しの申立て」というのをした。
裁判官は、K子から事情を聞くための審尋において、開口一番、吐き捨てるように言った。
「あなた、僕の顔、覚えているでしょう。はっきり言って不愉快です」
「成り行き」という言葉がある。
このようなことで、多重債務者となりや約定返済ができなくなった人は、どんなことでもやってしまう。中には、犯罪まで行う人がいることは広く知られている。
そのためかどうか、多重債務者は、無責任でちゃらんぽらんな人が多いと思われがちである。
しかし、私は、「多重債務者は、極めて真面目な人である」と思っている。 「真面目に支払うから借金が増える」「真面目に支払うから、サラ金やクレジットが金を貸す」のだと思う。
多重債務者からの相談のとき、「あなたは、本当に真面目なんですね」という。
そうすると、それまで、落ち込んで、自分など生きていても仕方がない、自分などいないほうがよいと思っていたと思われる相談者の顔つきが少し明るくなる。
多重債務者と同席していた家族は、「真面目だなんて、そんな馬鹿な」という顔つきをしている。
しかし、本当に、多重債務者は「真面目」なのだ。
その「真面目」が、家族に内緒だから、なんとしても「家族にばれないように」という強い願望に支えられているからなのかはわからないが、本当に「真面目」に支払うから、ドンドンドンドン利子がかさんで、借金が増えてしまうのだ。
「真面目」な人ほど借金が多くなるというのが、現実だと思う。
この「真面目」がこのような形ではなく、「収入の範囲内で上手にやりくりする」という方向で生かされるようにすることが、多重債務者を含む家族の生活を守ることになるのだということを、再認識する必要があると思う。
そのような真面目な多重債務者が、自己破産により借金がなくなった後、再び借金をしないように、どうするかが今後の問題として最大に重要なことだと思う。