高松国賠に判決!調停には「広範な裁量権がある!」
調停手続における透明性とは?
高松地方裁判所は、平成15年1月20日、調停手続に関する違法を問う損害賠償事件に対して、「判決」を言い渡した。高松国賠は、多重債務に陥った自営業を営む者が、なんとか破産をさけ、頑張って任意整理をしたいと思って、「わらにもすがる思い」(本人の証言)で、インターネットで知り合った人に助言を受けて、特別調停を申し立てたところ、2回目で「突然、打ち切り」と言われたため、どうすればいいかわからず、再び助言者に相談をしたところ、ともかく、債務整理の一般調停を申し立てるほかないとの助言を受けて、一般 調停を申し立てたところ、あまりにも理不尽なことを言われたため、このままでは、公平な調停を受けることができないと思って、調停を取下げ、特別調停・一般調停の手続で受けた損害賠償(精神的苦痛を含む)の申立てをした事件である。
高松地方裁判所の裁判官(窪田正彦裁判長・田中和彦裁判官・空閑直樹裁判官)は、次のような判決をした。
一、特定調停
1、調停担当裁判官や調停委員は、当該調停における手続運営について、広範な裁量権をゆうするというべきであるから、当該調停担当裁判官や調停委員がした手続の違法を理由に国家賠償を請求することは、これらの者が、当事者に損害を加える目的で違法な手続をした場合など、実質的に見て、当該調停手続がもはやあっせんによる紛争解決のためになされたものと認めがたいような特段の事情がない限り、許されないというべきである。本件特定調停に関しては、裁判官や調停委員が、原告に損害を与える目的で違法な手続をした場合など、実質的にみて調停手続があっせんによる紛争解決のためになされたものと認めがたいような特段の事情があることはなんら主張されていないから、そもそも主張自体失当である。
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原告は、特定調停による解決を望み、2回目の調停手続の終了段階で、次回期日が決められるものと考えていたところ、調停室に裁判官が入ってきて、なんら具体的な説明もなく、「調停の終了」(調停の打ち切り)を宣言されたと主張している。
裁判官と調停委員とがどのような話をしたかは、説明がなくわからないが、特定調停を打ち切られれば、たちまち、多数の債権者からの取立てにさらされることになり、自営業を営んでいる原告は、仕事をも失うはめになることは明らかである。このような苦境に追い込まれることが明白であるとの主張は、特段の事情にはあたらないということなのだろうか。
2、原告が、調停委員に、税理士が作成した「収支計算書」を交付したことを認めることはできない。税理士は、補佐人にあたるが、補佐人とともに出頭できるのは、「やむを得ない事由がある場合に限られ、弁護士でない補佐人は調停委員会の許可が必要である。本件特定調停においては、補佐人が同席しなければやむをえない事由があったと認めるに足りる証拠はない。税理士を同席させなかったことは、裁量権を超えるものとは言えず違法ではない。
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原告は、自営業者であって、給与取得者ではないため、収入をどのように判断するのか、調停できちんと説明できないので、税理士に、事業の実態がわかる「収支計算書」を作成してもらって、税理士に、毎月どの位の金額なら支払えるのか説明してもらったほうがよいと助言されたことから、税理士に収支計算書を作成してもらって、調停に持参し、税理士も裁判所にきているので、同席させてほしいと頼んでいる。
例えば、調停委員は、原告が、家賃が73,000円であるのに、1ケ月の収入・支出を記入し、毎月の返済資金が幾らにあるかを記載した家計票に、「33,000円」と書いて、4万円を少なく書いていたと訴訟で主張した。しかし、4万円は、自営業における必要経費ということで、自営業の決算関係書類に記載されている。
原告の自営業は、店舗を構えて種々の経費がかかるというものではなく、自分だけで、請け負った仕事ができるものである。
調停委員が、真面目に、原告の特定調停に取り組もうと意思があるならば、税理士の同席を求めて、収入・支出関係を聞き、毎月の返済資金がどの程度になるのかを聞くのは、特定調停における「最も重要な事実」ではないだろうか。
税理士が、裁判所に出向き、税理士作成の「収支計算書」を持参している原告に対して、「収支計算書」も見ようとせず、税理士の同席も認めないのは、「裁量権の範囲を超える」違法ではないのだろうか。
国賠訴訟で提出された調停委員の陳述書では、原告のことを「給与所得者」であると誤解していたのではないかと思われる記述がある。
二、一般調停
1、原告は、調停委員らに、原告に損害を加える目的で違法な手続をした場合など、実質的にみて調停手続があっせんによる紛争解決のためになされたものと認めがたいような特段の事情があることをなんら具体的に主張していないから、そもそも主張自体失当である。
- 調停委員が「みなし弁済を有効として債務総額の確定を怠った」との主張について理由がない
- 調停委員が、原告の債務を支払義務のない第三者に強制的に連帯保証させたり、代わりに支払わせるよう指示したことを窺わせる事実は認められない。
その理由として、裁判所は、原告が、「今回、場合によっては、援助してやろうという人が現れました」「兄か、もしくは兄の仕事先の人になると思うんですけど」と申し出ているので、原告の主張に理由がないことは明らかとしている。
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原告は、債務が多額で、原告だけでは調停ができないと言われて、援助者が必要と言われたため、援助者になってくれる人をみつけて裁判所の一般調停に出ていることは明らかである。しかし、録音の内容からも、その人が、幾ら、現実に援助するのかを確定したいと、再三言っている。
原告の返済能力では、200万円が足りないというなら、それについて考えよう、毎月の返済金額で3万円足りないというなら、それを考えようと言っている。
しかし、調停委員は、原告の借金をまるごと、全部、援助者が、援助する(連帯保証するか現金を一括で出す)ということでなければ、調停ができない、と明確に話している。「援助」という言葉は、その言葉どおり、「援助」であって、「まるごと全部支払義務を負う」ということではないはずだ。
裁判所の判決の理由付は、「曲解」というに等しいと思うのは、私だけだろうか。
三、録音テープについて
1、調停室での話合いの内容を録音にとった理由と証拠に出した理由原告は、あまりにもひどい調停委員の話から、仕事の関係で、いつも、持ち歩いている小型の録音機で、調停の内容を録音した。
それは、援助者になってくれるという人が、「裁判所が、援助者が必要だなどというはずがない」「裁判所は、利息制限法での計算を行うので、取引期間が長ければ、支払金額は大幅に減るはずだ」と言った。しかし、一般調停の申立て時に、裁判所の受付の書記官が、援助者でもいなければ受け付けられない(特定調停が駄目になったと同じ日であったことから、そのように話したという)、と言われたこと、特定調停では、利息制限法による計算の結果、借金がどの位になるかの話が全くなかったこと、そして、援助者になってくれる人に、裁判所でどのような話をされたのか、説明する必要があると思って、録音をとった。
国賠訴訟において、担当した調停委員は、調停の席上話したことを悉く、「否定」する内容の陳述書を提出してきた。
そのため、原告は、現実に、調停委員が発言した内容を明らかにするために、録音の反訳書を証拠として提出した。
2、録音テープに関する裁判所の判断
本来非公開である調停委員のやりとりを違法に録音テープに録取した上で、当該テープを提出した。
民事調停手続は非公開とされている。その趣旨は、調停制度が、当事者が自由に意見を述べ会い、互譲によって平和的に紛争を解決しようとする手続であることから、手続を公開してその公正を担保するという要請がそれほど強くなく、かえって、当事者に外部の人間に気兼ねすることなくじっくりと話合いをさせるとともに、調停委員会にも事案に即した紛争解決方法を柔軟に検討させた上で、当事者と忌憚のない意見交換をさせることが相当であるという点にある。
そうすると、民事調停手続については、調停期日における発言が録音され、それが他の民事訴訟手続等において利用されるなどということは、全く予定されていなのみならず、そのようなことを許すことは、基本的に民事調停規則の趣旨を没却することとなる。
調停委員会の許可を得ることなく調停期日における発言を録音し、それを他の民事訴訟手続等において利用することは、基本的に許されるべきものではなく、従って、そのような発言を録音したテープやその録音反訳書等については、原則として証拠能力はないものとういべきである。
また、調停委員会の許可を得ることなく、本件調停期日における自己及び調停委員の発言を録音した原告の行為は、強く非難されるべきものである。
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原告は、録音してはいけないことを知らなかった。調停室や、廊下にも、録音をしてはいけないとの注意書はなかった。
私は、現実に、離婚の相談などにおいて、本人が調停を申立て、調停が不調になったので、訴訟を起こしてほしいという相談を受けた際、調停における話を録音にとって持参した当事者を複数知っている。その本人に、なぜ録音したのかと聞いたところ、自分では、調停室でいわれたことがよく理解できないので、録音にとって、それを聞いてもらってアドバイスしてもらっていたと話した。
高松簡易裁判所において、調停の申立人に対して、「録音してはいけない」と注意したにもかかわらず、録音したというならば、「違法」だとか、「非難されるべき」というのも理解するが、そのようなことを何も言わずに、このように強く非難することは非常に問題ではなかろうか。
本件において、調停委員の陳述書には、原告が、「このように言われた」と言ったことについては、悉く否定する内容の陳述書が提出されている。
調停委員は、「裁判の証拠とする陳述書」で嘘を言ってもいいのだろうか。
3、裁判所が、本件で例外的に証拠能力を認めるとした理由
- 原告は、法律の専門家ではないから、録音した当時、「録音をしてはいけない」ということを十分に認識していなかったものと推認できる。
- 原告において、調停委員に対して、過度に誘導的な発言をしたり、強制的に一定の発言をさせるなど、著しく反社会的な手段を用いたような事情は認められないこと。
- 民事調停手続において証拠として提出された場合の証拠能力について、裁判例や学説において正面から議論されていたものとは言い難いこと。
- この録音は、調停手続の相手方の発言が録取されているものではない。この録音テープは、原告の主張を裏付けるというよりは、かえって、原告に不利な証拠と評価することができるものであること。
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調停委員が、現実に調停において発言した内容を悉く否定する内容の陳述書を提出した。
そのため、録音テープの反訳書を証拠として提出した。しかし、それは、原告に不利な証拠であるという。
調停委員が、現実に調停において発言した内容を否定するような陳述書を出したことは、法的には、なんの問題もないのだろうか。