大分地方裁判所、調停成立困難の
多重債務者に大分県貸金業協会の
紹介を認め、今後中止する旨回答する!

 日本弁護士連合会は、2001年5月8日、貸金業協会による債務整理事業に多くの問題があるとして、中止を求める意見書を採択し、日弁連会長名で全貸金業協会に意見書を発送している。
 ところで、大分簡易裁判所では、多重債務者の申立てる調停において、調停が成立しない場合などに、調停の席上で、調停委員が、大分県貸金業協会が行っている債務整理をしているという事実があったため、大分の弁護士が、大分地方裁判所に次のような申入れをしたということである。

 大分県貸金業協会は、1995年頃から「債務整理事業」を行っておりますが、利息制限法を用いず業者主張残額を前提に単純分割し、夫婦、親子を相互に連帯保証させることなどに特徴があります。多重債務者に利息制限法による解決があることを知らせない点、弁護士が関与せず、業者から選任された委員が整理を行うことが弁護士法違反に当たるのではないかという点など、多くの問題を抱えています。
ところで、大分簡易裁判所における特定調停又は債務整理調停において、調停委員が申立人である多重債務者に対して、大分県貸金業協会に相談に行くことを勧めているという事実があると認められます。

 大分県貸金業協会苦情処理委員長が、「裁判所の調停係からたくさん紹介をいただいております」と公言していた(公判廷における証言調書があります)ことから、不審に思っておりましたが、先日、「現在調停を申し立てているが、調停委員から新聞広告を見せられて、大分県貸金業協会に相談に行くよう勧められた」との情報提供がありました。
しかし、これが事実なら大問題であると言わざるを得ません。
貸金業協会の多重債務整理事業に多くの問題があることは、上記のとおりですが、それ以上に簡易裁判所の調停委員には、申立てをして来た多重債務者の債務整理に公平な立場から誠実に取り組むべき職務上の義務があるにもかかわらず、その職務を放棄して、貸金業者団体の債務整理事業の利用を勧めるということは、不公平であり、かつ、職務の放棄と言わざるを得ないからです。

 貴職におかれましてもは、直ちに、全調停委員に対して、このような事実の有無を調査し、事実であるとすれば、早急に改善されるよう措置を高じられますことを強く求めるものです。




大分地方裁判所所長からの回答(平成13年6月4日付け)
 拝復、5月25日付けの調停依頼について調査した結果は、下記のとおりです。敬具

 平成12年3月ころまでは、複数の調停委員が調停の成立の可能性がなくなった段階で、大分県貸金業協会(以下「協会」という)が債務整理を行っていることを教示していたことがあったようである。しかし、その後、調停係職員と主だった調停委員との話合いの中で、そのような教示をすることは、あたかも裁判所が調停事件の処理を放棄したと誤解されるおそれがあるとの観点から、取りやめることになったものの、必ずしも全調停委員に周知徹底されなかったため、最近まで若干の調停委員が同様の教示を続けていたことが判明した。
今回、改めて、前記の趣旨を全調停委員に徹底させたい。


多重債務者にとって、最後の砦としての裁判所の調停において、調停委員が、債権者である貸金業者の団体を紹介するということに、愕然とする。
ここでも、本来、なんの責任もない多重債務者の周りのもの(夫婦・親子)に、新たな債務を負担させるという悲劇、そして、法律上当然に主張できる可能性がある利息制限法による解決を認めない団体に、多重債務者を紹介するということが、裁判所の手によって公然と行われていたということに驚きを忘れて、悲しくなる。