公開質問書



 近年、いわゆる多重債務者問題の急激な増加の中で、簡易裁判所で行なわれる「債務額確認調停」「債務分割弁済調停」等の名称で行なわれる「調停」は、いわゆる「多重債務者の債務整理のための調停」として、極めて多数の利用がされています。即ち、これらの調停は、多重債務に陥り毎月の約定返済を行なえば到底生活ができないという状態に陥っている多重債務者に対して、毎月の返済額を小さくし、利息等の負担を軽くして、債務の返済に努力するために、行なわれるものであります。それは、いわゆる利息制限法を大幅に超える高利に基づく約定返済を、利息制限法に定める制限金利により元本充当計算を行なった結果算出された残元金に迄減額させ、多重債務者が返済不能時点で支払っている毎月の莫大な額の返済を、多重債務者の生活を破綻させない程度の支払に減額させるという重要な役割を果たしており、これら調停の利用は、急激に増加していると言われています。
 裁判所は、多重債務者がこれらの調停を利用しやすくするため、手続の簡易化を図るなど種々の努力をしてきたことは、広く知られた事実であります。
 これら調停において、簡易裁判所の調停委員や裁判官が、非常な苦労をされていることと認識しております。
 ところで、現在、一部の簡易裁判所では、多重債務者の債務分割弁済調停に際して、極めて問題ある取扱がされております。
 その一例として、次のような事例があります。

「事例の概要」
 「主婦」が夫に『内緒』でサラ金から多額の金員を借りていたところ、夫名義のクレジット代金の支払が遅れていたため、クレジット会社から夫に督促があり、驚いた夫が妻に事実を確認したところ、「主婦」である妻が多数のサラ金から金員を借りていたことを知った。クレジット会社から調停を申し立てれば支払安くしてもらえるとの話を聞き、夫とその妻とは、函館簡易裁判所に債務分割弁済調停を申し立てた。

「函館簡易裁判所における調停内容」
 函館簡易裁判所においては、「主婦」である債務者と夫とが債務分割弁済調停事件に出席したところ、事情をよく知らない夫を妻と債権者との間の調停に、利害関係人として参加させ、妻と連帯して債務を支払うとの調停を成立させております。「主婦」であるため、全く独自の収入のない妻も、夫の調停に利害関係人として入れられています。
 調停成立日時は、平成10年12月18日です。

「調停申立をした多重債務者の家族の収入と生活状態」
 夫の月収は月約23万円、家族は、「主婦」である妻と平成4年7月生の長男(調停成立当時6歳)、平成6年6月生の次男(4歳)の4人家族でした。

「平成10年12月18日に成立した調停の具体的な内容」
夫が利害関係人に入れられているもの

債権者名残元金確定利息毎月支払う金額

武富士326,514円8,212円10,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1870号債務分割弁済調停事件

アコム256,973円
9,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1866号債務分割弁済調停事件

プロミス270,848円12,135円10,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1867号債務分割弁済調停事件

アース87,014円2,188円3,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1863号債務分割弁済調停事件

函館専門店会253,751円
7,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1862号債務分割弁済調停事件

ジャックス625,639円48,523円15,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1865号債務分割弁済調停事件
債権者が調停に出席しなかったため、函館簡易裁判所が17条決定が出されているもの(債務者たる妻のみが債務者となっているもの)

レイク207,486円10,435円7,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1871号債務分割弁済調停事件

三和ファイナンス126,882円
8,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1861号債務分割弁済調停事件

ダイエーOCM625,639円48,523円15,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1860号債務分割弁済調停事件
夫名義債務に関する調停で、妻がが利害関係人となっているもの

ジャックス1,034,524円86,804円25,000円

函館簡易裁判所平成10年(ノ)第1873号債務分割弁済調停事件

ライフ(不明)20,000円

(調停調書が送達されていないため内容不明)
調停の申立ては取り下げられたが、夫が保証人になり調停の席上支払方法が決められたもの(調停申立人らは、調停が成立したが調書を受け取っていないという認識であるが、裁判所に確認したところ、取下げとなっているというもの)

アイフル(不明)5,000円

パスキー(不明)4,000円


「調停の成立後の家族の生活」
 夫の手取り収入    月約23万円  家賃52,000円
 調停において決められた毎月の支払額  金141,000円
 尚、調停においては、夫の収入だけでは支払えないとして、妻の実妹が同居していたことら、妻の実妹毎月6万円を支払うということを前提としてこの調停を成立させたということです。
 調停は、裁判所調停委員と裁判官が、個別の事件につき、それぞれ調停委員会として調停にあたり、当事者(申立人と相手方)の主張を聞き、具体的な解決を図るものであり、それぞれが独立したものであって、当該事件の調停委員や裁判官でもないものが、とやかくいえるものではありませんが、具体的に成立した調停に、あまりにもひどい問題がある場合には、それらの調停について、当該裁判所や、その上級機関である最高裁判所が、一定の基準を示して、調停利用者が、不利益を受けないようにすべきものと考えます。
 そこで、当職らは、函館簡易裁判所及び最高裁判所に対して、次の質問をいたします。

  1. 本来、支払義務のない夫を、妻の債務に関する調停につき、利害関係人として参加させ、妻と連帯して支払義務を負担させることにつき、いかなる見解を有しておられますか。

  2. 本来、支払義務のない「主婦」である妻を、夫の債務に関する調停につき、利害関係人として参加させ、妻と連帯して支払義務を負担させることにつき、いかなる見解を有しておられますか。

  3. 一月の手取り収入が約23万円である4人家族を養っている夫が、毎月141,000円を支払うという調停を成立させることにつき、どのような見解を有しておられますか。

  4. 貸金業規制法においては、支払義務のない者に対する請求は禁止されております。
     貸金業者が、支払義務のない者に対して、請求をするなどした場合には、行政処分の対象となり、刑事処罰の対象となります。
     裁判所において、債権者が、「支払能力のある利害関係人をいれなければ調停には応じない」旨の主張をすることについて、どのような見解を有しておられますか。

  5. 裁判所が、調停において、原契約において支払義務のないものを利害関係人として参加させて調停を成立させることにつき、どのような見解を有しておられますか。



 この質問に対する回答は、本書面が貴庁に到達してから、1ケ月以内にできるだけ詳細にお願いいたします。

平成12年9月19日

最高裁判所   御中
函館地方裁判所 御中
質問者の弁護士  34名