その夜、友達に誘われて始めて鮭の密漁にでかけることになって、向かったところが知床の某川。
車を橋の所に止めて、二人で川の上流に向かって歩き出した。
その友達の話だと、もう少し行くと小さな小川くらいの支流があって、そこをたどって行くと
ちょっと大きな池のようなところがあり、鮭がぎっしりとその池を埋め尽くしているという。
しばらく川岸を歩くとその小川のような支流を見つけた。
そこからは、その小川のなかを、歩いていくことになったのだが、なにぶん道無き道、
その友達の後をついていくだけで精一杯。
懐中電灯で、小川を照らしてみると、鮭がきれいに三列縦隊になって、
狭い小川を上っているではないか、
「もう、いいから、こいつらをつかまえるべや。」
と言うと、
「こんなところで獲らなくても、もう少し行けば池みたいになってて作業もしやすいから
そこまで、がまんすれや。」
と、言われて、しぶしぶ、ついていくことに・・・。
しばらく行くと、倒木があって、これを乗り越えるのがまた大変、周りは自分の背丈よりも
高い雑草が生えている。そんななかを、やっとの思いで、その池までたどり着いてみると、
直径10mぐらいの池があって、そのなかには、ぎっしりと鮭がつまっていた。
思わず、「ほーっ、こらすごいなー、いるいる!!」そう叫んだその時に
「ウオー」
という熊のほえる声が5m先の草むらの暗闇の中から聞こえた。
二人は一瞬凍りついたようになってその場に立ちつくした。
「逃げるべ!!」
そう言うが早いか一緒に来た友達が一目散に走り出した。
「おぉぉぉ、ちょっ、ちょっと待ってくれ〜〜〜。」
そう叫びながら友達の後を追って走り出したのだが、友達も必死で、待ってくれるわけがない。
どんどんと引き離されていく。
自分のすぐ後ろを熊が追ってきているのではないかと言う恐怖のなか、後ろを振り返る度胸も無く、
暗闇の中、ただただ死にものぐるいで、来た道を車まで走り帰った。
このおやじさんは、この恐怖の体験をしばらく夢に見たそうである。
それにしても、行くときは乗り越えるのに難儀したあの倒木を、逃げ帰るときには、
いったいどうやって乗り越えたのか、よくおぼえてないそうだ。
こちらでは、熊が、人里近くで目撃されたりと言うことは良くあることで、
熊とばったり出くわすなんてことは、じゅうぶんに考えられることである。
もしも、バイクに乗っている時に出くわしたら・・・、
などと、考えることもあるのだが、さいわいにも自分は遭遇したことはない。