このあいだ、なんだか白鳥が見たくなってちょっと行ってみた。
白鳥達に混じって鴨達も見物客のまく餌に群れていた。
そう、あの時もそんなふうに白鳥達と一緒に、
見物客から餌を貰う鴨達でにぎわっていた・・・。
自分がまだ子供だった頃のことだ・・・。
たぶん親と一緒に、自分はここに白鳥を見に来ていた・・。
白鳥に混じって、我先にと餌をむさぼり食う鴨達の中に、
1羽だけ元気のない鴨がいて、自分はその鴨を見ていた。
病気なのだろうか・・、たぶん、このままではもうすぐあの鴨は死ぬだろう。
そう感じていた。
あの鴨を捕まえて家につれて帰って治してやりたい。
そう思った。
いったいどうやってその鴨を捕まえたのか覚えていないのだが、
帰りの車の中で、自分はその鴨を膝の上に置いていた。
確か捕まえたときは少し暴れたが、すぐにおとなしくなった。
暴れ続ける元気さえ無いくらい、その鴨は衰弱していたのだろう。
さて、捕まえるには捕まえたが、冬にやってくるこの鳥・・・。
暖めてやればいいのか、それとも冷やした方がいいのか、
そんなことさえ自分にはわからず、
帰りの車中でただその鴨を膝の上に載せて置くことしか自分は出来ないでいた。
そして、家に着いてその鴨を抱き上げたとき、
その鴨は、まるでぬいぐるみの人形みたいに、かたまっていた。
死後硬直・・・・。
「あ、死んでる・・。」
たぶん自分はそう言ったような気がする。
間に合わなかった・・・・。
生命というもののなんとはかないことか・・・。
でも本当は、間に合うとか間に合わないとか、そういう問題ではなかった。
死後硬直が始まっていたと言うことは、おそらく、捕まえてすぐあの鴨は
死んでしまっていたのだ。
捕まえなければ、あの鴨はもっと長く生きられたのではないか・・?
あの鴨は、人間に捕まってしまった恐怖と絶望のなかで死んでいったのではないか・・?
そんな思いが自分の中に広がっていたような気がする・・・。
捕まえて帰ったって、結局は何も出来やしないのに、
一時の感情に流されてあの鴨を捕まえて、結局は死なせてしまった自分の
なんと浅はかで傲慢なことに、漠然とではあるが気づいていたような気がする。
あれから何年たっただろう・・・。
今も白鳥や鴨達は見物客の餌に群がっている・・。
なんだか、少しだけ感傷に浸りながら、
自分の前で物欲しそうにこちらを見つめる白鳥と、
すぐそばで餌をむさぼり食う鴨をデジカメしてから、その場を離れた。