野付半島のとどわら駐車場にある売店に用事があって行って来た。
着いたのは朝の9時半ころだったと思う。あたりには深い霧が立ちこ
めていて、まだ観光客も見あたらない。いや、売店の前に一台だけ車
が止まっている。横浜ナンバーだ。車の持ち主は売店の中にいるよう
だ。
売店の中に入っていくと入り口のところで観光パンフレットをあさ
っている一人の女の子と一瞬目があった。あの車の持ち主だ。化粧っ
気もなく、ジャージの上下にカバンを下げている。そんな彼女の目は、
まるで人を寄せ付けようとしない、そんな目だった。
用事を済ませたボクが売店を出ると、彼女もあとを追うように出て
きて、あの横浜ナンバーの車に乗り込んだ。あたりの状況から見て、
一人旅のようだ。
車を走らせながらボクはさっきの女の子について考えていた。彼女
はどうしてあのような目をしているのだろう。傷心旅行だろうか。こ
の地で傷ついた心を癒そうとしているのか。だとしたら荒涼として寒
々しい今の時期の野付半島は彼女の心を癒してくれるのだろうか。
そういえば失恋したときに中島みゆきの曲を聴く人がいるらしい。
落ち込んだときに「重い曲」を聞くのは効果があるそうだ。だとすれ
ば、野付の寒々しい風景は傷心旅行にぴったりなのかもしれない。
ボクの車の後ろをついてくる彼女の車をバックミラー越しに見てみ
る。やはり彼女は一人だった。傷心の一人旅だ。
彼女の心は野付の風景で癒されたのだろうか。それとも、彼女の癒
しの旅はまだ続くのだろうか・・・・。
それにしても、ちょっときつい目つきをしたばっかりに、傷心旅行
と決めつけられて心が癒されたかどうかまで心配されているなんて、
彼女は夢にも思わないだろう。彼女にとってはまったく迷惑な話だ。
ボクの車の後ろをついてきた彼女は、標津方面に右折するボクとは
反対に根室方面へと左折していった。傷心旅行かどうかホントのとこ
ろはボクにはわからないが、どちらにしても彼女の旅はまだまだ続く
ようだった。