その日は快晴で絶好のツーリング日より・・。
ウエイトレスのおばさんがメニューを持ってやってくる。
レストランには自分の他、二組のお客さんのみだった。
食後のコーヒーを飲み終えてレジまで行くと、
どうやら、自分が年に一度ハヤシライスを食べに来ることを
なんだかホンワカな気持ちで支払いを済ませ、
「そうだ、ハヤシライスを食べに行こう。」
随分と久しぶりに単車で出かけられる時間が出来たので、
あのレストランに行ってみようと思ったのだ。
年に一度だけハヤシライスを食べに行くあのレストランだ。
少し遠回りをして久々のツーリングを楽しみながら
一時間ちょっとで摩周湖近くの例のレストランに着いた。
ひょっとしたらこの人、マスターの奥さんだったろうか・・。
何年か前、初めてここに来たときにマスターや奥さんと少し話をしたことがあった。
あの時は旅のライダーと間違われて、
「どちらからいらしたのですか?」
と聞かれたのだった。
「標津なんです」
自分はそう答えた。
それからどんな話をしたか覚えてはいないが、
なんだか暖かな気持ちになったのを覚えている。
なにせ、1年に一度しか来ないので、彼女がマスターの奥さんなのかどうか
忘れてしまった・・。
メニューがテーブルに置かれるより先に
「ハヤシライスありますか?」
と自分が聞くと彼女は
「ぷふっ」
と、吹き出した。
そんなにおかしな事だろうか・・・。
奥の方にカップル。25歳ぐらいの漁師風の若者と
それよりも少し年下ぐらいの若干太めでわりと地味な服装の女の子。
会話が弾んではいないが、それがむしろ二人の親密さを感じさせる。
自分のすぐ後ろのテーブルには旅人らしいおばさん二人組。
会話を聞くとは無しに聞いていると、どうも摩周湖に行きたいらしい。
だが、車が無くて、バスもすぐには来ないし、どうやら
タクシーを店まで呼んで貰うように店の人と話をしている。
そんな店内は、その中だけのんびりと時が流れているような、そんな感じだ。
自分はと言うと、ひたすらハヤシライスをほおばっている・・・。
厨房のマスターと目が合う。
にこやかに笑みを浮かべる彼は
「標津のかたですよね」
と、そうたずねてきた。
「えっ!覚えていてくれたんですね。年に一度しか来ないのに・・。」
自分がそう言うと
「この店はいつも暇なもんで、たいていのお客さんの顔は覚えているんですよ。」
彼はにこやかにそう言った。
この店の人は気がついていたようだ。
店の外に出るとやわらかな日差しが自分を包む。
振り返ってなにげに見上げた店の白壁が、暖かく輝いて見えたのは
自分の気のせいだろうか・・・。