正宗:「まだ終わらないんですか?」
少々待ちくたびれた様子で少年は瓦礫の山の上に腰掛けていた。
大事そうに胸元には大きな荷物を抱えている。
タオ:「大丈夫?荷物持ってあげようか?」
正宗:「いえ、心配には及びません。…重いって感覚はありませんから」
心配そうに覗き込んだ少女に、少年は無表情な答えを返した。
頬のあたりで切り揃えられた黒髪からちょこんとアンテナが先端を覗かせている。
そう、彼はHFR。人の姿をした機械だった。
タオ:「それにしてもこないね」
正宗:「…そうですね」
スモッグに汚れた灰色の空が彼らの上には広がっている。
暇そうに腰掛けている少女は両足をぷらつかせていた。
路地裏の暗がりに二人は身を潜めていた。
天空:「…ふぅ……何とか撒いたか?」
走り去っていく靴音を確認して、彼は安堵の息を漏らした。
ソウ:「すいません…こんなことに巻き込んでしまって……」
天空:「仕方ねぇよ、中の警備が厳しすぎた。カスタムマグナムさえありゃなんとかなったかも知れねーがな」
ぽんぽんと埃を払って天空は立ち上がる。
天空:「さて、どうする? …どっちにしろ、しばらくこの街は離れた方がよさそうな感じだな」
ソウ:「えぇ…ほとぼりが冷めるまでGateの先の何処かに潜伏するつもりです」
天空:「じゃぁ…それで決まりだな。銃は……また後で取りにくりゃいいか…」
先ほど手に入れたリボルバーをくるくると指先で回してホルスターに仕舞う。
銃よりもやはり命の方が惜しい。
或る程度のことまでならこのリボルバーでも出来る。
…もっとも、彼にとっては威力・扱い共にかなり物足りないものではあったのだが。
天空:「ところで…あんた一体何のために?」
天空の口元に白い指で触れ、ソウは言葉を遮った。
ソウ:「…それは言えません。これ以上巻き込むわけにはいきません」
釈然としないものを感じつつ、天空は灰色の空を見上げた。
頭上にそびえるはTowerGate。時間と空間の果てへと続く門。
天空:「………いこうか」
静かに彼らはその塔を目指して歩き出した。
椿:「ここは・・・?」
曇った瞳は空を見上げた。その目は光と闇しか見分ける事ができなかった。
頼りになるのは手もとの白い杖だけ。
この騒音の中では耳も役に立たない。
椿:「………?」
杖の先に感じた軟らかい感触に彼女は首を傾げた。
椿:「?・・・??」
不安そうに彼女はしばらくそれを杖の先で探るように突ついていた。
どう考えても地面や壁ではなさそうだ。
正宗:「………あの…何か御用でしょうか?」
椿:「・・・!」
抑揚に乏しいながらも困惑したような少年の声に彼女は慌てて杖を引っ込める。
つついていたのはどうやらその声の主のようだった。
椿:「…あ、……あの…その……もうしわけございませんっ!」
何度も何度もぺこぺこと頭を下げるその女性に、正宗はきょとんと首を傾げた。
正宗:「…どうかなさったんですか?」
なんで謝られているのか彼には良く理解できなかったようだ。
タオ:「何してるの?正宗君 その人だれ?」
周りを見に行っていたタオが戻ってくる。
その声に椿は振り向いた。声のする方向を見てはいるが、視線はタオの頭上20cmくらいの所をさまよっている。
正宗:「…よくわからないんですけど……何だかこの人が困っているみたいで…」
タオ:「あ、その白い杖…もしかして…目、見えてないの?」
えぇ…とすまなそうに椿はうなずいた。
椿:「あの、ジョー=ゴルンさんという方を探しているんですが心当たりはありませんか?
この付近で工場をやってらっしゃるんですが・・・」
TowerGateのポートに二人は足を踏み入れた。
天空:「じゃ、ここでお別れだ。縁があればまた会おうぜ」
ソウ:「…えぇ、気を付けて……」
二人は別々のゲートをくぐった。それ以上の言葉は彼らには要らなかった。
ひょこっと瓦礫の影から若者が顔を出す。両手には幾つかの荷物を提げて
いた。
リッキー:「って……あんただれだ?」
見慣れない女性が一緒にいるのに気がついて、彼は無遠慮に彼女の顔を覗き込んだ。
椿:「え?あ、すいません
私は神山と申します
実はゴルンさんに少々見てもらいた物があるんです」
ぺこりと丁寧にお辞儀をして彼女は言う。
リッキー:「ゴルン…ってジョーのことか? 俺そこの工場で働いてるんだけどさ。
ちょうど今帰る所だぜ?」
少年は立ち上がるとリッキーの後に続く。
この荷物、人工皮膚用の炭素繊維を工場まで持ち帰って、加工してもらえ
ば長いお使いも完了する。
タオ:「あ、そうそう!こっち近道だよ♪」
走り出した少女の背を追い、彼らは道を急ぐ事にした。