ミッションノベルNo-1

To Wepon Tower... 第2話



 NorthGateを数人が通行している人の流れの横で、考えこむ正宗・・・
だが、それほど時間も経たずに、二人の顔へ視線を向けた。

正宗「・・・では、とりあえず別の店で買いましょう。質がいい物ならば構いませんので」
リッキー「オッケー。じゃ、またどっか探すか」

 その言葉を聞き、リッキーは壁に付いていた案内板のタッチパネルを操作しだした・・・
その様子を見て、タオが口を挟む。

タオ「私の知ってる店、紹介しようか?それなりに安いと思うんだけど。お金さえ持ってるなら、軍用の抗菌完璧で丈夫な炭素繊維も手に入るよ・・・高いけどね」
正宗「一応資金はある程度渡されているんで、少々値が張っても構いませんよ?」
タオ「そう、じゃ決まりっ」

 そう言って、タオは早速裏道へと入って行く。

タオ「こっちこっち。近道していくけどちゃんと案内してあげるから」
正宗「はい、お願いします」
リッキー「ああ・・・変なとこに連れてくなよ」

 一応クギを刺しておくリッキー。
正宗がいくら持っているか分からないが、WeponTower内とて色々な店がある。
まあ、その事はタオも良く知っている筈なので、大丈夫だろう。

正宗「でも、何処に行っちゃったんでしょうねぇ・・・ウィッテイーさん・・・」


 その頃、WeponTower中心にほど近いビルの前では・・・
天空が一人、入り口の方を眺めていた。
そして、横から来たソウがゆっくりと腰を屈める。

天空「どうだ?・・・」
ソウ「裏は・・・ガードマンが一人、ただし実弾銃を持っていました。他の侵入口は・・・」

 ソウは、とりあえず他の侵入口を探しに行っていたのだ。
天空が行けばいい、と思われるかもしれないがそれはもっと危ない。
何せ、天空がいけば偵察ではなく・・・騒ぎを起こす可能性が大きい。
本人もそれは自覚していたらしく、ソウに行かせたのだが。

天空「あんたが侵入する所はどこらへんなんだ?」
ソウ「・・・それは・・・最下層なんですが・・・」
天空「そうか・・・」

 それを聞き、意味もなく上を見上げる天空。
最上階、と言われれば上を見上げればどれほどの距離かわかるのだが・・・
最下層、と言われると・・・流石に、下を見ても分かる筈がない。
もしかしたら近いかもしれないし、遠い可能性もある。
とにかく、侵入してみなければわからないだろう・・・

天空「うーん、流石に正面はまずいかな・・裏へ行くか」
ソウ「はい」


タオ「はい、到着と」

 タオが一際元気な声を上げながら、路地から出て来る。
続いて正宗が、そしてリッキーが出て来た・・・

正宗「到着ですか?・・・予想と違い、中心部に近いのですね」
リッキー「なるほどな・・・中心部に近い、っつってもここに来るのは入り組んでるから、露店が多いって訳だな」

 あれからかなりの距離を歩いて、タオが連れてきたのはちょっとした広場だった。
正宗が言った様に場所は中心部に程近いのだが、中心部にはあまり似合わない露店が多い。
それもその筈、NorthGateからSouthGateへ、EastGateからWestGateへと交差し、中心部を貫くメインストリート「Crossroad」からはかなり離れ、路地をすり抜けてやっと来る事の出来る場所なのだ。
Crossroad沿いにビルを乱築し、ビル建築に利用出来ない土地をそのままにしていた結果、出来た場所なのだが・・・
そこに元ピジンの商売人等が住み着き、露店を開いているのだ。

タオ「えーっと、今日はいるかなぁ。あの人時々休んじゃうからね、一日一個売れればそれでいいって言って」
リッキー「・・・つまり、それだけ吹っかけてくるって訳か?」
タオ「んじゃあ、安いとこがいい?ただ軍用の炭素繊維なんてそんなモノ、ほとんど売ってないよ」

 別にリッキーが買う訳ではないが、つい口を挟んでしまう。
もっとも、それなりの素材を買うにはそれなりの値段を付けられるのは当り前だ。
軍用品の横流し品など、それなりどころではない、と言うのも至極当然だろう。

正宗「マスターから渡された資金内ならば出来るだけ品質の良い物がいいので、とにかく案内お願いします」

 そう言って正宗は、手に入りきる程の大きさの金色に輝く金属片を見せる。
先から小さな端子が伸びていて、貴金属の様な印象も受ける物だが・・・

タオ「キャッシュチップ?へぇ〜、これ、本物だよね?ここかMainGateのキャッシュチップセンター製の」
正宗「当り前ですよ。・・・多分・・・マスターが自作したって言う可能性は多少存在しますが」

 一瞬、正宗の思考能力にプロテクトがかかった・・・もちろん、二人は気付いていない様だ。
・・・まぁ、いくらマスターとは言え、そんな事はしないだろうが。

リッキー「ま、大丈夫だろ」
タオ「偽物だったら、ここの人容赦ないからね。気をつけて♪」
正宗「・・・はぁ・・・マスターの多少でも存在する良識を信じます・・・」


 天空の動きは、比喩無しに風の様だった。
裏口のガードマンが一瞬中の様子を見たその刹那、手に中に持った弾丸を指で弾くと同時に地を蹴る。
指弾は見事に利き手へと当たり、リボルバーを持つ手が緩む。
そして振り向いたガードマンの腹へと、天空の膝が綺麗に入る。
完全に急所に入り、ガードマンは気を失った・・・

天空「いっちょあがりと」
ソウ「・・・」

 地面に落ちたリボルバーを拾い上げる天空を、ボーっと見るソウ。
ソウの手には、マナの力を利用し作り上げた術力が解き放たれずに対流している。

天空「どうしたんだ?もう終わったぜ、早く中に侵入しないのか?」
ソウ「・・・あ、はい・・・・・・天空さん、強いんですね・・・」
天空「『天空』でいいぜ、さん付けなんてガラじゃねえからな。あんな奴なんてちょろすぎるぐらいだっての。・・・と、このリボルバー貰っていくか。デリンジャーだけじゃつまらねえもんな」

 そう言って、慣れた手つきで弾丸を確認する天空。
ふと、ソウが思いついた様に呪文を紡ぎ出す。
そして、倒れているガードマンに手をかざす・・・

天空「ん?・・・治癒か?」
ソウ「いえ・・・しばらくの間、騒ぎを起こされては困りますので、眠っていただきます・・・」

 ソウの手が不思議な光を発する・・・

ソウ「・・・全ての源、マナよ・・・木の誘いにて、この者を深き眠りへと導きたまえ・・・」

 重い声が響き、光がふとやむ。
と同時にソウが立ち上がり、ガードマンの足を抱える。

天空「・・・あ、そうか。ここに倒れさせてりゃすぐに見つかるもんな、よし。そこの路地にでも寝かせて置くか」
ソウ「はい。お願いします」

 こうして、二人はBiasビルへと入っていった・・・


 一方の三人だが・・・
今だに、タオの知り合いの店を探し続けていた。

タオ「ん〜・・・どこかなぁ・・・」
リッキー「見つからねえな・・・どうすんだ?」

 リッキーは少し疲れてきている様で、ボヤいてばかりになっている。

正宗「すいませーん。この辺にHFR用の部品売ってるお店は無いですか?」

 正宗は流石に疲れもなく、探しているのだが・・・
尋ねられた男は、軽く首を横に振る。
一向に、見つかる気配がないのだ。

正宗「そうですか、ありがとうございました。・・・見つかりませんね」
タオ「う〜ん、今日は店じまいしたのかな・・・」

 タオが諦めの色を見せはじめる。
と、その後を歩いていたリッキーが一つの露店の前で足を止めた。
髪に白さが多少目立つ、ご老齢・・・と言ったところか。
露店には、チタン版や超強化プラスティック、白金と合成された装甲銀。さらには・・・

リッキー「これ、結構品質のいい炭素繊維みたいだな・・・どこの炭素繊維だ?」
老人「ん?これか、一応軍用の流れもんだ。どうだ?買うか?」
リッキー「軍用・・・?・・・タオ!正宗!」

 大きな声で、二人を呼ぶリッキー。
正宗は多少小走りに、タオは普通に歩いてリッキーの元までくる。

正宗「・・・この炭素繊維、ちゃんと抗菌も完璧の様ですね。純度もかなり高い様です」

 軽く手にとる正宗。多少のスキャン能力でもついているのだろうか。
そして、タオが着いたと同時に・・・

老人「ん?タオか、というとこの二人は知り合いか?」
タオ「え?あっ!ビジュー!?ここにいたの、あちゃぁ・・・気がつかずに探し回ってたんだ・・・はは」

 そう言って、顔を抑えるタオ。
それをリッキーが、ジト目で覗き込む。

リッキー「・・・おい、もしかして探してた店ってここか?」
タオ「うん、そう。軍用品なんて置いてるのって、ここぐらいだもん」
リッキー「そう言う事を言ってるんじゃなくて、お前思いっきり素通りして行っただろうが!」

 いきなり怒鳴るリッキー。
しかし、その横で正宗が冷静に口を開く。

正宗「タオさんが見つけられなくても仕方ないですよ。この人、顔を変えた直後・・・でしょう」
リッキー「仕方なくねえ!・・・て、へ?顔を変えた・・・?」
ビジュー「ああ、良くわかったな。老人になれば大丈夫だと思ってな」

 ビジューの顔をまじまじと眺めるリッキー。
どこをどう見ても、ただの老人だが・・・
多分、正宗はサーモグラフィーなりのスキャンをして、気付いたのだろう。

タオ「顔変えるなら変えるって言ってよ、それ知らないで子供顔のビジュー探してたんだから」
リッキー「・・・子供顔かよ、そりゃ見つからねえよな・・・」
ビジュー「それが目的だからな、また『ボルドゥ』が動いて捜査しはじめたから、仕方ねえんだ」

 「ボルドゥ」とは、簡単に言うとこのWeponTowerの支配会社だ。
先ほどから軍、と言っているが、GainCityで軍と言えば、基本的にボルドゥの軍隊を指す。

リッキー「結構ヤバい橋渡ってるんだな、あんたらも」
タオ「まあね、さ、そんな事より早速炭素繊維売ってくれる?最高級の性質のをね」
ビジュー「ああ、ちょっと待ってろよ」


天空「さて、地下って事は・・・やはり、エレベーターか階段を探さねえとな」

 Biasビルへ一歩踏みいれた中は、静かなものだった。
清潔感がある作りで、役所の様な場所になっている。いや、正確に言うとこのBiasビルは役所なのだ。
ただ、一般の人間やロボットは利用しないのだが・・・

ソウ「多分、地下への通路は・・・表口にはないでしょう、あるとすれば・・・裏か、関係者のみの立ち入りを許可される場所と思います」
天空「だろうな、ま、関係者のみの立ち入り場所を探すか。一番手っ取り早いからな」

 そう言って、裏口から程近いドアのノブに手をかける天空。
だが、もちろんそう簡単に開くわけもなく鍵がかかっている。

天空「やっぱり、ンな簡単にゃいかねえか」
ソウ「待って・・・・・・この地に在りし、狡猾なる妖精よ。我に手を貸したまえ・・・」

 ソウの言葉と共に、目の前に小さな光の人影が現れた・・・
人影、ではなく妖精の様だ・・・

ソウ「お願い、この鍵を開けて」

 鍵穴を指差すソウ、すると光を放つ妖精は、その中へと消える・・・
そして、カチャ。という音と同時に光が消える。

天空「便利だな、こりゃ」
ソウ「いえ、多分ここだけしか使えません。電子ロックになると・・・この手段は」
天空「そうか、じゃ、キーを持ってそうな奴を張り倒さねえとな」


正宗「はい、これがキャッシュチップです。これで足りると思いますが」
ビジュー「ああ、何とか足りるぜ、そらよ」

 ビジューから、炭素繊維を受け取る正宗。
どうやら、キャッシュチップは本物だった様だ。・・・普通に考えれば、それが当り前だが。

タオ「んで、これでもう用事はなしって事?」
正宗「ええ、WeponTowerにはもう特に用事はありません」

 炭素繊維も上質なものを手にいれたので、後はリッキーの工場でもう少し強度なりをあげれば、人工皮膚のでき上がりだ。
つまり、もうここには用はないのだが。

リッキー「オレは帰る前に、ちょっと色々と部品とか見てまわるか。滅多に来ねえから、工場に足りない物とか買ってかねえと、仕事が辛いからな」
正宗「そうですか、では今から工場に持ち帰っても・・・」

 意味がない、と言おうとしたのだが、それをリッキーの言葉がさえぎる。

リッキー「人工皮膚制作ぐらいは、ジョーに任せていいぜ。あいつ、楽ばっかしてるからな」

 もっとも、人工皮膚制作なんてちょっとした機械を利用すればすぐに出来るのだが。

正宗「あ、そうですか・・・」
タオ「ん〜・・・じゃ、わたしはどうしようかな・・・」




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